■ 『 Happy? 』 水天宮拓仄

「サンジ〜!」
 キッチンのドアを勢い良く開けていつものようにルフィが入ってきた。その途端に、サンジがものすごい勢いでかけよってドアの外に押し出す。自分もキッチンから出て後ろ手にドアを閉じるとルフィの視線に自分を無理やりに入れた。
「どうしたルフィ?」
「な、なんだよ、サンジ?わざわざ外まで来なくても」
「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。何か用か?今、ちょっと忙しいんだ」
 苦笑を浮かべながらサンジが、いつもの口調より少し早い感じだった。あきらかに、いつもと態度が違うサンジを疑問に思いながらも、自分がキッチンを尋ねた理由を口にした。
「なんか食べ物くれよ」
 笑顔でサンジを見上げるとサンジが渋い表情をしている。
「ダメだ。昨日も夜食つくってやっただろ?船の食料も残り少ないんだから、少しはお前も我慢しろ。わかったな?夕食できたら呼ぶから、それまでキッチンに入ってくるなよ!」
 強い口調で言い残すとサンジはそそくさとキッチンに戻ってしまった。いつもなら、渋々でもおやつなど用意してくれるサンジに、ここまできっぱりと断られたルフィはなんだか悔しくてキッチンを離れた。
「なんだよ、サンジの馬鹿!ちょっとくらいいいじゃんかよー!いつもは作ってくれるのに」
 ブツブツと文句を言いながら、夕食までの時間を一緒に遊んでくれそうな相手を探して船の中を歩きまわってみる。みかん畑にチョッパーの後ろ姿が見えたので、声をかけた。
「チョッパー!夕飯まで遊ぼうぜ!」
 いきなり声をかけられたチョッパーは、飛びあがるほど驚いてルフィを振りかえった。
「ル・・ルフィ!だ、だ、ダメだ!今ちょっと・・その・・忙しいから遊べないんだ!ごめんな!」
 何かを拾い集めると、まるでルフィから逃げるように立ち去ったチョッパーを呆然と見送ったルフィは首を傾げる。
「…じゃあ、ウソップのところに行ってみるか」
 ウソップがいつも"星"を研究している倉庫に入ると、案の定ウソップが何か作っている最中のようだった。床においてあるものに向かって一生懸命細工しているウソップの後ろ姿が、ルフィの目に止まる。
「ウソップ!今度は何作ってんだ?」
 背後からひょっこりルフィがウソップの手元を覗きこもうとすると、ウソップはものすごい勢いで細かい部品を集めて自分のバッグに詰めこむ。ものすごく慌てた様子で、ルフィの方へ振り向くとしどろもどろにまくしたてた。
「こ、こ、これはなぁ!秘密兵器を開発中なんだ!"秘密兵器"だから、お前にも秘密にしなくちゃいけねぇんだ!悪いなっ!じゃ…じゃあな!」
 そそくさとバッグを大事そうに抱えて倉庫から出ていくウソップを、なんだか腹立だしい気持ちで見送るとルフィも誰もいなくなった倉庫から出た。夕食前のこの時間はきまってゾロは甲板でトレーニングをしているはずだ。いつもなら邪魔しないように、しているルフィだったが誰も相手をしてくれないので、今日はゾロのところへ行ってみることにした。
「ゾロー!」
 甲板にいるものだと思って声をかけたが、そこにはゾロの姿はなく静まり返っていた。キョロキョロとあたりを見渡すがゾロの姿は見えない。いつもトレーニングに使っている超重いバーベルもおきっぱなしでどこに行ったのだろうか?
「ゾロ?いないのかよ…ちぇっ」
 つまらなそうにゾロのバーベルを蹴飛ばすが、超重いので動かなかった。それがますますルフィのイライラに拍車をかけていく。どうして今日に限って、みんながつれないんだろう?頬を膨らませて甲板にどっかり腰を下ろすと、背後から誰かが近づいてくる気配を感じる。イラついているルフィは振り返る気持ちにならず海を眺めていた。
「どうしたの?いつもの元気がないみたいね?」
 悪魔の実の能力でルフィの頭ににゅっと花が生える。いつもなら、大喜びではしゃぐルフィだったが、今はそんな気分にはなれなかった。うっとうしそうに花をつかもうとすると、花は一瞬にして消え去った。
「なんだよ?」
「あなたらしくないわ、もっと元気にしてくれなくちゃ・・おもしろくないじゃない」
 ルフィの横に立って、一緒に海を眺めるロビン。
「オレだっておもしろくないぞ」
「みんながあなたの相手をしてくれない事が?」
 くすりと笑ったロビンにルフィが腹を立てる。立ちあがると横にいるロビンを睨みつけた。
「なんだよ、何がおかしいんだよ?おかしいのはみんなじゃないか!」
「ふふふ…本当、あなたって幸せ者ね。うらやましいわ」
 それだけを言ってロビンはスタスタとナミと共同で使っている船室へ戻っていく。ロビンの言葉にますます腹を立てたルフィだったが、この怒りをぶつける場所もなく甲板に再び腰を下ろした…その時にキッチンからサンジの声が響いた。
「飯だぞーーー!ルフィ〜」
 サンジの声は聞こえたが、さっきのサンジの態度やみんなの態度に腹を立てているルフィは、そのまま甲板に座り込んだままだ。しばらくすると、聞きなれた足音が近づいてくる。間違いなくサンジだ。でも、振り返ってやらない。
「ルフィ」
「……」
「ルフィ」
「………」
 サンジが真後ろまで近づいてきたのは気配でわかる。突然ルフィは暖かい腕に包まれて目を見開いた。
「…サンジ?」
 いつもなら夕食ができた合図に遅れると怒り出すくせに、今日はどうしたんだろう?どうして、こんなに優しく包んでくれるのだろう?それがわからなくて、背後から抱きしめてくれているサンジの方を振り向いた。そこには、笑顔のサンジが待っている。
「誕生日、おめでとう」
 笑顔のサンジがそのまま近づいてきて唇に軽いキスを贈ってくれる。サンジの言葉に目をぱちくりさせていると、ルフィの手を取ったサンジがすくりと立ちあがる。つられて立ちあがったルフィ。
「さ、夕食の用意ができたぜ。みんな待ってるんだからな」
 怒ってる様子もなくにこにこと自分に話かけてくるサンジに連れられてキッチンの前まで辿りついた。
「ちょっと待ってろよ」
 ルフィをドアの前に立たせて先にサンジが中に入る。まだ状況が把握できていないルフィはドアを見つめているが、一向に開く気配がないので自分でドアを開けた。
『おめでとう!ルフィ!!』
 一斉に自分に向けられた祝福の言葉と、それぞれの笑顔。
「な…なん・・なに?」
「ルフィ、今日はあんたの誕生日でしょ?自分が生まれた日も忘れちゃったの?」
 ナミがにこにこと近づいてくると、ルフィにグラスを手渡した。グラスに注がれているのはオレンジ色で綺麗なお酒。
「私からのプレゼントよ。酒に弱いあんたでも飲めるローアルコールのオレンジ酒。作るのに時間かかるんだから味わって飲むのよ」
 ウィンクしてグラスを高だかと上げると、みんなもそれに習った。
「それじゃあ、麦わら海賊団・船長の誕生日を祝して…」
『乾杯!!!』
 少し照れくさい顔でゾロが乾杯の音頭をとる。みんなの笑顔を受けとめながらルフィは祝福の時を受け入れた。
 さっきまでのそっけない態度は、みんなルフィの誕生日を祝うための準備だったのだ。ウソップは、ルフィに贈るプレゼントの作成担当。何を作ったかは"秘密兵器"なので秘密ということにしておこう(笑)。サンジは、パーティーの料理担当、ナミとチョッパーはその手伝いに。ゾロは、乾杯の音頭を買って出てしまったのは良いものの慣れない役目に悪戦苦闘。パーティーの寸前までトレーニングを休んでまで、シャワールームでこっそりと練習をしていたのだった。ゾロ的に、ルフィを祝ってやりたい気持ちがそうさせたのだろう。
 そして、1番新しい仲間のロビンは船室から出てきていない。パーティーも終わりに近づき、みんな良い気持ちで過ごしている。仲間達に祝ってもらえたルフィは、心地よい雰囲気にゆったりと身も心も預けていた。


 アルコールが弱いと言っても、ナミの作ってくれたオレンジ酒をたくさん飲んだルフィは酔っ払ってしまっていた。夜風に当たるために、まだまだ賑やかなキッチンを離れて、いつもの船首に腰を下ろす。ふらふらしていると、背後から再びサンジに抱きしめられた。
「サンジ?」
「ああ、オレだよ。オレじゃなかったらどうする?」
「しししっサンジ以外にこんな事する奴いねぇよ」
「それはどうかな」
 意味深な笑みを浮かべてサンジはルフィの肩に顔をうずめる。少し肌寒い風が、酔った体には心地良いものとなって二人を包んでいた。


FIN