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| ■ 『 Strange love 』 水天宮拓仄 |
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シャンクスは、道でやせ細った猫を拾うことになる。その猫は、ほかの猫と喧嘩でもしたのか左目の下に大きな傷がついていた。
「お前の名前はルフィだ。今日から俺の家族だからな」
家に連れ帰った猫を風呂に入れ、えさを与えながらシャンクスは猫に“ルフィ”と名づけたのだった。
ルフィと名づけた猫と暮らし始めて、7日過ぎた頃。突然、ルフィの消息がわからなくなってしまった。
シャンクスはため息をつきながらも
「やれやれ猫は気まぐれだからな」
とルフィとの別れをさほど気にしていなかった。ルフィが消え去ったある日の夜、シャンクスの家に訪ねてきた少年がいた。
玄関に呼び鈴があるにも関わらずぶしつけにドアを叩く音でシャンクスは目が覚めた。
ベッドから起き上がると玄関に近づきながら、迷惑そうな表情を隠そうともせずに不機嫌な声を出した。
「はーい、誰?こんな夜中に」
「え…えっと」
シャンクスの問いかけに外にいる人物は言葉を濁した。声が意外に若かったことにも驚き、シャンクスは無用心にも、そのままドアを開けた。
そこには、黒髪で大きな黒い瞳を持つ華奢な体つきをした少年が、寒いこの季節にも関わらず、真夏にするような格好で立っていることに驚いた。
そして、少年の左の頬に大きな傷がくっきりと残っていることにも目を見開く。
「君は一体…?それにこんな夜中に俺に何か用かい?」
「あ…そ…その、オレは……」
たどたどしい言葉で頬を朱に染めながら少年はシャンクスの顔を見ると俯いてしまう。
その様子にシャンクスは首を傾げる。この少年に出会った記憶はまるでない。それに、少年のこの格好。
「用がないなら帰りなさい。親御さんも心配しているだろう」
そう言いながらドアを閉めようとしたがすごい勢いで少年が玄関の中にすべり込んできた。
その行動に驚いたシャンクスは少年の肩を強く掴んだ。
「何をするんだ?いくら子供だからと言っても、勝手に人の家に入り込むことは許されることじゃないんだぞ」
諭すように語りかけるが少年は下を俯いたままだ。
「ここ…オレの家」
その一言を発するとまた口を閉ざしてしまう。少年の言葉にシャンクスは困り果ててしまった。
この子は家出してきたのだろうか?自分の家だと言っているが前に住んでいた家族の子供かなにかが押しかけてきたのか?
「前はそうかもしれないが、今は俺の家なんだぞ?…えっと…君の名前は?」
「…る…ルフィ」
「ルフィ!」
ルフィと名乗る少年の顔を見ると、数日前に自分が拾った猫を思い出す。
同じ位置にある傷もどことなく猫のルフィの面影があるようにも思える。
「君、本当にルフィという名前なのか?」
「うん」
少年はシャンクスに自分の名前を呼ばれたのが嬉しいのか、笑顔で頷いた。
「どうしてココに来た?」
「……わかんない」
首をふるとシャンクスの腕にしがみついてきた。
ルフィの体は冷え切っており、このまま外へ放り出してしまうのも無情に思えて、シャンクスはルフィを家の中に招き入れることにした。
暖かいミルクをちょっとずつ舐めるように飲む姿は、熱いものが苦手な猫のようにシャンクスの目に写る。
目の前に座っている少年があまりにも、数日前に消えた猫のルフィと似ていたから。
きっと、猫のルフィが人間になったら、この少年ルフィのようになるんだろな…等と考えながら、
しばらく少年ルフィを眺めていたら、ルフィと目が合ってしまった。
軽く咳払いをするとシャンクスは口を開いた。
「ルフィ君はー」
「ルフィでいいよ」
「じゃあ、ルフィ。君はどうしてココに来たのかわからないと言うが…家はどこ?親御さんは?」
シャンクスの問いかけに困ったような表情をするルフィは首を傾げる。
その様子を見ていると、このルフィ少年が嘘をついているとは思えない。
記憶喪失の家出少年ならば、しかるべき機関に報告し、調査してもらわなければならないだろう。
「オレ…シャンクスに会いたかっただけなんだ」
「なんで俺の名前を?」
まだルフィに自分の名前を明かしていないというのに、この少年は以前から知っていたかのように自分の名前を呼ぶ。
「それは…言えない」
首を小さく左右に振ると、冷めてきたミルクをぺろぺろと舐めながら飲んでいた。
「どうして?」
「どうしても。約束したから」
「誰と約束したんだ?」
「それも言えない」
申し訳なさそうに言葉を濁すルフィにシャンクスは溜め息をつくしかなかった。
そして脳裏に非現実的な考えが浮かびはじめる。
数日前に失踪した猫のルフィが人間になって、再び訪れてきたのではないか?という考えだ。
自分の考えに、ぶんぶんと頭を振ると、目の前に縮こまりながら座っているルフィをもう一度よく観察してみる。
自分の非現実的な考えを否定しようと思うが、どこを見ても猫のルフィにそっくりに見えて、考えを完全に否定できない。
「どうしたんだシャンクス?」
不思議そうにシャンクスを眺めていたルフィがいつの間にか下から覗きこんでいた。
大きな黒い瞳で見つめられてシャンクスは一瞬ドキリとする。
ルフィがそのままシャンクスの膝に伸し掛かると嬉しそうに首筋に抱きついてきた。
「な…何を」
「抱っこして」
「へ?」
「お願いだから抱っこして」
目を見つめられながらお願いされて、シャンクスはルフィの背中に腕を回した。
「サンキューシャンクス…」
ルフィがシャンクスの耳元でそうささやいたかと思うと、次の瞬間に抱きしめていた感触がふっと消えていた。
「ルフィ?」
周囲を見回すと開けた覚えのない窓が開け放たれ、冷たい夜風が部屋の中に吹き込む。
「…消えた?」
両手に残るルフィのぬくもりだけは確かで、シャンクスはその場に立ち尽くすしかできなかった。
ルフィはシャンクスに恋をしていたのかもしれません。
ただ一度だけでいいので抱き合ってみたい…と猫は強く思った。
猫の恋に神様が気まぐれに夢を見せてくれたのでしょう。
End |
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