■ 『 船長とコックのクリスマス・イヴ 』 水天宮拓仄

「おい、ルフィ今日の夜食は何がいいんだ?」
 ゴーイングメリー号の船首に座っているルフィにサンジが後ろから声をかけた。
「夜食っ!えっと…っ!あっきょ、今日はいらねぇ」
 一瞬、何が食べたいか頭に浮かんだルフィだったが何かを思い出したのか、頭を振ってせっかくの申し出を断る。ルフィの反応にサンジは首を傾げた。
「どうしたんだよ?おまえが夜食食べないなんて…どっか悪いのか?」
「どこも悪くねぇよ!今日はいらねぇから!」
 慌てた様子でサンジに告げるとその場から逃げるように走り去る。バタバタと男部屋の方へ向かって行くルフィの後ろ姿を見送った。
「なんだよ、あいつ。せっかく俺が好きなもん作ってやるって言ってんのによ」
 ブツブツと不満を口にしながらキッチンへ戻ったサンジは、朝食のメニューを考えることに集中する。なんといっても、明日はクリスマス・イヴなのだから特別な料理でルフィや仲間達を喜ばせてやりたいと思っている。

 一方、サンジの申し出を珍しく断ったルフィは今ナミの部屋に来ていた。手には薄水色の形の良いエプロン。手には針。
「いい?私がやる通りにやるのよ。あと少しで完成するんだから失敗しないようにね」
「お、おう」
 ナミがルフィの目の前に座りエプロンへ刺繍をしている。それに習ってルフィも針を動かしているのだ。
「これは、簡単だからね」
 とナミがちょいちょいと針を動かして糸を引く。そこには、アルファベットの「I」が描かれる。ナミが目の前で見本を見せてくれた通りに、一生懸命針をたどたどしく動かすルフィの額には大粒の汗が浮かび上がっている。
「できたっ!」
 自分で結ぶことができずにナミに糸を結んでもらって糸を切ると嬉しそうにエプロンを広げてみる。薄水色のエプロンの胸元に真っ赤な糸で「SANJI」と少々ゆがんでいるが、描かれていた。ルフィは、ナミに刺繍を習って手作りのエプロンをサンジにクリスマスプレゼントにしようとがんばっていたのだ。刺繍に約1週間ほどかかってようやく完成したのは、もうクリスマス・イヴが数時間後にせまっていた。夜食も断ってがんばったルフィの表情は、満足そうに輝いているのだった。そして、ナミも満足そうに笑うと綺麗にエプロンをラッピングしてあげる。
「はい。できたわよ。がんばったわねルフィ!」
「サンジ喜んでくれっかな?」
「喜ぶに決まってるわよ。あと数時間でイヴね…間に合ってよかったじゃない」
「ありがとう、ナミ!」
 嬉しそうにラッピングされたエプロンをナミから受け取ると男部屋に戻った。サンジは当分キッチンから戻ってこないのはわかっている。クリスマス・イヴになったらすぐにプレゼントしよう。そう決めて自分のハンモックに乗ってみたり、ソファに座ってみたり落ちつきのない時間を過ごすルフィだった。
 そして、まちにまったクリスマス・イヴが訪れた。

 キッチンで朝食のメニューを決めたサンジが必要な下ごしらえを終わらせて。いらないといわれたルフィの夜食を作っていたときだった。甲板の方から、バタバタと大きな足音が近づいてくるのを聞いて口元に笑みが浮かぶ。
「やっぱり我慢できなくなったな」
 そういうと、いつもより豪華な夜食をおしゃれな皿に盛りつけるとテーブルに置く。今日は、ワイングラスを2つ出し。自分も一緒に楽しむつもりだった。年に一度のクリスマス・イヴなのだから恋人と一緒にひとときを過ごしたいと思うのはサンジも一緒だ。夜中なら、キッチンには自分しかいないし、他の仲間たちもそれぞれに過ごす時間だ。ルフィをキッチンに呼んで二人きりの小さなクリスマスパーティを開きたいと以前から決めていたのだ。
「サンジ!」
「おうっルフィ。やっぱり我慢できなくなったんだろ」
 ドアを勢いよく開けて入ってきたルフィに笑顔を向けると、当のルフィがいきなり自分に小さな袋を差し出していることに気づいた。綺麗にラッピングされている袋を受け取る。
「ルフィ…ひょっとしてこれは」
「うんっ!サンジにクリスマスプレゼント!」
「マジかよ…本当に?」
 ルフィがクリスマスなんて行事を知っているとは思っていなかったうえに、プレゼントまでもらえるとは思っていなかった。袋をわくわくしながら開けて見ろとせかすルフィに従って袋の中身を取り出してみる。
「エプロン…刺繍もお前がしたのか?」
「おうっ!ナミに教えてもらってやったんだ!うまいだろっ」
 少々曲がったり途切れたりしていたが「SANJI」と読める。針なんて一度も触ったことがないルフィが、自分のために一生懸命刺繍してくれたエプロンを受け取ったサンジは、目頭が熱くなったことを感じた。ルフィの指先に注目してみると、ところどころ小さな赤い傷があることに初めて気づいた。
「ルフィ。サンキューすっげぇ嬉しい」
「本当かっ!」
「ああ」
 目の前のルフィを胸に抱きしめて、流れそうになる雫を指でぬぐう。不覚にも感動して涙が出てきてしまったのだ。ルフィには格好悪くて見せられないのでとっさに抱きしめてしまう。
「サンジ、目瞑れ」
「うん?」
「メリー・クリスマス」
 ルフィがつぶやくとサンジの唇が柔らかい感覚に包まれて、すぐに離れた。
「メリー・クリスマス…オレからもお前にプレゼントだ」
 もう一度ルフィを抱きしめて頬に軽く口付けると、輝くばかりの笑顔がルフィに浮かぶ。その笑顔をサンジは、いつまでも守りたいと誓った。
「今夜も…そしていつでも2人一緒だ」
「うんっ」
 抱きしめあった2人は笑顔でもう一度キスを交わした。


Fin