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| ■ 『 ホワイトクリスマス 』 水天宮拓仄 |
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「サンジ君。今日はクリスマス・イヴだからパーティーを開きましょう」
「は…はいっナミさん!わかりました!ナミさんとルフィちゅわんのために!お任せください」
オスオスの実を食べて男になってしまったナミを以前と同じように、敬愛しているかのように見えるサンジ。愛しのルフィちゅわんとの一夜を夢見て、地道に努力をつづける日々を送っている。だが、今だに女になってしまったルフィとむふふな一夜を過ごすどころか、手も握ったことがないサンジは、案外不幸な男だった。
「じゃ、頼んだわよ」
そう言ってキッチンを出ると船首に座っているルフィの後ろ姿を見つけたナミは、ため息をついて後ろから近づいて声をかけた。
「ルフィ!またそんなところに座って!あぶないじゃないの」
「うわっ!ナ…ナミかっ驚かすなよっ本当に落ちちゃうところだったろ!」
風に飛ばされないように帽子を押さえて船首に立ちあがるルフィ。赤いベストに包まれたふくよかな胸と、すらりと伸びた足は紛れもなく女の体である。ナミとルフィが不幸にも、性別が逆になってしまってからは幸いにも、大きな戦闘もなく今まで平和な船上生活を送ってきている。たまに男共がソワソワしていることもあるが、それはことごとくナミが排除してきた。
「ねえ。ルフィ、もしこのまま元に戻れなかったらどうするの?」
「ん〜?そんなの別に気にしてねぇよ。女になったからってゴムゴムの技も使えるし、オレは誰にも負けねぇ海賊になるからなっ」
にししといつもの笑顔をナミに向けて船首から甲板に飛び降りる。女体のルフィは、男の頃よりもさらに華奢になっていた。この華奢な体で、今までのような激しい戦闘に耐えられるのかナミには不安でしょうがない。
(な…何?なんで、私こんなにルフィが心配なのかしら…今まで、こんな心配はしなくてもよかったのに)
じっとルフィの体を見詰めながら考え込むナミを下から見上げる視線がある。
「な・・何?ルフィ」
「どうしたんだナミ?さっきからオレのこと見て」
「なんでもないわよ。今日はクリスマスパーティーするわよ。雪も降りそうだから、その服じゃ寒いわよ」
「えっいいよ!オレが着れる服これしかねぇし」
「ダメよ!風邪でも引かれたら大変じゃない!一緒に私の部屋に来なさい!」
強引に腕をつかんでナミは自分の部屋に連れてくると、久しぶりに自分の服を入れてある箱を開ける。
「別にいいってばオレはこの格好で」
「うるさいわねっつべこべ言うんじゃないの!はいっコレ着てみて」
「やだってば!」
差し出されたかわいい服を手で押しのけると、そこには鬼のような形相をしたナミがルフィの胸倉を掴んでいた。
「俺をこんな体にしたのは誰だと思ってんだ?ああっ?俺の言うことが聞けねぇとはどういう了見だ!海に捨てるぞっこのクソごむがぁ!」
「うっ…でもこれとそれは別だっ絶対女の着る服なんか着たくねぇよ」
ナミの人を殺すような視線から目をそらしたルフィはまだしぶとくダダをこねる。
「ダメ!これ着なきゃ今晩は飯抜きだからな!」
「なんでだよ!…ちくしょー着ればいいんだろ、着れば!今日だけだからな」
ぶつぶつ言いながらナミが差し出す服を広げて見ると。ただの冬ものコートだった。すっかりスカートだと思っていたルフィがコートを見てほっと胸をなでおろした。
「なんだスカートじゃねぇんだな」
「あんたが嫌がるからスカートなんて出さないわよ。今日は寒くなるから、それ着てなさい。パーティーは甲板でやるのよ」
「そっか、サンキューナミ!」
さっきとは態度が一変して受け取ったコートを持って男部屋に入っていくルフィの後ろ姿を見送ると、ナミはベッドの上に身を投げた。
「早く元に戻りたい…ルフィもあのままじゃ……いつか殺されちゃうわ」
つぶやきながら目を瞑ると睡魔がナミを包みこんでくる。その睡魔に身を任せてサンジからの声がかかるまで仮眠をとることにした。今ならサンジはパーティーの準備に忙しいから、ルフィに変なことはできないだろうし。ゾロについては、昼間は心配がいらないからだ。
夕方近くなってサンジがクリスマスパーティーを甲板にセッティングし終わると大きな声がゴーイング・メリー号内に響く。
「準備ができたぞ〜!」
その声の直後にバタバタと仲間達が甲板に集まってきた。ナミのみかん畑の近くに用意されたテーブルの上には、数々のクリスマスらしい料理が並ぶ。みかんの木もクリスマスツリーとして飾り立てられていた。
「では、ナミさん。乾杯の音頭をお願いします」
シャンパングラスを全員に渡すとサンジが恭しい態度でナミを見た。その合図に応えてナミがシャンパングラスを頭上に掲げる。
「メリー・クリスマス」
いっせいに乾杯を交わすと一同は料理に舌鼓を打つ。というか、ナミとゾロは酒の場になると必ず飲み比べを始めたり。ルフィはテーブルにあるものを無我夢中で胃袋の中に詰め込んでいる。サンジはそんなルフィを嬉しそうに眺めては接待と称して体に触れようと接近しては、ナミの鬼も逃げ出すような視線に射すくめられ、指一本触れることができなかった。チョッパーとウソップは、おのおのに楽しんでいるようである。
夜も更け。ゴーイング・メリー号のクリスマスパーティーは終わりの時を迎えていた。ナミとの飲み比べに敗北したゾロはだらしなく甲板に眠っている。サンジも途中からゾロと交代でナミと飲み比べをしたが無残にも、惨敗。恐らく、ゾロとの勝負でだいぶ酒を飲んだナミとなら勝算があると、思っていたのだろうがサンジの考えは甘かった。ナミが酔いつぶれたことをいいことに、愛しのルフィちゅわんを手篭めにしようと……だがっ!
「あ〜さす…が、ナミさぁああん……僕の負けでーーーすっ!」
これがサンジの最後の言葉だった。テーブルにつっぷして眠ってしまった。またもや、サンジの野望果たせず!ナミは男になったことによって、さらに酒に強くなっていたのだ。
「ふんっ甘いわねっ!私に勝とうなんて100万年早いわよサンジ君!」
飲み干したジョッキをテーブルにドンと置いて周囲を見まわすと、ウソップもチョッパーも酔いつぶれて床で重なりあうように眠っていた。
「あら…ルフィは…」
きょろきょろとルフィの姿を探すとナミの足元で赤い顔をして眠っていた。酒に弱いせいもあり、料理を食べ終わったあとに飲んだ酒で酔いつぶれてしまったらしい。すやすやと無邪気な顔で眠る顔は、男の時と変わらずだった。
「まったく…せっかく貸してあげたコートも脱いじゃったのね」
ルフィの下じきになっているコートを見詰めてため息をもらす。すっとしゃがんでコートごとルフィを抱き上げると自分の部屋に足を向けた。
「んっ…ナミ?」
突然の浮遊感にルフィの意識が覚醒する。抱き上げられていることに、ゆったりと身を委ねるルフィを不思議に思いながらナミは足を止めて空を見上げた。
「雪が降るわ」
ナミがそう言うとハラハラとゆっくりと雪が2人の上に落ちてくる。
「あっホントだ」
雪はルフィ素肌に落ちてはすっと消えていく。
「綺麗ね」
「うん」

しばらく空を見上げて落ちては消えていく雪を感じていた。すっかり冷え切ったルフィの体をコートで包みなおすとナミはその場に腰を下ろす。
「寒くないの?ルフィ」
「寒くねぇよ。ナミがコート貸してくれたからな。ナミは寒くねぇのか?」
笑顔でナミを見上げるルフィ。その笑顔を見詰めてナミも微笑む。コートごとルフィを背中から抱きしめた。
「私はこうしてるから大丈夫よ」
「そっか」
しばらくの間2人は会話もなく空から限りなく降りつづける雪を眺めていたのだった。
静かな夜が更けていく…
「ホワイトクリスマスかぁ」
ナミに包まれたまま眠ってしまったルフィを見詰める。外気に晒されつめたくなっていたルフィの手を握りしめると、そっと唇を寄せた。
Fin
イラスト/落武者直人さん |
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