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| ■ 『 初夢 』 水天宮拓仄 |
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「シャンクス…」
「ルフィ!よく来たなっ」
成長したルフィが自分の目の前に立っている。昔と変わらない笑顔と…そして零れる涙を拭わずじっと自分を見詰める視線。
「オレ…麦わら帽子返しに来たんだ」
「おうっ待ってたぞ。こっちに来いよ…ホラ」
大きく腕を広げてルフィを待ち構える。だが、一向にルフィは近寄ってこない。手に持った麦わら帽子を自分の方に放る。
「ルフィ?どうしたん…だ」
「ごめん、シャンクス!」
一気にルフィが間合いを詰めてきたと思ったら次の瞬間に、自分の胸が大きく切り裂かれていた。目の前が真っ赤に染まった。
「ルフィ…?」
涙を流しつづけるルフィの顔を見たとたんに今度は目の前が真っ暗になる。
「うあああっ」
はあはあ…と荒い呼吸で全身汗だらけのシャンクスはルフィに切られたはずの胸を大きくさする。そこは、自分の汗でべたつくものの血特有のべたつき、それに死の匂いはしない。周囲を見まわしてみると自分の部屋だった。
「夢か」
大きく息をつくとベッドから足を下ろす。ひんやりとした床に素足をつけると気持ちがいい。少しの間、さっき見たばかりの夢を思い浮かべる。
「まったく…よりによって初夢が…あれとはな」
じっとりと汗をかいている額に手をあてると、ぐったりと肩を落とすとドアの外からゆっくりとした歩調で近づく足音が聞こえてきた。軽くノックの後にシャンクスの返事を待たずにドアが開け放たれた。心なしか重い空気に冷たい空気が流れ込む。ドアを後ろにしめると片手で持っていたトレイをテーブルの上におく。
「どうしたんだ?すごい汗だぜお頭」
「…いや、ちょっと夢見が悪くてな」
まさかルフィに殺される夢を見てしまったとも言えずに苦笑を浮かべながら、口ごもるシャンクスを見て、ベックマンの口元に笑みが浮かぶ。
「夢ごときに心を惑わすなよ。赤髪海賊団の大頭ともあろう者が」
「うるせー。俺だって人間なんだ。嫌な夢のひとつやふたつあるんだよ。しかも初夢に…心臓に悪いもん見ちまったぜ」
ベックマンが持ってきてくれたトレイの上からマグカップを取ると、ずっと吸い込む。カップの中身は暖かいお茶が入っていた。
「それ飲むと落ちつくぜ」
「ああ、サンキュー」
ずっと飲みこんでトレイにカップを戻す。さっきよりは落ちついてきたが、どうも胸騒ぎがする。あまりにもリアルな夢だった。
「初夢は正夢になるって話だぜ」
「…ほ、本当か?」
「さあ…な。どこかの国に伝わる迷信だと思うがな」
肩をすくめてベックマンがシャンクスの正面に椅子をひっぱり出して腰を下ろした。
「脅かすな。迷信…なのか?」
「気になるか?あんたが怯えるほどの夢だったのか?」
「ま…あな」
頭をかきながらポリポリと視線をベックマンから外す。
「迷信だから安心しな。着替えたら甲板に来いよ。みんな、あんたが来るの待ってる」
「あ…ああ、わかった」
椅子から立ちあがるとベックマンが立ち去る。その後も、自分の中に渦巻く拭い切れないものがつきまとう。それにしても、今までルフィの夢なんて見たこともなかったのに何故突然。
「ちっ…考えたってしょうがねぇ」
独りことをつぶやいて汗で濡れたシャツを脱ぎ捨てる。適当に着替えのシャツを着るとマンとを羽織ってドアを空けて外に出た。
甲板に出ると新年を祝う宴の準備を終えて船員たちがシャンクスが現れるのを待っていた。シャンクスの乾杯の音頭と共に宴会が開かれるのが、この海賊団の通例となっていた。
「お頭―!さっさと始めようぜ!」
「ああ…。野郎ども!今年もよろしくなーーー!乾杯!!」
海賊団の頭として、暗い気持ちを押し込めて満面の笑みを作って乾杯をする。いっせいに船員たちが宴に突入する。
しばらく甲板中で宴会での馬鹿騒ぎが続く。そして、宴会が始まってから数時間後、見張りから緊急の報告が入った。
「船が近づいてくるぞー!」
「なんだ、敵かっ!」
今まで飲んで騒いでいた船員がバタバタとそれぞれの持ち場に散っていく。シャンクスは、甲板の上で小さい船を見詰める。なぜかわからないが胸の鼓動がなりやまない。普段なら敵船だろうが海軍だろうが、近づいてきた時とは違う鼓動だ。どんどん船が近づいてくる、海賊旗が目に飛び込んできた。
「あれは…」
「シャンクスーーー!」
「ルフィ!」
麦わら帽子を手に羊の船首で大きく手を振っているルフィの姿が目に入る。
「オレ約束守りに来たんだーシャンクスー」
ルフィの姿に胸が高鳴り、笑顔で手を振り返すシャンクスの脳裏に一瞬今朝見たばかりの夢が甦る。そして、ベックマンの言葉…。"初夢は正夢になる"
(そんなはずねぇ。ルフィが俺を殺す・・なんてな…)
多少の不安を胸にルフィを待つ。
「良く来たなルフィ」
「オレ、約束通り海賊なってシャンクスに帽子返しにきたぞ!」
ルフィが笑顔で駆け寄ってくる。どんどん近づくルフィに複雑な思いが交差していく、すっと自分の腰にサーベルを確認している自分を心の中で苦笑が浮かべた。
「シャンクスっ!」
考えている間にルフィが自分の胸に飛び込んできた。はっと自分の胸を見下ろす。そこには、肩を震わせて自分に抱きつくルフィが見えた。
「ルフィ…本当に良く来たな」
ぐすりと鼻をすするとシャンクスはルフィを抱きしめた。体中が喜びに満たされていく。顔をはっきり見ようと体を離した…。
「………?」
薄ぐらい部屋の中でシャンクスはきょろきょろと周囲を見渡す。まぎれもなく、自分がいる場所は甲板ではない。どう見ても自分がいつも寝起きしてる部屋でベッドの上だった。
「……はっははっ」
こみあげてくる笑いを堪えきれずに吹き出す。1人でベッドの上で笑うシャンクスの声をドアの外で、ベックマンが不思議そうに聞いていた。
〜end〜 |
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