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| ■ 『 Dears 』 水天宮拓仄 |
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「……ルフィ!」
ベッドから体を起こすサンジは自分が大粒の汗を流し、全身が汗にまみれている不快感に顔をしかめた。不快なのは、見た夢が何度となく繰り返される悪夢のせいでもあった。
「は・・はあっ…またか」
ベッドから身をおろしてベッドサイドに置いてあるボトルを手に取る。ぐいっと中身を飲み干すと空になったビンを床に転がす。急に外の空気と風を感じたくて扉に向かった。
外に出ると彼が経営する海上レストラン"ゴーイングメリー号"を横目にオーナー専用のベンチに腰を下ろして綺麗に晴れ渡る星空を見上げる。サンジがコックして乗り込んでいた海賊船を改造してレストランにしたゴーイングメリー号を眺めながら、彼が愛した人を思い浮かべる。毎晩、夢に現れては、同じ消え方をする愛しいキャプテン。
「いつになったらオレを自由にしてくれるんだルフィっ」
額に手を押し当てベンチに背を預ける。あの最後の日がサンジには、いつまでも昨日のことのように思い出される。
―十数年前―
ちょっとしたミスからルフィ海賊団の頭であるルフィ、以下幹部であるナミ、ゾロ、ウソップ、チョッパーらが海軍本部に捕らえられた。海軍の手から逃れられたのはサンジのみだった。捕らえられた5人は、裁判の余地なしとされ翌日の公開処刑を海軍本部の街に知らされ、当然、その街に潜伏していたサンジの耳にも入っていた。
「そんなっ!せっかく、せっかく夢が、あいつの夢が目の前まで来ていたのに!」
今は、海軍たちの目を欺くためにサンジの髪は真っ黒に染められ、特徴ある眉毛もメイクによって隠されていた。やっと見つけた宿で、これからの救出作戦を考えていた矢先に飛び込んだ一大事の知らせ。
「…しかし…さすがにオレ一人で本部に乗り込むわけには行かない…まして、明日が処刑だと?無理だ…絶対に!」
テーブルをどんと叩いて床に座りこんだ。万策つきた…まさにそんな絶望感がサンジを包み込んだ。懐からタバコを取り出して火をつける。少しふかして煙を吐き出した。吐き出した煙を見上げながら、サンジは決心したように立ちあがる。
「オレも一緒に殺されちまうか…あいつがいないなんて耐え切れない」
そう言うと愛用のナイフを取り出し懐のポケットに忍ばせて、宿屋を出た。
そして海軍本部の処刑場広場に足を向けた。もう、変装もばからしくなり、メイクもしないで顔をさらす。もう街の人間や、海の男たちがルフィ海賊団の処刑を見物しようと広場に大勢集まっていた。その大衆の中にまぎれたサンジは、ルフィが張付けられている真正面に立った。ルフィが処刑された瞬間に自分も自決する覚悟を持って…。
張付けられているルフィがふと視線を上げた。その先にこの世で一番好きな料理を作ってくれる、一番愛しい人間が無表情のまま立ち尽くしているのを見つける。口元に微笑みがもれる。その微笑を見て、サンジの口元にも笑みが自然に浮かんでいた。死を直前にしたルフィが自分に微笑んでくれている。それが、嬉しくてサンジは最後の瞬間までルフィの姿を脳裏に焼き付けるために瞬きもしないまま見つけた。サンジとルフィの視線が絡まる。それに気づく者は、ここには存在しなかった。
(ルフィ…オレも一緒に地獄まで付き合うぜ)
にわかに周囲が騒がしくなって、いよいよ処刑が始まろうとしていた。海軍本部の死刑執行人が広場に現れると声を張り上げた。
「これより、指名手配中だったルフィ海賊団。船長・モンキー・D・ルフィ!以下、幹部である。剣豪ゾロ。航海士ナミ。狙撃手ウソップ。船医チョッパー。の公開処刑を行う」
簡単に罪状を読み上げると、最初に船長であるルフィを張付け台からほどいて断頭台の前に連行し、座らせた。
「海賊・モンキー・D・ルフィ。最後に何か言いたい事があるか?」
「ああ、ある!」
「簡単に述べなさい」
すっと視線をサンジに送って、いつもの無邪気な笑顔を見せた。
「オレは死ぬけどお前は絶対に死ぬな!船はお前にやるからレストランにしてくれ!」
「…幹部のサンジがここにいるのか!探せ!」
執行人がルフィを断頭台に押し込んで、周りの海兵に命令する。群集の中にいたサンジはルフィの最後の言葉に握っていたナイフをその場に残し隠してある船に向かって駆け出していた。ルフィが死ぬなというなら、自分は死を選んではいけない。それは、彼の望むことじゃないのだから。遠ざかる広場の方から大きな歓声と、わずかに刃物が下ろされた音がサンジの耳に届いた。その直後の一瞬の沈黙と群集の大きな声。
「ルフィ!」
人通りのない大通りを後ろも振り向かずに走るサンジの目からは、涙が後ろに流れていく。さっき見たルフィの笑顔が焼き付いて脳裏から離れない。
「ルフィ!なんで、オレも一緒に連れていってくれねぇんだよ」
―再び現在―
「オレがお前を裏切れないっての知ってて言ったのかよ…」
ベンチに寝転びながら空を見上げながらつぶやく。サンジの目にさっきまで綺麗に輝いていた星を隠すように黒い雲が流れてきていた。
「…雨か」
そうつぶやいた直後にぽつりぽつりと雨がサンジの頬にあたる。そして、すぐに土砂降りの雨が彼の上にたたきつけられた。
「オレを迎えにきてくれルフィ!!」
涙が流れる頬を後から強い雨が流していく。
「オレを止めるな…止めないでくれよ…どんなに、どんなに痛くても、傷ついてもいいんだ。誰かオレを殺してくれよ」
ベンチの上で雨に打たれながら叫びつづけるサンジの声に気づく者は、誰もいなかった。
End |
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