■ 『 Voice 』 水天宮拓仄

 最近、サンジを見ているだけで熱くなるような気がする。
サンジの後ろ姿に
サンジの綺麗な金の髪に
体臭さえも甘く感じるように
身体の奥にまで響いてくる低い声。
…オレはいったいどうしちまったんだろう?


―――― Voice ―――――
 夜明けも近い時刻に珍しくルフィが目をさました。火照った身体をだるそうに引きずりながら仲間達が眠る部屋をそっと抜け出す。
ひんやりとした風を肌に感じながら、いつも腰をおろしているメリー号の船首に昇った。
「はぁ…」
 この船のキャプテンらしくない大きなため息が漏れて、肩も力なく下がり、瞳も遠くを見つめたままぼんやりと開かれたままだ。
「……はぁ〜」
 薄暗い空を眺めながら自分の変化を敏感に感じ取っているルフィ。自分の身体がこんなに火照っているのか理由もわかっている。
「どうした?溜め息なんかお前らしくないな」
 背後から急にかかった声に座っていた腰が浮きかける。
「サンジっ」
「おっと、あぶねぇ!」
 腰を浮かせた瞬間バランスを崩したルフィは危うく海へ転落するところだった。
サンジが後ろから抱きとめることでそれは未然に防がれる。
「さ、さんきゅーサンジ」
 サンジに背後からしっかりと抱きとめられ、そのまま船首に腰を下ろす。
さっきまでのぼんやりとした感覚はなくなり、ルフィの身体は一層熱くなる。心臓の鼓動も隠しようがないほどに高まるばかりだ。
「ルフィ?」
 ちょうど抱きとめた形になっているサンジの唇が耳元に軽く触れる。その感触にルフィは身をすくめた。
そんな様子に唇に意地悪な笑みをサンジが浮かべたことを知ることができないルフィ。
「あ、あさめ…しの用意しなくていいのかよ?」
 もじもじと身をよじらせ少しでもサンジから離れようとするが、腰をぐっと引き寄せてサンジはそれを許さない。
耳元にわざと唇を軽く触れさせそっと低い声でささやく。
「もう終ったよ…それよりルフィ?」
 耳朶に軽く息を吹きかけるとルフィの肩が硬直するのがわかる。
背中ごしに激しく高鳴る心臓の鼓動が心地よくサンジを包みこんだ。
そして、同時に“もっと苛めてみたい”という願望がサンジを満たしていく。
「な…何?」
 ビクっと身体全体を震わせてサンジの方を振り返ろうとしたが、それは叶わなかった。
「今、俺に一番何して欲しいと思ってる?」
 そっと風のようにささやきかけるサンジの声がルフィの身体の奥に響く。
触れられてもいない部分が熱くなってくるのが自分でもわかる。
振り向こうとした顔は、すぐに俯いてしまって、首や耳が赤く染まっていくのが、この薄暗い中でもサンジにはよくわかった。
「何をって…?」
 首筋にあたるサンジの呼吸さえ敏感に感じてルフィは身をすくめる。
サンジにささやかれただけで、なぜこんなにも熱くなってしまうのかわからなかった。熱にうなされて瞳にはしだいに涙が溜まってくる。
「わかってんだろ?自分が今どーいう状態になってんのか」
 ルフィの耳朶に軽く歯を立て、すぐに離す。腰を抱きしめた腕は、やさしく胸のあたりに添えられていた。
一番肝心な部分には触れないように意地悪な指先にルフィは泣きそうになる。自分が今何をして欲しいのかサンジはわかっている。
わかっていて、自分に意地悪をしているのだ。



「なん…サン…ジ?」
 クスっと笑いながらルフィのうなじに唇を寄せて軽く吸う。
それだけでルフィはどうにかなりそうだった。いいようにサンジに弄ばれているという事実が尚更ルフィを追い詰めていく。
「黙ったままじゃ、わからないぜルフィ。なぁ、俺に今何をして欲しいか言ってみな?」
 下を俯いたままのルフィの顎を掴むと強引に自分の方に向けさせる。
潤んだ瞳に一瞬緩む気持ちを抑えて、わざといやらしい笑みを浮かべた。その表情にルフィに苦悶の表情が浮かぶ。
「も…やだっ…なんでこんな事すんだよ?」
「俺は何もしてないぜ?勝手にお前が“こんな”になってるだけだろ?ちがうか?」
 図星をつかれたルフィは、かっと顔に血をのぼらせ、唇をかみ締めた。
かみ締めた唇から赤い鮮血が迸る。
「そ…そ…だけどっ!なんでこんな意地悪すんだよぉ」
 唇から流れた赤い血を愛しそうに舐めとると、舌にルフィの血を残したままサンジは唇を合わせた。
互いの口内に血の匂いが充満していく。
「サンジ…サンジっ」
 身体をひねってサンジの首筋に腕を絡ますと深い口づけを無言で要求するルフィ。
その要求に応えるサンジはそのまま深い口付けを与えた。
「ルフィ…言えよ。俺にどうして欲しい?」
唇を離し
目を見つめ
何度となく繰り返した言葉をささやいた。
「……て…欲しい」
「ああ」
 意地悪い笑みを浮かべつつも優しくルフィを抱きあげた。


 夜が明ける頃にはいつも通りの日常が始まる。


The end


イラスト/桃神弥留さん