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| ■ 『 恋愛 』 水天宮拓仄 |
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海賊船・ゴーイングメリー号の会議室兼キッチンでは、サンジが少しイラつきながら朝食の下ごしらえをしている。
「ちっ…」
彼の口元には、火のついていない短くなった煙草がくわえられていた。
「オレとしたことが…クソッ!」
ペッと短い煙草をくず入れに吐き出すと、軽く床を蹴ってしまう。サンジの買い置きしておいた煙草が、数時間前・完全に切れてしまったのだ。ヘビースモーカーの彼は、煙草を吸えないためにイライラしていた。
「…まあ、ナミさんの話だと…明日の昼には次の港につくんだ。がまんすっか」
口寂しいことから、独り言をつぶやく。まったく料理に集中できない。
「あ〜あ、早く吸いてぇ」
包丁をまな板の上において、イスにどかっと腰掛けるとドアの外からドタドタを足音が近づく。サンジには、だいたいの想像ができた。
「またかよ…」
小さい舌打ちと共に、こんな言葉がこぼれてしますサンジ。イスから立ち上がって、足音の主を迎えた。
「ルフィ!もっと静かに歩け、床抜けたらどうすんだ」
「サンジ!生ハムメロン作ってくれっ」
相変わらずルフィは、人の話を聞いていない。更にサンジはイラつく。いつもなら、ルフィのわがままにも付き合ってやる余裕を見せる事ができるのに。
「ダメだな」
「ええ〜何でだよ!食いたい!作ってくれよ〜」
ぷぅっと頬を膨らませてルフィは、テーブルに腰かけて足をばたつかせる。
「メロンも生ハムもねぇんだよ!」
少し口調を荒げてルフィを睨みつける。その態度に、さすがのルフィもカチンときたのか、テーブルから降りると大声を出した。
「なんだよっ!んなに怒る事ないだろっ!」
「てめぇが毎日毎日、人の顔みりゃ"飯、飯"騒ぐからだろーが!いい加減にしろ!オレはおまえの召使じゃねぇんだ!」
一気にまくしたてるサンジ。こんなに激しく怒鳴った所を見たことがないルフィ。なんで、こんなにサンジが怒っているのかわからない。しかし、これで黙っているルフィではなかった。
「…もういいよ!バカサンジ!」
怒りと複雑な心境でルフィは、部屋を出ていった。部屋に残っているサンジに、本日何回目になるだろうか、また舌打ちが出る。
「どうしたの、サンジくん?ルフィが今出ていったけど」
「あ、ナミさん!何でもないです。ささ、ワインでもいかがですか?」
いつもの笑顔を瞬時に作って、イスを引き、ナミをエスコートする。いつも通りにナミもそのイスに腰を下ろした。
ワイングラスを受け取ると、一口飲んだ。
「ケンカ?珍しいのね」
「ああ…ケンカって程じゃないんですけど」
バツが悪そうな表情をして、サンジはナミに顔を見られないようにキッチンへ向かう。包丁を持ちなおして、途中だった下ごしらえを再開させた。
「そう?ルフィの様子じゃ、ただ事じゃないみたいだけど?」
「え…?」
「あれじゃ、そろそろゾロが来るわね」
そう、ナミが言った後にさっきのルフィよりも騒々しく、会議室に入ってきたのはゾロ。
「クソコック!てめぇ、ルフィに何しやがったんだ!」
「ほ〜らね?」
ナミが面白そうにゾロを振りかえった。ワイングラスをもてあそんで、二人の様子を見た。
「何もしてねぇ。てめぇもいい加減、あいつを甘やかすのやめろよ」
包丁を持ったままゾロを振りかえって毒つく。八つ当りをしているのは、わかる。でも、サンジはもう自分の感情をセーブできなくなってしまった。
「甘やかしてなんかいねぇ!」
「そうやって、いちいち来る事が甘やかしてるってんだよ!」
「泣きそうな顔してるんだぞ!あのルフィが!何しやがった!」
「だから、何もしてねぇってんだろ!」
ゾロの胸倉を掴んで、更に何かを言い募ろうと口が開くが、その口から何も発せられなかった。
「……ちっ」
包丁をまな板に置き、ジャケットを羽織ってドアへ向かって行く。
「おい!」
「うるせぇ!もうガキじゃねぇんだ!ほうっておけよ」
「待てよ」
「うぜぇんだよ、もう寝るんだ。離しやがれ」
最後に迫力万点の目つきでゾロを睨みつける。ゾロがサンジの胸倉をつかもうと腕を伸ばすが、ナミの一言で止める事になった。
「やめときなさいよ、ゾロ」
「…ナミ?」
そのすきにサンジはゾロから離れて甲板に出た。
「…ちっ」
もう、数えられない程の舌打ちをしてサンジは、甲板にそなえつけてあるカフェテラスに腰を下ろしていた。
一方、会議室兼キッチンに残ったナミとゾロは、イスに座ってビールを飲み交わしている。
「ったく、あのクソコック」
「単なる痴話ゲンカよ。ほうっておきなさいよ」
「だけどなぁ、ルフィがあれじゃぁつまらねぇ」
「それはそうだけど…これは、あんたがどうにかできる問題じゃないわよ」
サンジとルフィの関係は、仲間公認であった。もう、言ってもどうにもならないものだし、言ってもきかないとわかっているからだ。
「そういえば、ウソップはどうしたんだ?部屋にもいなかったぜ」
「ウソップなら格納庫よ」
「格納庫?」
「射撃の研究ですって」
「ふ〜ん」
ビールを傾けながら二人は、夜遅くまで語り合うのであった。
その次の日。ようやく、ゴーイングメリー号は、港街についた。
「着いた〜!久しぶりの陸だな!」
大きく伸びをしてルフィが船から飛び降りる。
「よし、オレは煙草と食料の買出しに行ってくる」
サンジの言葉を聞いてルフィが、振り向く。何かを言おうと口を開いた
「あ、オレ…・・
「ナミさん。ご一緒にどうですか?僕とショッピングにでも」
ルフィが全部言い切る前に、わざとセリフをかぶせたサンジ。
「……そうね〜…どうしようかしら?」
顎に指を当てて、ルフィとサンジを交互に見比べる。サンジは、あいかわらずの笑顔を自分に向けている。ルフィは一瞬、淋しそうな表情になったが見る見るうちに頬を膨らませて、拗ねてしまった。
「たまには、いいわね。一緒に行きましょ、サンジくん」
「よろこんで!」
ルフィの方をチラリと見てナミは、わざとらしくサンジの腕に腕を回す。
「ナ…ナ…ナミさん?」
戸惑いながらサンジはナミを見る。そして、一瞬ルフィの顔を見たがあえて無視することに決めた。プライドにかけて自分から仲直りなどしたくなかった。例え自分が悪いとしてもだ。いつも、ルフィに振りまわされている自分が、急になさけなく思えたからでもある。たまにはルフィもこの苦しみを味わえばいいと思った。この切ない、気持ちを知ってほしい。自分がどれだけ不安を抱いているかをルフィにも…同じ気持ちになって欲しかった。そう、恋をわかってほしい。
「さ、行きましょ。サンジくん」
「はいっ!」
拗ねた顔のルフィを残して二人は、街の雑踏に姿を消した。
港街につくと、ほとんどサンジとルフィはいつも一緒に行動していた。そう、船ではできないデートができる所なのだ。
「サンジ……」
淋しそうにサンジとナミの後ろ姿を見送るとルフィは、麦わら帽子を手に取った。こんな気持ちの時にかぶっていたくない。
「おい、ルフィ」
「なんだ?」
背後からゾロが呼びかけてきた。それにいつも通り反応して、麦わら帽子もかぶりなおした。振り向いた表情は、いつもの笑みが浮かぶ。その表情にゾロは一瞬驚いたが、ゾロの口元にも笑みが浮かんでいる。
「ウソップとこれから街の中見にいくけど、お前も行くか?」
「行くぞ!」
「よし、行こうぜ二人とも!」
ウソップがここぞとばかりにし切ろうと先頭を歩き、その後にルフィとゾロも続く。街の中心に広場があるはずだ。そこへ行けば、露店や見世物もたくさんあるだろう。
広場について、ルフィはおいしそうな食べ物や飲み物を食べ歩き、ウソップは露店の射的に腕を振るっている。ゾロに至っては、広場の木陰でいつものように居眠りをはじめていた。
一方。サンジとナミは食料品の買出しを終えて、喫茶店に入っていた。
「サンジくん、どうしてルフィとケンカしてるの?」
「…ケンカって程じゃなくて…」
ナミにまじまじと見つめられてサンジは、赤くなりながら口篭もる。ルフィと恋愛関係になってからも、やはり美しい女性は大好きであった。フェミニストにもなんら変わりがない。
「でも、今日のサンジくんはらしくないわよ?」
ケーキを食べながらフォークをサンジの目の前につきつけた。至って彼女の表情は、晴れ晴れとしている。ナミは、サンジとルフィを見守っている存在だから。色々と力になりたい。
「なに?煙草が吸えなくて八つ当り?」
ナミの鋭い読みにサンジが頷く。照れくさそうに頭をかいて、チラリと上目遣いにナミを盗み見た。
「八つ当りか…なっさけないわね!」
「そ…そんな、ナミさん。はっきり言わなくても…」
がっくりと肩を落としてサンジは、買ったばかりの煙草を取る出す。口にくわえて火をつけた。落ちつこうと深く煙を吸いこんで吐き出す。
「どう?仲直りする気あるの?」
「…でも、オレから言うつもりはないですよ」
「なんで?」
興味深そうにサンジを見つめると、サンジは自分の気持ちを素直に打ち明けるのだった。
「そう…なるほどね〜それは、わかるわ。ルフィが恋を理解してるとは思えないものね?」
ナミの言葉にサンジは、頷いた。やっぱり誰もがそう思っていたのだ。あの、ルフィが恋を理解していないこと。
「ね、協力してあげましょうか?」
「え?」
「私が、仲直りさせてあげる!もちろん、ルフィの方からね」
ウインクしてナミは、立ちあがって得意そうな笑顔を見せる。
「…お金あまりないんですけど…」
ぽつりと呟くサンジにナミは、にっこりと笑った。
「ここのお茶代でいいわ!いつも、わたしのみかん畑警備してくれてるから」
そう言うとナミは、喫茶店から出ていった。
「はぁ〜さすが、ナミさん…かっこいいぜ」
ため息をついて、サンジは大量の食材を持ち、船へ戻ろうと喫茶店を後にした。たぶん、ナミならサンジがどこにいるかをルフィに伝えてくれるだろう。
「ルフィ!大変よっ」
広場に駆け込んできたナミは、息を切らせていた。(もちろん演技だが)
「どうしたんだよ?」
「ナミか?」
「サンジはどうした?一緒だったろ」
3人がそれぞれナミに声をかけた。ナミは、ルフィの両肩をつかんで瞳をまっすぐに見詰めた。まだ、息は荒い。
「ルフィ!大変なの、サンジくんが船を下りるって今船に荷物をとりに戻っちゃったのよ!早く止めて!」
「えっ!サンジが!」
間髪入れずにルフィが船をつけてある港へ全力で駆け出した。走りながらルフィの瞳からは、雫が飛び散る。
「嫌だ!サンジが一緒にいないなんて、絶対嫌だぁ」
飛び散る涙を拭いもせずにルフィは、船へ駆けこんでサンジの姿を探す。自分たちの部屋へ降りて行ってもサンジはいない。
「サンジ!サンジ!サンジぃ…どこにいるんだよー」
涙声でルフィは、部屋から出た。そして、会議室兼キッチンへ行く。
「サンジ!」
「ルフィ…」
すごい勢いでドアを開けてサンジの姿を見とめるとルフィは、サンジに抱きついていた。抱きついてきたルフィの背中にやさしく腕を回してやる。
「嫌だ!絶対に許さないからなっ」
涙をうかべながらサンジを見上げるルフィに,サンジはうろたえた。
(ナミさん、こいつに何言ったんだ?)
「何を許さないんだよ?」
「お前が…こ、この船…お・・降りるって…・ナミが!オレ、オレ、もうわがまま言わねぇから!サンジが降りるなんてっ…やだっ!」
涙で言葉が途切れるルフィ。こんなに取り乱したルフィを初めて見た。自分のためにルフィがこんなに取り乱したのだ。何事にも大きく構えていた男が。
「オレは降りねぇよ…大丈夫だ」
やさしくルフィの涙を指ですくうと、チュッと唇を合わす。サンジの言葉にルフィは、きょとんとした表情になった。
「え、だってナミが…大変だって…サンジが居なくなると思って、オレ」
「ナミさんのいたずらだよ。オレはお前を残して行かねぇよ。ルフィ」
腕の中にいるルフィをギュッと強く抱きしめた。それにルフィも答える。
「サンジ…よかった!オレ、お前がいなくなったらどうしようかと思った」
今度はうれしい涙なのか、鼻をすすりながらルフィが嬉
しい事を言ってくれる。それを素直にうれしく感じるとサンジは、ルフィを抱き上げた。「なっなんだよ?」
「ルフィ、しようぜ?」
「……うん」
サンジの誘いへ素直に従うルフィは、小さく頷く。ルフィの細い体をテーブルの上に組み敷くと、徐々に覆い被さっていくサンジ。
「サンジ…んっ」
「ああ、わかってる」
まず、行為を始める前にやさしいキスをせがむルフィにサンジは、ルフィが求めるままにキスを与えた。応えるように少し開かれた唇に、分け入るように舌を忍びこませる。舌を絡ませていくと、サンジのジャケットを握るルフィの指に力がこもる。安心させるよに抱き寄せた背は、さほど大柄でない自分でも、すっかり包み込んでしまえるほどきゃしゃだ。そんなに年齢も違わないのに…このきゃしゃな体に、いったいどれほどの力が潜んでいるのか。
「…っ…はっはぁ…」
ルフィが苦しそうにサンジの唇から、一瞬逃れる。その仕草にサンジの中でなにかが弾けた。やさしく扱うつもりだったのに、またいつもみたいに荒々しい扱いになってしまう。
「ルフィっ」
両肩を掴み、テーブルにルフィを押しつける。
「痛てぇよ…バカっ」
サンジの両腕を掴み、目前にせまるサンジの瞳を見つめるルフィ。
「あ…あ、悪りぃ」
つい力をこめてしまった腕の力を緩める。すまなそうな表情でルフィを見つめる。どうして、ルフィの前になると先走ってしまうのだろう。
「ここですんのやめねぇか?」
キッチン兼会議室から自分たちの部屋へ移動して二人は、お互いの気持ちを確かめあうのだった。
船の下でナミ、ウソップ、ゾロはテーブルとイスを出してくつろいでいた。
「なんで船に上がらないんだよ、ナミ?」
ウソップが不満を述べる。それにナミは意味深な笑みを浮かべた。
「野暮なことできないでしょ?」
一方。下にナミたちが待っていると知らないルフィとサンジは、甘い時間を過ごしていた。情事の後に、満足そうな笑みを浮かべて煙草をふかすサンジの膝にはルフィがうれしそうな表情のまま眠っていた。その寝顔を愛しそうに見つめるサンジ。見た目よりもやわらかいルフィの髪をなでながら、煙草を皿に置く.
「ルフィ…オレの事好きか?」
「うん」
眠っていると思っていたルフィが、ぱっちりと目を開いてサンジを見つめていた。いつもの笑顔をサンジに向けて伸びあがると、サンジの唇に自分のそれを触れさせた。
「起きてるならそう、言え。クソやろう…」
照れながらも幸せを感じるサンジであった。
THE END |
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