■ 『 Secret of my heart 』 水天宮拓仄

 キッチンで夕飯の仕度をするサンジの後ろ姿をルフィがうつろな目で見つめている。その目は、いつもの輝きは無くひたすらサンジの動く姿を追っていた。それは一見切なそうにも、楽しそうにも見える視線だった。その視線に気付いたサンジがくるりと振り返ってルフィに笑いかけた。
「どうしたルフィ?待ちきれないのかよ」
「えっ?あっうん!早く作ってくれサンジ。腹減ってしょうがないんだ」
「わかった、わかった…まったくガキかてめぇは」
 笑いながら再びもとの向きに戻ると軽快に包丁をふるいながら鼻歌がサンジから聞こえてきて、ルフィはにっこりと笑うとまたサンジの後ろ姿を見つめるのだった。
 ルフィは、この時間が最近ではお気に入りなのだ。前ならサンジの周りにくっついてまわり、邪魔者扱いされているのが楽しくて仕方なかったのに。
(ずっとこのままだったいいのになぁ)
 そんな事を思うルフィは目をそっと閉じて、サンジと出会った頃を思い出していく…。





『オレの船でコックになってくれ!』
 まるでプロポーズのような言葉でサンジを今までずっと繋ぎとめているのかと、思う。
(オレとサンジの絆ってなんなのかな?オレは…サンジが好きだからだと思って…サンジは?サンジはオレのことどう思ってるんだろう…ナミがいるからなのか?)
 こう思い始めてルフィは、はっと目を見開いた。目の前にいる背中は、相変わらず上機嫌に鼻歌を歌いながら料理をしている。急に不安になってしまったルフィは、そっと椅子から立ちあがった。ふらふらとサンジの背後に近づくと両腕を広げて、そのまま抱きついた。
「わっ!何しやがるルフィっ」
 突然のことでルフィの気配に気付かなかったサンジは驚いて包丁を床に落としそうになってしまった。なんとか包丁を受けとめると、背中にぴったりとくっついているルフィへと顔を向ける。だが、ルフィは顔全体を背中に密着させているためにその表情はわからなかった。いつもの悪ふざけだろうか?髪の毛をつんつんと触ってみても、ルフィの顔は一向に上に向かない。どうやら、いたずらではないようだ。
「どうしたんだルフィ?これじゃ、料理ができないんだけど…食べるの遅くなっちまうぜ」
「……なんでもねぇ」
「なんでもないって…この状況で?なんかあったのかお前…ちょっと変だぞ?」
「なんでも無いったら無いんだ!」
 かばっと顔を上げると今にも泣き出しそうな目をしたルフィに驚くサンジ。
(な、なんだ?どうしたってんだよ?別にメシ抜きとか言ってねぇぞオレ!)
 戸惑いながらルフィの方へ向き直ると両肩を掴んで顔を上げさせた。目を真っ赤にして、こぼれそうになっている涙をひっしに堪えているのか、下唇を力いっぱいかみ締めているルフィを見てサンジは更に焦る。
「どうしたんだよ?なぁ…お前のこんな様子見て、なにも無いはずねぇだろ?」
 少し腰を屈めてルフィと同じ高さの視線にすると顔をぐっと接近させるサンジ。その接近でルフィはばっと顔を一気に朱に染めてしまう。
「あ…ほ、本当になんでもねぇんだ…」
 恥ずかしくなってルフィは顔を下に向ける。これ以上サンジと目を合わせていることができなくなった。
(サンジが好きだ!でも、それを言ったらサンジはきっとオレから離れてしまう…今のままでいいんだ。オレの気持ちは伝えられない。ずっとオレの前で笑ってくれるだけでいいから)
「じゃあ、なんで赤くなったり泣いたりしてるんだよ」
「それはっ…その……」
「わからないんなら、オレが教えてやってもいいんだぞ?」
「…わ、わかるのかサンジは?」
 掴まれたままの両肩がかーっと熱く感じる。サンジが自分に触れている、それだけのことでルフィは体が熱くなってしまうほど、この目の前の男に恋していた。
「ああ。わかるぜ…オレも同じって言ったらどうする?」
「えっ?」
 ぐっと引き寄せるとルフィの唇にちゅっと軽くキスを贈ったサンジは照れくさそうに笑っている。大好きな笑顔が目の前にあった。今度はさっきと違う意味の涙がルフィの目に溢れ出してくる。その涙を拭いもせずにルフィは思いきって前へ踏み出した。
「…サンジのこと好きなんだ…ずっと好きだった…けど、言ったら嫌われると思ってずっとずっと隠してたんだ」
「嫌うなんてことあるか、馬鹿!オレも会ったときから好きだったんだよ…ちっ。オレも今まで怖くて言えなかったからおあいこだな」
 2人で笑顔を見合わせて頬を少し染めるとどちらからともなく、唇を近づけていく。夕飯も近い時間、サンジとルフィは確かな絆で繋がっていることを実感していた。