■ 『 やめないで、PURE 』 水天宮拓仄

 フーシャ村を赤髪海賊団が休息地にしてから、長い月日過ぎようとしている。赤髪海賊団の頭である"赤髪のシャンクス"と村の少年ルフィは、微妙な友情で結ばれていた。ルフィにとって"赤髪のシャンクス"は、憧れであり、友達だった。しかし、シャンクスにとって幼い少年ルフィは、友達であり、愛すべき存在になっていた。シャンクスの想いは、男のそれであって…本来なら女に向けられるべき想いだ。その想いを自覚してからの、シャンクスの苦しみは増えていくばかりである。
「はぁ〜今日も辛かった…ったく、あいつも人の気も知らないで」
 船の自室に戻るとシャンクスは愛用の麦わら帽子をサイドテーブルに放って、体をあまりやわらかくもないベッドに預けた。
「しかし…辛いと言っても…毎日会わないと気がすまないってのが、またなぁ」
 自分の感情がどうしようもない事だと悟りつつも、今だこの村を出ることができない自分にシャンクスは自嘲気味に笑みをその唇に浮かべた。
「あんな小さい子供にこんな気持ちを持ってもなぁ…変態になるだけだ」
 ルフィの無邪気な笑顔を思い出してシャンクスは天井を仰ぎ見る。もう自分の感情や欲望があふれる寸前なのだ。これ以上、この村に留まるのは危険だとわかっている、どこまでもピュアな少年を自分が汚してしまうのは、時間の問題だった。航海に連れて行かないのも、そのせいだった。海の上では、逃げ場がなくなる。船に乗せたら自分にべったりくっついてくるだろう。それこそ、ベッドの上でも一緒に過ごすことになる。そんな状況で自分が理性を保っていられるかどうか、シャンクスは不安なのだ。思いにふけっているシャンクスの元に副船長が訪ねてくる。
「お頭。入るぞ」
「おう、ベックマンか?いいぜ」
 一応の返事を待ってから扉が開くと、船室の中に副船長のベン・ベックマンが入ってきた。部屋の中央に無造作に置かれている椅子に勝手に腰を下ろす。サイドテーブルの上にある麦わら帽子をベッドの上にそっと放ると1枚の海図を広げた。
「次の航海についてだが」
「ああ…次のか」
 ぼんやりとした表情でベックマンの話を聞いているシャンクスを無視して、淡々と話を進めていく。
「この前の航海の時見つけた地図が………で、…………だから。………としようと思うんだか、あんたの意見を聞かせてくれ」
「んっ?あ、ああ、それでいいんじゃねぇの?お前のやることに間違いはねぇからな」
 今までの話を聞いていたのか聞いていなかったのか、わからないシャンクスの様子にベックマンの唇からため息が出る。
「お頭……話、聞いてか?」
「お…おお。聞いてたから大丈夫大丈夫。お前の言ったとおりにしてくれ、許可するから」
 シャンクスは手で麦わら帽子をくるくると回している。心ここにあらずといった様子がわかる。その原因も長い付き合いのベックマンにはわかっていた。しかし、別にそれを咎める関係でもないので口をつぐむ。ただ、とりかえしのつかない事をこの男がしでかさないか祈るばかりだ。
「で、いつ出港するんだい?」
 シャンクスが思いついたようにベックマンに視線を流すと、すでに椅子から立ちあがって扉に手をかけていた。一旦、動きを止めてシャンクスを振り返ったベックマンは一瞬天井を見てすぐに視線を元に戻した。
「五日後だ。準備は俺がやっておくから、あんたは心の整理をしておくんだな。次の航海で、ここからさよならだ」
「えっ!ちょっ!」
 がばりと体を起こして後ろを振り返ったときには、ベックマンの姿はなく。シャンクスの目には開け放たれた扉が勢い良くしまっただけだった。
「え…さっきの話…ここから出るっていう話だったのか…そんな、急にかよぉ」
 額を手で押さえるとうつむく。しばらく、そのままの状態が続いていたがこのまま眠れるような気持ちじゃない。寝酒にでもと、船室から出て村の酒場に向かうシャンクス。一人でルフィの事を想ったままでいたら壊れてしまいそうだった。どうせ、壊れるなら酒でも飲んで、とことん壊れてやろうと腹をくくる。
 村の酒場に入ると店主のマキノがカウンターで眠りこけてしまったルフィに毛布をかけてあげているところだった。店に入ってきたシャンクスに気付くと、にっこりと微笑んだ。
「こんばんは。船長さん。珍しいですね、こんな時間に」
「やあ、マキノさん。ちょっと眠れなくてな…まだ、店閉めなくていいのかい?」
「ええ、大丈夫ですよ。船長さんや船員さん達がいらっしゃるので、朝までやってるんですよ、今は。今夜は珍しく皆さんいらっしゃらなくて」
 グラスをカウンターに置きながら、シャンクスが好んで飲むビンの栓をあける。
「何かおつまみお作りしましょうか?」
「いや、いいよ。ここにある食べ残しでももらうよ。どうせルフィが食べてる最中に眠ってしまったんだろ」
「ええ、船長さんがいつここへ来るかわからないから泊まりこむって」
 くすくすと笑いながらルフィの髪を優しく撫でるマキノの指の動きを追う。そっと自分の指の伸ばして頬に触れてみた。暖かくてやわらかくて愛しい感触がシャンクスの指から全身に広がる。
「なんで、俺みたいな男を気に入ったのかね、こいつは」
 苦笑いを浮かべながらルフィの頬を撫でつづけるシャンクスの指がくすぐったいのか、ルフィは寝ぼけながらそれを振り払う。
「船長さんの生き方と強さに憧れを持ってるんですわ…この子。船長さん達が村に来てからなんですよ。"オレは海賊王になる"なんて言い出したのは」
 優しい目でルフィを見つめるマキノを見ているのが辛くて、シャンクスはグラスを傾けた。自分は卑しい目でこの少年を見つめている…この女性とは、違う感情が自分の中を荒しているのがわかる。今もこうして、かわいい寝顔を見ているだけで自分の胸が熱くなっていく。抱きしめてしまいたいのだ。
「俺みたいな男になんて、なりませんよ。こいつは…もっとでかくなるさ」
 浅ましい自分の感情を卑下するような言葉を発してシャンクスは嘲笑を浮かべた。
「…そういえば、船に乗せてくれとは言わなくなりましたわ」
「ああ、それは……」
 失った腕の肩口をチラリと見てシャンクスは苦笑する。理由はわかっていた。
「船長さん…あと少しでこの村を出るんでしょう?」
「えっ?あ、ああ…誰かに聞いたのかい?」
 船長の自分がついさっき聞いたばかりの話をマキノが知っていたことにシャンクスは驚いた表情を見せる。シャンクスの様子にマキノはすっと目を伏せてルフィに視線を向けた。ずり落ちている毛布をかけなおしてあげながら、口を開く。
「さっき、船員さんがいらっしゃったので。その時にお聞きしたんです。幸い、この子は眠っていたので騒ぎにならなかったんですが…明日の朝伝えたら…」
「大騒ぎになるだろうなぁ…」
「私から伝えるよりも、船長さんから伝えてもらった方がいいと思うんです。お願いします。最後なので、船へ連れて行ってくれてあげてください。航海へ連れて行ってくださいとは言いませんから」
 シャンクスを見つめながらマキノは涙ぐんでいた。そう、彼女はシャンクスを慕っていたから。でも、シャンクスは海賊で、自分が想っても仕方ないことを理解している。自分の想いを胸に潜めておくことに決めていた。しかし、シャンクスはマキノの気持ちに気がついていた。だが、自分はそれに応えることはできない…。自分の心はすでに、目の前で眠っているルフィに向いているのだから。
「そうだな…マキノさんが伝えるより、俺が言った方が説得力があるだろうから。俺がその役目引き受けたよ。じゃあ、こいつを連れて船に帰るよ。この酒貰っていってもいいかな?寝酒にちょうど良い」
「ええ、どうぞ。じゃあ、この子の事お願いしますね」
 飲みかけのビンを持って店を出たシャンクスは、船には戻らず村外れの林に向かった。林の入り口付近に、大きな木があるのだ。そこはよくルフィと一緒に木登りをしたり、昼寝をした場所だった。抱きかかえていたルフィをやわらかな草の上に下ろして自分もその隣に身を横たえた。酒をぐっと飲み干して、じっとルフィの寝顔を見つめる。
「ルフィ……」
 そっと唇を近づけるて愛しい少年の名前を呼ぶ。すると、シャンクスのはく息が酒臭かったのだろう、ふっとルフィの瞳が開く。
「んっ…シャンクス?」
 その仕草にシャンクスの喉が上下する。酒の勢いも手伝う、もうこれでルフィとゆっくりと過ごせるのも最後だと思うと、シャンクスは自分を止められなかった。今まで、ずっと理性で抑えつけていた欲望が溢れ出してくるのを自覚しつつ、シャンクスはルフィの唇に自分の唇を合わせた。
「むっ…うっ…くるしっ…何?」
 寝ぼけているルフィを抱きしめるときゅっと力を込めた。自分の胸の中で苦しそうにもがくルフィを見つめる。
「ルフィ…今度の航海でこの村を出ることになった」
「えっ?そ…そんなのやだ!」
 いっきに眠気が覚めたルフィは今の言葉に涙を浮かべる。シャンクスの胸に顔をうずめて声を殺して泣き始めた。
「…ルフィ…俺だってお前と別れたくないんだ…どうだ?俺の船に乗って一緒に海賊やらないか?」
「ほ、本当?」
「ああ。もういい、連れて行ってやるよ」
「……ううん。オレ、行かない!今一緒に行っても足手まといだから」
 涙を拭いながらシャンクスを見上げてくる。その瞳にシャンクスは、ぐっと息を飲む。抱きしめている腕が少し震えているのがわかる。
「…一緒に行かない…のか?あんなに行きたがっていたろ…う?」
 だんだんと自分の感情が制御できなくなるのをシャンクスは必死に堪えている。
「うん…オレ、自分で海賊になるよ!…シャンクス?どうしたんだ?腹でも痛い?」
 ぐっと手を伸ばしてシャンクスの額に手を添えるルフィ。仕草や、言動、そして自分のために身を引くルフィすべてが愛しい。もう、この気持ちを抑えることができない。
「ルフィっ」
「えっ?な…何っ」
「愛してる」
「へ…な、何言ってんだよシャンクス。それって女の人に言うことだろ?オレだって、それくらい知ってるん…んんっ」
 全部の言葉を出し切る前にシャンクスはルフィの唇を奪う。先ほどの軽い口付けとは違い、深く深く舌を絡ませる。幼いルフィには濃厚すぎる口付けを続ける。
「んっ…うぅぅ〜」
 苦しそうにシャンクスの胸を叩くルフィの細い腕をつかむと身につけているシャツをするりと脱がす。薄く白い胸に指を這わせながら、首筋や耳の後ろに舌を滑らす。その未知なる感覚にルフィは身を捩って、抵抗をこころみるが自由に動けない。
「ルフィ…ごめんな…やっぱり我慢できなかった」
「えっ?な…ん…くすぐってぇよ」
 耳元に囁きながら熱く高まる自分自身を感じながらシャンクスはルフィのズボンを器用に脱がせると未発達なルフィに唇を寄せた。
「や・・やだっ!汚いってシャンクス!」
「…すきだ…あいしてるんだ…許してくれルフィ」
 ブツブツとルフィが聞き取れない声で呟きながら、まだ快感を感じ取れないルフィの体を開くために愛撫の指、舌を伸ばす。突然のシャンクスにルフィは不安になって泣きじゃくる。そのルフィをあえて無視してシャンクスは本懐を達成した。幸い、ルフィの体はゴムになっていたので壊れることはなかった。


 翌朝ルフィはシャンクスの船室のベッドで目が覚めた。隣りには、シャンクスが眠っている。昨夜、シャンクスが自分にしたことは理解できない。でも、シャンクスは自分を好きだと言ってくれた。その事が嬉しくてルフィは眠っているシャンクスの唇に触れるだけの口付けを残すとベッドを降りる。シャンクスを起こさないように気を使いながら扉から出ると、パタパタと自分の家へ向かう。不思議と前よりもシャンクスを身近に感じられるようになっていた。ずっと前より好きになっていることを感じながら村を駆け抜けていった。


 船室のベッドに残されたシャンクスは自分の唇を指でなぞりながら、自嘲ぎみな笑みを浮かべている。汚してしまったルフィに自分の心を洗われたような心境だった。
「まったく……やってくれるよな、あいつも……」
 ベッドから体を起こして麦わら帽子を被る。これから数日は、次の航海へ出るための準備に追われるのだ。


おわり