■ 『 囚われの船長 』 水天宮拓仄

「話には聞いていたが…海桜石ってのは相当な効き目があるんだな。まさか、あのルフィが簡単に捕まっちまうなんて今だに信じられねぇ」
 いつも白い顔色だが、今はさらに青白い顔をしたサンジが絶望的な表情でつぶやいた。サンジの言葉にナミ、ゾロ、ウソップ、チョッパー、ロビンの面々も押し黙っている。今は、ゴーイングメリー号のキッチンに船長のルフィを欠いたメンバーが揃っていた。辺りには重苦しい空気がただよう。
「ったく…あれだけ用心するように言っておいたのに…食べ物に釣られて捕まるなんて」
 ナミが大きなため息をついてテーブルにつっぷした。このゴーイングメリー号の船長は、昨夜遅くに自分の空腹を満たすため、キッチンに忍び込んだが…今は港に寄港しているために食材がまったくない状態だった。そこで、港街なら夜遅くまでやっている飯屋があるだろうと1人で船を抜け出したのだ。その結果が、海軍の罠にひっかかり…囚われの人となっているのだ。ルフィの後をサンジが尾行していたのだが、サンジが美女に一瞬気を取られてる隙の出来事。
「すみません、ナミさん!僕がついていながらルフィを海軍なんかに」
 テーブルに額をこすりつけて謝罪するサンジを見てもナミは大きなため息をつくだけ。当然、船長なのだから助けに行かなければいけないこともわかっているが、捕まった経緯があまりにも馬鹿馬鹿しくて助けに行く気持ちがなかなか出ないのだ。
「ま…早いうちに助け出してやらねぇと…あいつ首飛んじまうぜ。明日にでもな」
 ゾロが冗談に聞こえないことをつぶやくと一同が力なくうなづく。助ける作戦を、今全員で相談しているところなのだから。
「海軍は海桜石を持っているわ…いくら船長さんが強くても、自力での脱出はほぼ不可能ね。誰かが海軍基地に潜入して救出しないと」
 ロビンがもっともな意見を出して、一同がうなづく。そう、海軍基地に乗りこむということは、自分の身も危ないということなのだ。ウソップが青ざめながら両手を振り、首を左右に振る。
「お…俺は、はっきり言って無理だからな!」
「…誰もお前に行けとは言ってないだろ」
 ゾロがイライラした表情で睨みつけると、ウソップも黙りこくってしまう。
「海軍基地に乗りこむなら…全員で行っても危険なだけだわ…そうね、2人で潜入してルフィを救出してくる…って感じね。だいたい、罪人は最上階か最下層に囚われるから二手に分かれて探せば効率もいいはずだわ」
 ナミがポンと手を叩いて、サンジとゾロを見つめる。その視線に、無言でゾロが立ちあがると脇に立てかけておいた三刀を装備して、サンジを促がす仕草をした。
「ああ、わかってる。そうと決まれば一刻も早くアイツを助けてやらねぇと。腹も減ってるはずだ…昨夜から何も食べてねぇんだからな」
「気をつけて行ってきてね。ルフィが捕まったから…この船もいつまでも、この島においておけないの。この場所が見つかるのも時間の問題よ。遅くても明日の朝までに戻ってきて!」
「わかった」
「了解しましたナミさん。安心して待っててください。寝不足は美しさの敵です」
 恭しい態度でナミに話かけるサンジを睨みつけると、ゾロが荒荒しく声をあげる。
「油売ってねぇで、さっさと行くぞ!」
「ちっうるせぇな!」
 2人でどたどたとキッチンから出て行くといっきに地面まで飛び降りる。海軍基地の裏手にあたる岸に船を隠してあるのだ。しばらく全力で森の中を走りぬけると、海軍基地が目の前に現れた。
「さて…忍びこむなんてオレ達ができると思うか?」
 サンジがタバコをふかしながら横にいるゾロに声をかけた。
「いや、できねぇな…」
「そうだよなぁ…ってことは、やっぱり」
 タバコを地面に捨てると足で揉み消す。
「ああ、正面突破しかねぇだろ。お前、どっち行く?」
「オレは下だ」
「よし決まったな!明朝船で落ち合うぜ!」
 短い相談を終えた2人は同時に海軍基地の門扉を破壊すると、いっきに基地内部に向かった駆け出した。突然の襲撃に驚いた海軍だったが、さすがに軍隊ですぐに応戦してくる。
「な、なんだ!麦わらの一味だ!捕らえろ!」
 わらわらと海軍兵士が2人の行手を阻もうとするが、サンジとゾロの敵ではない。走る速度もそのままに、斬りかかってくる海軍兵をどんどんさばいていく。基地の中に入ると、互いに目配せしあって、それぞれの使命を持ってゾロは階段を駆け上がり、サンジは地下への扉を開け放った。あとは、前進あるのみ。
「ルフィっ」
 走りながらサンジは船長の名前を声の限り叫ぶ。なぜかルフィは地下にいると確信があった。はっきりとした根拠はない。サンジの何かがそう感じたと言えば良いのだろか。
「すぐに助けてやるからなっ待ってろよ!」
 後ろから前から襲いかかる海軍兵を蹴散らしながらサンジは己の直感を信じて下へ下へ降りていく。地下から吹き上げる風に潮の匂いを感じとり嫌な予感がした。悪魔の実の能力者は海水に触れると力が抜ける。地下牢は、悪魔の実の能力者を閉じ込めておく専用の牢屋なのだ。
「まさか…もうダメなんてことはねぇだろな!ルフィ!」
 潮の匂いをかぎながら地下へどんどん駆け下りていく。開けた空間の床には、膝上くらいの海水が波打っていた。左右を見ると頑丈に作られた檻…それも悪魔の実の能力者を閉じ込めておく牢…まさしく"海桜石"で作られているのは明白だった。
「ルフィ!どこにいるんだっ!」
「サ、サンジ!サンジ!ここだ!」
 牢から力なく手を振りながらも声をなんとか張り上げるルフィを見つけて、サンジはその場にへたりこみそうになった。
「無事だったか!」
「ん、無事なんだけどな…抜け出せなかったんだ。ごめんな、しししっ」
「馬鹿野郎!笑いごとじゃねぇ!こっちはどれだけし…いや、船長がいなくなったらオレの夢もかなわなくなっちまうからな!」
「なんだよ心配したんじゃねぇのか?」
 ちょっと寂しそうな表情を見せたルフィにサンジの胸が痛んだが、今はそんな雰囲気を作ってる場合ではない。早くこの海軍基地からルフィと一緒に脱出しなければならない。
「ちょっと下がってろ!今、その檻ぶっこわしてやる!」
 そう言うと強力なサンジの足技で檻を破壊してようやくルフィは自由の身となることができた。しかし、足元に広がる海水にまともに歩くこともできないようだ。
「さんきゅーサンジ!サンジが助けに来てくれてオレすっげぇ嬉しいぞ!」
「はっ誰が来たって同じこと言うんだろ!もたもたしてねぇで、ほらっ背におぶされ」
 海水に浸ることも躊躇せずにひざまずいて背をルフィに向ける。海水に浸ったままのルフィでは戦力ならない。それに、体についた海水が乾かない限りはいつもの力が出せないのだ。
「オレがお前を守ってやるから!早く乗れっ」
「…ん!」
 頷くとルフィはサンジの背中に体を預けて、落ちないようにしっかりとサンジにしがみつく。その感触を心地よく感じながらサンジは今来た道を全力で、今度はルフィと2人で戻る。海軍兵はさきほど、ほとんど倒したせいかほとんど出会わないですみ。あっさりと海軍基地の外まで抜け出すことができた。ゾロは、まだ基地の中なのか基地内部が今だ戦闘中のようで、ルフィを連れて船に戻るには絶好の機会。基地から少し離れた森の中で背中に背負ったルフィを下ろすと、ほとんど海水は乾ききりルフィも普段とほぼ同じ動きができるようになっていた。
「ありがとうな、サンジ…助けてくれて」
「当たり前だ。仲間のピンチにじっとしてられねぇよ」
 改めて正面からルフィが礼を言うことなど初めての経験で、サンジは照れくさそうに頭をかいて横をむいた。
「仲間か…」
「ああ、仲間だろ?」
「そうだけどさ…それだけなのか?オレとサンジ」
 もじもじと珍しく口ごもるルフィの姿にサンジは、すぐに体を引き寄せて抱きしめたくなる衝動をぐっと押える。
「ちがうのか?」
「ちがうだろ?だって…オレとサンジ…この前チュウしたし…さ」
「あ…あれは…その…あれ」
「ナミに聞いたら、"チュウ"って恋人同士がやるもんだって」
 森の中を歩きながらルフィを横目で見ると真っ赤になってうつむいている。
「…ああ、そのとおりだ…お前は絶対にオレが助けてやるって。大事な仲間でオレの大好きな人間だからな」
「サンジ!」
 ぱっと顔を上げてサンジの腕に自分の腕を絡めるとルフィは眩しいくらいの笑顔でサンジを見上げる。
「わっ!なんだよっ」
「船までおぶってやるよ!しっかりつかまれっ」
 ルフィを背に負ぶったサンジの顔は真っ赤に染まり、船に向かって駆け出していた。


Fin