■ 『 A darling captain 』 水天宮拓仄

 もう少しでバレンタインが来る。そう思うとオレの心はそわそわしっぱなしだ。それも、そのはず、一応恋人となっているはずのルフィからチョコレートを貰えるかどうか…。つうか、アイツはバレンタインということを知っているのかどうかも定かではない。試しにこの前、ルフィにそれとなく聞いたことがある。
『おい、ルフィ14日は何の日か知ってるか?』
 と聞いてみたものの、アイツの答えはあいまいだった。知ってるのか知っていないのか微妙な回答にオレは戸惑ってしまい、それ以上つっこんだ話ができなくなってしまった。
 と、こんなことを考えてる場合じゃねぇ。とりあえず今夜のディナーをさっさと作ってしまわねぇと、またうるさい奴が乗り込んできて邪魔をされるに決まってる。
 そう思ったら…やっぱり来やがったか。ドアの外からバタバタと大きな足音が近づいてくる。間違いないアイツだ。オレが飯の準備をしてると必ずやってくるんだ。
「サンジ!」
 やっぱり予想通りだ。まったくワンパターンな奴め。
「なんだよ?飯ならまだできてねぇぞ」
 オレの返事も相変わらずワンパターンとも思うが、これ以上は言いようがないのだから仕方がない。ツマミ食いをねだられるに決まってるんだ。まあ、その分も計算して作ってるから大丈夫と言えば大丈夫なんだがな。
「できるまで我慢できねぇよ〜何か分けてくれよ」
 ほ〜らやっぱりな。なんてわかりやすい奴なんだ。邪魔をされるとますますディナーの準備が遅くなると思ってオレは、すでに用意しておいた皿をルフィに渡す。それを嬉しそうに受け取るとテーブルに置いた。にこにこと笑いながら近づいてきて、いつもの場所に唇を寄せてくる。そう、ツマミ食いをタダでさせるほどオレは寛容じゃない。ほっぺにキスくらいもらってもバチは当たらないはずだ。
「サンキューサンジ!じゃ、いっただきまーす!」
 唇を離すとさっさとテーブルにつくと皿の中身をあっと言う間に平らげた。
「相変わらず早ええなぁ。本当に味わってんだろうな?」
 振り向かずにルフィに声をかけると背後でいつもの笑い声が聞こえた。オレは、ルフィの笑い方が結構好きだ。大声で笑うわけじゃなく、いやらしく笑うわけじゃない、この独特な笑いが好きなんだ。ま…好きといえば、全部好きってことになるけどな。まったく、オレも落ちたもんだよな。以前は、頼みもしない女が寄って来たってのに今は必死に男の尻を追いかけてる。でも、今日くらいはルフィの方から与えて欲しいと思っているんだが…。そう思って、チラリと静かにしているルフィを見た。
「ししっなぁ、サンジ」
 オレの好きな笑顔でルフィが突然名前を呼んだ。あれ、いつもと会話のパターンが違うぞルフィ。いつもなら、あとどれくらい待てば飯ができるのか・・とか、今日のメニューはなんだとか言ってくるくせに。表情を見ると、嬉しそうに…それでいてはにかんだような笑顔が見てとれる。こんなコイツの顔は、前に一度見たことがある。
「ん?なんだよ」
 呼びかけに答えながらオレは思い出していた。そう、前に一度コイツがこんな表情をしたことがあった。オレがルフィに気持ちを伝えた時と同じ表情がそこにあった。自然にオレの鼓動が早くなってくる。わけもなく頬も紅潮してきたみたいだ。目の前のルフィもオレと同じ。
「あの、あのな。オレ…サンジにあげたいモンがあるんだ」
 顔を少し紅潮させながら上目使いでオレを見つめる瞳に吸いこまれそうになりながら、オレは次のルフィの言葉を待った。相変わらず、心臓がうるさいが黙らすことは到底無理なので放っておく。
「今日、その"バレンタイン"だからさ…コレあげる」
 そう言ってルフィがポケットから小さな袋を取り出してオレの目の前に差し出した。あ、なんだ、やっぱりバレンタインのこと知ってたんだな。
「開けてもいいか?」
 コクリと頷くルフィ。普段の様子とは考えられないくらいに愛らしい姿が目に写る。
 嬉しさのあまりちょっと震えそうになる指先を気持ちで抑えて、オレはできるだけ平気な顔で小さな袋を受け取った。少し指に力が入らないが、ガサガサと袋をあけて中身を手のひらに落とした。オレの手のひらに落ちたものは、シンプルなシルバーリング。リングの内側に名前が彫ってあるのが見える。
「リング?」
「うん。嫌か?」
 リングを左手の薬指にはめてみるとぴったりとそれは収まる。それを見てルフィの表情が輝いた。そしてずっとポケットの中にいれてあった左手を出すと、オレに見せてくれた。その左手の薬指には、今オレがはめたばかりのリングと同じものがすっぽりと収まっていた。
「一緒に作ったのか?」
「うん。ウソップに作ってもらったんだ。これはオレとサンジの絆だ。大好きだからサンジにあげたかったんだ」
 少し照れた笑顔をオレに向けてくるルフィをオレはぐいっと引き寄せて、抱きしめた。嬉しくて嬉しくて仕方がない。今すぐ、ここで押し倒して抱きたい気持ちが押し寄せてくる。
「ルフィ!オレも大好きだ。ありがとう…お前の絆大事にする」
 ぎゅっと背中に回した腕に一層力をこめると、ルフィもオレの背中に腕を回して抱きしめあった。
「うん!」
 ルフィが一瞬離れたかと思うともう一度近づいてきて、オレにキスを贈ってくれた。


Fin