|
 |
|
 |
|
| ■ 『 不幸中の最高 』 水天宮拓仄 |
|
キッチンで食器を片付けていたサンジの背後から騒がしい足音が近づいてくる。
とっさにサンジは、その足音が誰のものか判断がつく。だんだんと近づいてくる足音が止まると勢いよくドアがあけられた。
中に入ってきたのはサンジが予想した通りの人物で、ゴーイングメリー号の船長であるルフィだ。
「ルフィ・・・もう今日は何も作れねぇからな!」
振り向きもしないで声を荒げると背後から元気な声が抗議の声を上げた。
「えー!オレまだ何も言ってねぇぞ!」
「お前がここに来る時と言えば、”飯時”、”餌ねだり”ぐらいだろーが!」
最後の食器を洗い終わったサンジがエプロンで濡れた手を拭いながら振り返ると
不機嫌そうな表情のルフィがドアのところに立ちふさがっていた。
「今日は違うぞ!」
少し怒った表情になってドアを後ろ手にしめると、なんと鍵までかけたことにサンジが驚いた。
「なんで鍵まで絞めるんだよ?お前、まさか・・・オレを襲う気なんじゃ・・・」
後ろに後ずさりながらサンジが冗談を飛ばすと、ますますルフィの表情が険しくなっていく。
からかいすぎたなとサンジは即座に判断して、笑みを浮かべながらタバコを取り出して口にくわえる。
「ま、怒るなよ。冗談だって。で、オレに用事があるんだろ?」
サンジの言葉にルフィが笑顔になって、力強く頷いた。つかつかと椅子に近づくとサンジの目の前の椅子に腰かけた。
「で?オレに用事って?飯以外なんだろ、珍しいな」
「あのさ・・・オレ、ケーキ作りたいから・・・教えてもらえないかなと」
上目使いにサンジを見つめて、なぜかもじもじと指をいじりながらサンジの答えを待つルフィ。
「はぁ?ケーキ?お前が作るって・・・本気にか?」
「おうっ本気だぞ!」
「なんでケーキなんて作りたいんだ?オレが作ってやるよ」
椅子から立ち上がると冷蔵庫の中を確認するサンジ。ちょうど冷蔵庫にはケーキを作るに足りるほど材料が入っていた。
「ダメっオレが作るからサンジは教えてくれればいいのっ!」
やけにムキになるルフィに首を傾げたサンジだったが、すぐに理由に心当たりがついた。明日は、ゾロの誕生日。
「はぁ〜なるほどね・・・あの緑マリモのために自らケーキを作ってやりたいというわけか」
サンジの何かを言いたげな表情にルフィはちょっと頬を染めた。ゾロとルフィが良い仲だということは周知のこと。
ぽりぽりと頭をかくと、サンジを見上げた。口元に笑みを浮かべたサンジは冷蔵庫から材料をテーブルに出しながら口を開く
「わかったよ。オレは教えるだけでいいんだな?」
「おうっ!サンキューサンジ!!」
嬉しそうに椅子から飛び上がるとサンジから手渡されたエプロンを身につけて嬉しそうに笑った。
さあ、ルフィ手作りの特製誕生日ケーキは・・・・・?
ー数時間後ー
サンジからマンツーマンで教えてもらいながらケーキ作りに奮闘したルフィは、満足そうに笑っていた。
その横には、複雑な表情で立ち尽くすサンジもいる。二人の目の前には、見た目も香りも微妙なケーキと呼ぶのも
微妙な物体が横たわっていた。ルフィ的には大満足の出来ばえらしいが・・・サンジは恐ろしくて味見もできない。
「できたーーー!」
「・・・そ、そうだな」
複雑な笑みを浮かべながら、この物体を食べることになるであろうゾロの身をそっと案じるサンジをよそに
ルフィは嬉しそうに物体を色々な角度から眺めては、ゾロに喜んでもらえると思うと笑わずにはいられないらしい。
「どう?すっげぇケーキだろ、これ!」
自信満々にサンジを見上げるルフィにサンジは、苦笑を浮かべながらルフィの頭に手をおいた。
「おう、すげぇケーキ作ったな、ルフィ!」
「へへへっ」
「で、これはいつゾロに渡すんだ?」
「明日になった瞬間!ゾロびっくりすんだろうな〜楽しみだ」
「まあ・・・確かにびっくりはするだろうな」
小声でケーキのような物体を箱に入れて、リボンをつけて冷蔵庫に入れてやると、心の中でゾロに同情したのだった。
ルフィがケーキを作った夜。あと少しでゾロの誕生日を迎えようとしていた。
ゾロは、ちょうど見張り番で船の甲板で海を見渡している。そのゾロの元に、いつもならとっくに寝ているはずの
ルフィが嬉しそうな顔で手には大きな箱を持って近づいた。
「どうしたんだ、ルフィ?もう寝てる時間だろ」
突然現れたルフィに驚きを見せながら、優しい目をするゾロ。自然な動作でゾロの隣に腰を下ろして箱を甲板に置く。
「なんだ、この箱?」
「へへへ、まだ内緒!もうちょっと待ってて」
嬉しそうに箱とゾロの顔を交互に見つめて笑顔を見せるルフィに首を傾げながらも、
愛しい人間が傍らにいてくれることをゾロは心地よく感じていた。ずっと傍にいて欲しいと願わずにはいられない。
ルフィがサンジから借りた時計をチラチラと見ながら突然立ち上がるとゾロの正面に回りこんだ。手には、あの箱。
「誕生日おめでとうゾロ!」
「・・・・あ・・・」
「これオレからのプレゼント!手作りなんだぞっ」
自慢気に箱をゾロの前に突き出すと、開けろとばかりに目を輝かすルフィに従ってゾロは箱のリボンをといた。
「・・・・?」
「すっげぇケーキだろっ!オレの特製ケーキなんだぞ」
箱の中を見た瞬間、どう反応して良いか迷ったゾロだったが・・・形や味はどうあれルフィの心が嬉しかった。
心をこめてルフィに
「ありがとう、ルフィ・・・すげぇケーキだな」
「食べてみてくれゾロ!」
その言葉にゾロは躊躇せずにケーキを丸ごと口に運んだ。
ー翌朝ー
「ゾロ!大丈夫か?・・・・ゾロ!・・ゾロ!」
「・・・・・・・・・ん・・・ルフィか?」
目の前に涙を潤ませながら覗き込むルフィを認めてゾロは首を傾げた。確か、夕べルフィに誕生日を祝ってもらって、
ルフィが作ってくれたケーキを食べたところまでは覚えているのだが・・・それ以降の記憶がない。
それになんだか下腹部が猛烈に痛むことに顔をゆがませた。苦痛の表情を見せたゾロにルフィは泣いて謝る。
「ごめんなゾロ!オレが作ったケーキ食べたら、突然ぶっ倒れて・・・」
申し訳なさそうにゾロの手を強く握るルフィに、自分の身におきたことを瞬時に理解した。ケーキを食べた直後に
自分は倒れ、この男部屋のソファベッドに運ばれたらしい。そして、意識を失って・・・気づいたら朝というわけだ。
「気にすんなルフィ・・・あのケーキ美味かったぞ、最高だった」
「・・・ほんとか?」
「ああ」
腹痛をこらえながら、できるだけ優しく微笑むとルフィの涙を指ですくいとる。
「オレ、今日はずっとゾロの看病してやるからな!やって欲しいことがあったら遠慮なく言えよ!」
「・・・・・・」
思わぬ展開に目をパチクリするばかりのゾロだったが、今日は自分の誕生日。嬉しい申し出に甘えよう。
それに、自分が一番望んでいたプレゼント・・・・・。
「じゃあ、ずっと俺の傍にいてくれよルフィ・・・・それだけで充分だ」
すっと目を閉じて心地良いルフィの気配を感じながら、ゾロは幸せに浸った。
ゾロにとっての最高のプレゼントを知らずにルフィはちゃんと用意していたということ・・・・・。
end |
|
 |
|
|
|