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| ■ 『 special 』 水天宮拓仄 |
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『ルフィ!お前、どっちが好きだ?』
ルフィを挟んで二人の仲間が火花を散らしている。そう、未来の大剣豪・ロロノア・ゾロと自称・一流コック・サンジだ。すごい剣幕の二人を不思議そうな表情で見比べて、ルフィはにっこりと笑う。
「ゾロもサンジもオレは好きだぞ?何言ってんだよ二人共」
そう笑いながら二人の間を抜けてすたすたと甲板を横切るルフィを、同じタイミングで見送った二人は、再び睨みあった。
「あいつに聞いても、答えはいっつも同じでキリがねぇ」
「…こうなったら、俺達二人、どっちがあいつをモノにするか勝負だ!」
「おもしれぇ!」
ゾロが腰の剣に手をかけた瞬間、二人の後ろから
「ゾロ!サンジ君!船の上で暴れたら承知しないわよ!」
と、陰の支配者・ナミからの渇が飛ぶ。その言葉に、剣の柄にかけた手をゾロはひっこめると、小さく舌打ちをする。サンジに至ってはにこやかにナミを振り返ると、快諾した。
「わかってますよ〜ナミさん!ぼく達暴れないですから!なっゾロ?」
ゾロの方を振り返った瞬間には、眉間に皺を寄せ憎憎しい形相で睨みつけていた。そのサンジの視線にゾロの形相も変わる。しばらく二人の睨み合いが続いた。
「よぉし!じゃあ、ルフィを喜ばした方が勝ちだ!」
「へっ、俺が勝つに決まってんだろ?一流コックの俺がな!」
「なっ!てめぇ、それはフェアじゃねぇぞ!餌でつるようなもんじゃねぇか」
ゾロの言葉を聞いてサンジは、満面の笑みを浮かべる。
「てめぇが言い出した勝負だ。フェアもアンフェアもあるか!俺は別に卑怯な手を使うわけじゃねぇ、自分の持ってるスキルを活かすだけ。文句を言われる筋合いはないぜ」
そう言いながら鼻歌交じりでサンジはキッチンに向かう。これから、ルフィのためにスペシャルデザートを作ろうをはりきっていた。その後ろ姿を憎らしげに見送ったゾロは、左の掌に右の拳を思い切り打ち付けて、ルフィを喜ばすようなことを考える。
「う〜ん…」
甲板にどっかりと腰を下ろして悩んでいると背後でくすくすと笑う声が聞こえた。人が真剣に考えているところを笑われてゾロは振り返った。そこにいたのはナミ。
「何笑ってんだよ、ナミ!」
「考える前にルフィのところへ行ったら?」
ナミはこの妙な三角関係を知っている…というか、当の本人達は全然隠さずにいるので、周囲の人間は全員知っていた。むしろ、ルフィがどちらと良い仲になるのか、それともどちらにも振り向かないのかと面白がっている。
「だから今考えてるんだよ」
「馬鹿ね、今サンジ君はキッチンへ行ってるんでしょ?何か作ってるサンジ君に気づいたらルフィは絶対喜ぶじゃない?それを阻止したほうが良いわよって言ってるのよ」
この助言にうなづくとゾロは、甲板を駆け抜けてルフィがいるであろう船首へ向かった。案の定、ルフィはサンジがキッチンに入ったことに気づいておらず、船首に座って海を眺めていた。背後から近づいたゾロの気配に気づいて、ゆっくりと後ろを振り向くルフィ。
「ゾロ?どうしたんだ?」
見上げてくるルフィにドキリとしながらゾロは何かを話さなければという思いに支配され、頭の中が混乱している。少し頬を紅潮させて、見上げてくるルフィの瞳に釘付けになっていた。
「…ルフィ」
「ん?」
小首をかしげるルフィを見つめるゾロは無意識にしゃがみこむとルフィの顎を指で持ち上げた。不思議そうに見つめてくるルフィを見つめ、小さく開いた唇に吸い込まれるように唇を触れさせた。その感触でゾロが我に返る。
「あ…そ・・その、悪りぃ!」
顔を真っ赤に染めてじっと見つめてくるルフィの視線から逃れるようにしゃがんだまま、後ずさりしたら、船首から甲板に転げ落ちてしまった。動揺した心では着地もとれずに背中から、甲板に叩きつけられたゾロは表情を歪める。
「ゾロっ!」
慌ててルフィが船首から飛び降りて心配そうな顔でゾロを見下ろした。
「ルフィ……っ!」
体を起こそうとして背中を甲板から離すとわずかに関節の痛みを感じ、顔をしかめる。そのゾロを心配に見つめてくるルフィは、ほっとしたような表情を見せた。
「たいしたことないみたいだな。よかったよ、ゾロに怪我なくてさ」
笑いながらゾロの正面に座ると麦藁帽子を甲板におく。正面に座った、ルフィをちらりと盗みみてゾロは、さっき自分が無意識にした口付けのことを謝ろうと思ったが、ルフィがそのことについて何も言わないところを見ると、なかなか言い出せない。甲板をじっと見つめながら静かに時間が過ぎていくのを感じると、突然ルフィが沈黙を破った。
「ゾロは俺が好きって本当なんだな?」
「えっ?あ…ああ、本当だ」
唐突に始まった話にゾロも驚く。今まで、どんなに「好きだ」と口にしても、きちんとした回答も態度も示してくれなかったルフィ。ずっと下を向いていたゾロだったが、今の言葉にはっと顔を上げる。そこには、嬉しそうな表情を浮かべたルフィがいた。
「そっか!ありがとなっ!すげぇ嬉しいぞ、オレ」
「…ルフィ?それって…俺が言ってる“好き”と同じなのか?」
その言葉に、今度は少し頬を赤らめながら小さく頷くルフィを思わず抱きしめた。華奢な体はすっぽりと自分の胸に納まる。お互いの心臓がうるさいくらいに鳴っているのがわかるほどの距離。
「好きだ、ルフィ」
「うん…オレもゾロのこと好き」
改めて気持ちを確かめた二人は、そっと口付けを交わす。触れるだけの軽いキスだったが今の二人には充分な、気持ちの証明だった。気持ちを確かめたゾロが、ふと疑問を口に出した。
「なぁ…どうして今まで、俺とクソコックに“どっちも好きだ”なんて言ってた?」
「だって、本当にオレは、サンジも好きだし、ゾロも好きだから、ああ言うしかないだろ?」
その言葉にゾロは首を傾げる。その反応を見て、ルフィも困った表情になった。言葉をあまり知らないので上手に説明できないのだ。
「だから、その…仲間としてオレは、サンジもゾロも好きだ…って言ってたんだ。サンジは料理うまいし。ゾロはかっこいいしさ」
しどろもどろに説明するルフィにゾロはますます首をかしげる。サンジを誉めているように聞こえるのは気のせいだろうか?ますます困惑顔のゾロにルフィは、また顔を赤くして言葉を続けた。
「でも…ゾロは…特別な仲間だってわかったんだ」
「特別な仲間?」
「ゾロとサンジがオレを好きだって言ってくれるようになってから、ずっと考えてた。オレの好きとは違う好きだって二人共言ってるのはわかってた。でも、オレの好きはどっちなんだろうって」
真剣な表情でゾロを見つめるルフィの頬をそっと撫でようと手を伸ばした時、甲板にサンジの声が響いてきた。
「おーーーい!おやつの時間だぞー!ルフィー!お前のためにスペシャル・サンジパフェあるから早く来いよ!」
サンジの声に目を輝かせたルフィはゾロの胸から飛び出すと甲板に駆け出して行ってしまった。いつもなら、サンジの元へ向かうルフィを複雑な気持ちで見つめるゾロだったが、今日は余裕の笑みを浮かべて見送った。ルフィの特別になれたのだから、このサンジとの無益な勝負必要がなくなった。ゆっくりとした歩調で、仲間達が集まる甲板の一部を改造して作った、テラスに向かうのだった。案の定、自分の分のおやつは用意していなかったが、そんなことはゾロにとってはどうでも良いこと。一番欲しかったものがたった今手に入ったのだから。
Fin |
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