■ 『 ラストチャンス 』 水天宮拓仄

「あ〜!腹へったぁ…」
「俺もだ」
「おまえらもかっ」
 ルフィ、ゾロ、ウソップの3人はいつもと同じように空腹で航海を続けている。3人の横には、半分仲間のナミがいる。そしてまたも呆れ顔の彼女が口を開いた。
「あんたたち、何回同じ事言わすのよ!海へ出るにはそれなりの準備が…って、カヤさんがつんでくれた食料みんな食べちゃったの!」
「うん?ああ、あれはそうだな…もうとっくに」
「バカっ!保存用のまで食べたのね!あれだけの量をよくも数日で…」
 ひたいに手を当ててナミは大きなため息をついて肩を落とした。
「保存用?」
「あったでしょ?燻製にした肉とかが」
「それは食ってねぇぞ」
 ゾロがルフィの横から口を挟む。
「よかった、あんたたちもそこまでバカじゃなかったのね」
「あれって食べれるのか!」
「バッカじゃないの!それぐらい知ってなさいよ!まったくもう頭痛くなるわ、コイツらと付き合ってると」
「じゃ、なんで付き合ってんだよ」
 ルフィがとぼけた顔でナミに聞いた。それにナミが切れる。
「あんたがムリヤリ私を巻き込んだんじゃない!」
「あ、そっか」
 思い出してルフィが麦わら帽子をとる。
「どうでもいいけどよ…そろそろ飯くおうぜ」
「もう少しがまんしなさいよ。保存用の食べ物しか残ってないのよ、すぐになくなるから…って!人の話を聞け!」
 キッチンに入って行くルフィ、ゾロ、ウソップを追うナミ。
「ナミ、これまずい」
 燻製の肉を頬張りながらルフィが告げる。またナミの肩が落ちた。
「まったく、航海をなんだと思ってんのよ…。なんで海賊になろうと思ったの?こんな事も知らないあんたが!」
 ナミの言葉を聞いてルフィが肉を飲みこみ、ニッと笑った。


「次の航海に俺を連れて言ってよシャンクス」
「嫌だね。おまえみたいなカナヅチは」
「俺が泳げるようになったら連れて行ってくれるのか?」
 うれしそうにシャンクスに問いかける。それにシャンクスは、ニヤニヤと笑いながら酒を口に運ぶ。
「そうだな…この港の対岸まで泳げるようになったら考えてやるよ」
「そりゃ無理だぜ、お頭。ここからの対岸っつたら船で何ヶ月もかかる距離だ」
 海賊団の一人が今の話に口をはさむ。
「ちくしょー!なにがなんでも俺を連れて行ってくれないんだな!」
 くやしがってルフィは酒場を後にする。明日の作戦を練らなければならない。シャンクス達がいつまでこの港にいるかもわからないし、明日は航海に出て行くかも知れない。早く、一日も早く海賊団の仲間になりたかった。
「明日こそシャンクスに航海に連れて行ってもらうぞ!」
 海賊になりたい。シャンクスと出会ってからいつも感じていたことだった。海賊がすごくかっこよく見えたからだ。自由な生活に適度なスリル、そして世界中を冒険できる。
 翌日、ルフィが作戦をやった。シャンクスたちの船で自らの顔にナイフで傷をつけて自分の勇気を示したかった。でも、シャンクスの答えはいつもどおり。その事にルフィが腹を立てていると副船長がシャンクスの気持ちも分かってやれよと告げるが、まだ納得できないルフィであった。
 この日にルフィは悪魔の実のひとつ。"ゴムゴムの実"を食べてゴム人間になり、あの山賊ヒグマとであったのである。
「あんなのかっこ悪いじゃないか!何で戦わないんだよ、いくらあいつらが大勢で強そうでも!あんな事されて笑ってるなんて男じゃないぞっ!海賊じゃないっ!」
 今までルフィが抱いていた海賊のイメージが崩れた瞬間だった。なんて情けない姿!こんなかっこ悪いのは海賊じゃない!
「気持ちはわからんでもないが…ただ酒をかけられただけだ。怒るほどのことじゃない。だろう?」
 とれた麦わら帽子を拾い上げて頭にのせながらシャンクスが笑みを浮かべる。その姿を見てルフィがまた腹を立てる。
「おい、まてよルフィ…」
「しるかっ!もう知らん!弱虫がうつる!」
 こんな情けない海賊の前から立ち去ろうとした時にシャンクスがルフィをなだめようと手を掴んだ。その瞬間、酒場にいた誰もが驚愕の事実を目撃する。そう、当の本人であるルフィでさえも…。

 それから数日、ゴム人間になってしまったルフィとあの、山賊ヒグマが酒場でまたも鉢合わせてしまった。山賊たちがシャンクスたちを笑い者にしたことに腹を立てたルフィがヒグマに食ってかかったのが原因だった。
「よし、売り飛ばすのはやめだ。やっぱり殺しちまおう。ここで」
 ヒグマがルフィを足で踏みつけながら刀を抜き放つ。村人たちから悲鳴が上がる。幼いルフィがヒグマに殺されてしまう。
 その時だった。村人の後ろから彼らが現れた。
「港に誰も迎えがないんで何事かと思えば…いつかの山賊じゃないか」
 ここで一度、ルフィはシャンクスたちに助けられたのはいいが、勝負がつきそうな一瞬にヒグマに海に連れ去られてしまう。海は、ルフィにとって憧れの場所であったが、同時に死と隣合わせの場所。ゴム人間になった今では、浮かんでいることさえもかなわないのだ。海に落とされたら最後である。
「あばよ」
 船上からヒグマによって海へ蹴り落とされたルフィ。
「くそ!くそ!」
「ガキが」
「あいつら!クズのくせに!一発も殴れなかった…!畜生!」
 海へ落ちる間、ルフィはしきりに悔しがった。あんな、クズ人間を殴れなかった己の弱さに腹を立てているのだ。大好きなシャンクスたちを馬鹿にされたというのに、そんな弱い自分を友達を言ってくれてシャンクスに申し訳ない。このまま終わってしまうのかと思うと悔しくて仕方がなかった。
「……!畜生っ!」
 ついに海へ落ちてしまったルフィ。溺れながらヒグマの背後から怪物が近づいてきてヒグマを一瞬のうちに食い殺して、次の標的にルフィと見定めた。
 泳いで逃げることもかなわないルフィに怪物がどんどんとせまる。
「だれか…!助けて!」
 助けがいるはずもないのにルフィは叫ぶ。今にも溺れてしまいそうでたべられてしまいそうなのだ。誰か助けて、まだ死にたくない!
「うわああああああ!」
 目前に怪物の口が迫る!もうだめだっと思ったルフィの肩を抱く腕がある。
「………!シャンクス!」
 助けてくれたのは、シャンクスだった。
「失せろ」
 ルフィを抱きかかえたままシャンクスは怪物を迫力ある眼で睨みつける。怪物の動きが止まる。止まった怪物をぐっと無言で睨みつけるシャンクス。
 その鋭い視線に怪物はビクリとおびえたように海へ姿を消した。
「恩にきるよルフィ。マキノさんから全部聞いたぞ」
 さっきまでのシャンクスとは一変して、やさしくルフィに話しかける。その腕の中で泣きじゃくるルフィ。色々な感情がまざりあう。
「おれ達のために戦ってくれてたんだな」
 まだ泣きじゃくっているルフィにシャンクスはいつもと変わらぬ顔を向ける。
「おい泣くな、男だろ?」
「…だってよ…!………ジャングス……!腕が!」
 平気な表情をしているシャンクスの片腕がなかったのだ。ルフィを助けたあの瞬間にシャンクスの片腕が怪物に食べられていた。
「安いもんだ、腕の一本くらい…無事でよかった」
「う……うう…!」
 その優しい言葉にルフィは、シャンクスの強さ、優しさ、海の男の偉大さを見た。そして己の弱さをやっと自覚していた。己の弱さが大好きな人間の片腕を無くしてしまったという自分のふがいなさに涙を流していたのだった。
 その日からルフィはシャンクスに航海に連れて行ってくれとせがむのをやめた。こんな弱い自分をつれていったら足手まといになってしまう。もっともっと強くならなければならない。そして、いつかシャンクスのような男になってみせると誓う。

 その日から数日後。ついにシャンクスたちと別れの時がきた。
「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!世界一の財宝をみつけて!海賊王になってやる!」
「ほう、俺たちを超えるのか…じゃあ、この帽子をお前に預ける。俺の大切な帽子だ」
 帽子をかぶせてくれたシャンクスが見れない。泣き顔を見せたくない。
「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
 そう言ってシャンクスたちは旅立っていったのだ。これがルフィと運命の出会いであった。
 この日からルフィは己を磨いた。強く強くなるために、シャンクスとの約束を果たすためにひたすら訓練を続けたのだった。
 そして…シャンクスと別れたちょうど十年が経ったある日。ついに旅立ちの日である。
「海賊王におれはなるっ!」
 ルフィの大いなる航海の始まりであった。


「ちょっと、何よ?一人でにやにやしちゃって!気持ち悪いわよルフィ」
 ナミの言葉にまた笑うルフィ。そして、ゾロ、ウソップを見てますますその笑みを深くする。旅立った時は一人きりだったのに今はこんなに強い仲間達がいる。
「で、なんで海賊なんてやってんのよ」
 さっきの質問をもう一度繰り返すナミ。その言葉に一瞬口を開きかけたがまた再びその開きかけた口元を吊り上げて笑って見せた。この強い仲間達に。
「コイツのためだ」
 麦わら帽子を撫でる。シャンクスとの約束を守るために海賊なった。いつか立派な海賊になる!海賊王になってやる!
「なによ、それ…?帽子のために海賊…?どうゆうことよ」
「教えてやらん」
 思い出を胸にルフィは瞳をゆっくりと閉じる。今でも瞳を閉じればシャンクスの後姿が鮮明に浮かぶ。そして、あの言葉も…
『いつかきっと返しに来い、立派な海賊になってな』
(待ってろよシャンクス!おれは…海賊王になるんだ!)
 そう心にもう一度誓うと、手に残っていた肉を頬張る。
「いい加減にしなさいよ!あんたたち!次の港まで何日かかると思ってんの!」
 ナミの怒鳴り声がいつものように船上に響き渡っていた。
 これからもルフィの冒険はつづいていく。そう、海賊王になるまで…


終劇