|
 |
|
 |
|
| ■ 『 4th anniversary 』 水天宮拓仄 |
|
朝からルフィ海賊団のコック・サンジは大忙しだった。なぜなら、今日はルフィ海賊団結成から丸4年。いわゆる“ルフィ海賊団結成4周年記念パーティー”をルフィの提案…というか、ただごちそうが食べたかったルフィの命令で執り行うことになっていた。
「サンジ〜!」
「ああん?あんだよ!オレはクソ忙しいんだっ」
不機嫌極まりない表情で背後から駆け寄ってきた主催のルフィに怒鳴る。
「何怒ってんだよ!せっかく手伝いに来たってのに」
ルフィの言葉にはたと足を止めて、ゆっくりと振り返るサンジの表情はさわやかな笑みが満ちていた。そして、ルフィの頭に手を置くとやさしく撫でながら
「手伝ってくれるって?お前が?」
「おうっ!なんでもやるぞ!」
自信満々の笑顔で胸を張ったルフィに笑顔でサンジは言い放った。
「頼むからじっとしててくれ。それが一番の手伝いだよ、わかったな?」
それだけ言うと頭から手を離してくるりと踵を返すサンジの背中をぽかーんと眺めていたルフィだったが自分が邪魔者扱いされたことに気づいて口を尖らせた。
「なんだよ!オレだって、ちゃんと手伝えるんだからなっ馬鹿サンジ!」
背後で声をはりあげるルフィをチラリと横目で見てサンジはくっくっくと肩を震わせ笑った。
「あ〜あ、あんなに口尖らせて頬ふくらませてよ…あれが二十歳を過ぎた男かね。しかも、海賊船の船長の」
(ま、それがあいつの可愛いところでもあるがな)
などと一人で笑みを浮かべながらキッチンに向かっていく。どうやら、ルフィは自分の言った言葉に相当頭にきたらしく後を追ってくることもないようだ。おそらく、自分以外のクルーにも同じように手伝いを申し出るつもりなのだろう。
次にルフィが向かった先には甲板を一生懸命掃除しているウソップと、掃除を言いつけられていたがモップを手に眠っているゾロのところだ。
「ウソップ〜!ゾロ〜!オレも一緒に掃除手伝うぞー!」
手を振りながら駆け寄ってきたルフィを発見したウソップは露骨に嫌な表情をした。前にルフィと一緒に甲板掃除当番をした時に、散々な目にあったことがあったからだ。はっきり言ってルフィと掃除をするなら自分一人でやったほうが早いし、綺麗にできるというものである。
「あ、なんだよウソップ!その嫌そうな顔っ」
「あ〜すまん。でもな、掃除、もうほとんど終ってんだ」
いつもとは違う意味での嘘を口にする。当番が一緒のゾロがずっと眠ってばかりなので時間がかかっている。実際はまだ半分くらいしか終っていない甲板掃除。だが、ここでルフィに“手伝ってもらう”と数倍は時間と手間がかかることになる。むしろ、せっかく半分まで終らせた掃除が無駄になる可能性も大いにある。
「え〜!なんだよ〜せっかく手伝おうと思ってきたのに…ゾロは寝てるし、オレ何してればいいんだよー」
口を尖らせてゾロの眠っている前にしゃがみこむと、ゾロが握ったままのモップを毟り取る。モップをとられてバランスを崩したゾロがようやく目を覚ました。しめたとばかりにウソップが口を開く。
「ゾロと一緒に見張りでもしてたらどうだ?今日は、みんなパーティー準備で誰も見張り台にはいねぇんだから」
その言葉にルフィの顔が明るくなる。やっと自分のやる“仕事”が見つかったのだ。が、ゾロは顔をしかめた。
「俺は見張りする必要ねぇだろ?あそこ二人で上がるのはせめぇし…それに飯の時間まで特訓するぜ」
そう言うとスタスタとルフィとウソップを残して、いつも特訓に使っている船尾に向かって歩いていくゾロ。その後ろ姿を不満そうな表情で見つめているルフィは、頬を膨らませてその場を立ち去っていく。ルフィの様子を見ていたウソップもさすがに罪悪感が芽生えてくるが、自分の仕事を終らせないとパーティーに出れないとナミに言いつけられているので、残りの掃除を大急ぎで再開するのだった。
誰も相手をしてくれない寂しさと腹立だしさを感じながらも、ウソップの提案とおりルフィはマストに設置されている見張り台に上るためにマストに足をかけた。その背後から落ち着いた女性の声がかけられる。この船での最年長者である、ロビンだった。
「船長さん?どうしたの、元気ないみたいね」
「ロビン!」
話かけてくれたロビンにぱっと笑顔を向けてマストから足を離し、手を離し、ロビンに歩み寄っていくルフィ。
「なんか、オレが手伝える仕事ないか?」
唐突な申し出にロビンは一瞬キョトンとしたが、次の瞬間にはぷっと吹き出して、くすくすと笑った。自分がなぜロビンに笑われたのかわからずに、首をかしげるルフィ。
「ふふっごめんなさい。あんまり、船長さんが可愛いこと言うもんだから」
口に手を当てながら、まだくすくすと笑うロビンに、ルフィはだんだん目尻を吊り上げる。自分は真面目に手伝おうとしているだけなのに、相手にされなかったり、その気持ちを笑われるとは心外だった。
「ロビンまでなんだよ、オレの事馬鹿にして」
唇をとがらせて頬を紅潮させるルフィにさすがにロビンも笑うのをやめて、普段のクールな表情に戻ると優しい笑みを浮かべる。その笑みに、ルフィの目つきも自然に元に戻った。
「馬鹿になんてしていないわ…ごめんなさい」
「あ、いや、別に怒ってないぞ」
なんだか改まった頭を下げられて照れるルフィ。そういえば、ロビンとまともに話すのは自分にとっては珍しいことだということに気づく。一緒に冒険をするようになってから、数年経過しているというのに、これは不思議なことだと思った。沈黙がしばらく二人を包んでいたが、ふいにそれを破ったのはロビンだった。
「船長さん、あなたのお仕事ならあるわ」
「え、ホントか?」
「ええ、もちろんよ」
にっこりと笑うとロビンは踵を返して、チラリとルフィを見るとついてくるように無言で促した。それを察しルフィも歩き始めたロビンの後についていく。二人で縦に並んで歩いていく二人の間に言葉なかった。普段はおしゃべりなルフィもなぜかロビン相手になると、何を話して良いかわからないのだ。なんとなく気まずくてルフィはロビンの細くて美しい足が軽やかに動いている様を見下ろしながら後についていく。サンジのようにいやらしい想像などはしないが、自分のそれとはまったく違うロビンの体を改めて認識した。何度も彼女に守ってもらったこともある、この自分よりもか細い体のどこにあれほどの力を秘めているのだろう?そう思うと自然とロビンに接近し、背後から彼女の細い腕を掴んでぐっと引き寄せてしまった。
「えっ?…船長さん?」
「あっごめん!」
少し顔を赤くしてぱっと掴んだ腕を離すとルフィはポリポリと頭を掻くとロビンの視線から逃れるように顔を横に向ける。
「謝ることはないわ。ただ、突然だったから驚いただけ。私の腕どうかしたかしら?」
「ん〜その、ロビンってこんなに小さかったかなって」
言葉がうまく見つからずに口ごもってしまう。そんならしくないルフィを見つめて、口元を緩ませて微笑むロビン。
「あなたも…わかるようになったのね。それは良いことだわ」
「…んん?何が?」
ロビンの言おうとしていることをよく理解できずに目を丸くするルフィをよそにロビンは一人で納得して、表情に笑みを浮かべながら再びルフィを促して歩き出す。しばらく歩いて、船首で立ち止まった。
「さあ、ついたわ」
「ここにオレの仕事があるのか?」
キョロキョロと辺りを見渡すが特に何もないし、誰もいない。静まり返っている甲板にロビンと二人。
「あなたはいつも通りにしているのが、あなたの“お仕事”よ」
「?」
「何も、記念日だからって特別なことはしなくてもいいのよ」
「え、でも、みんなオレが言い出したパーティーやる準備してて、言い出したオレが手伝わないわけにはいかないだろ?」
ルフィが申し訳なさそうな顔をしながら口に出した瞬間、誰からともなく二人の周囲に仲間達が集まってきた。
「オレ達だって別に普段と変わったことなんてしてねぇよ。オレはコックとして仲間の飯を作っただけだ」
「俺とゾロだって、今日が掃除当番だったから掃除してただけだしな」
「そうよ、それに、あんたはこの船の“船長”なんだから、どっしり構えてればいいのよ」
ナミの言葉に一同が頷く。内心は、ルフィには何も船の仕事を任せられないという気持ちを隠しながらだったが…。
「そういうもんか?」
『そういうもん!』
全員でルフィに笑顔を向けながら声を揃えながら言い放つ。耳を貫いた声を心地よく感じながらルフィにも笑顔が浮かぶ。そして、気を取り直したかのように拳を振り上げた。
「よし!記念パーティーはじめるぞ!」
「よっしゃ!ウソップ、ゾロ!料理運ぶの手伝え!」
サンジが生き生きとした様子でキッチンに向かっていく。その後から小走りにウソップが続き、ゆっくりとした歩調でゾロを満足そうな表情で見つめながらルフィは、改めて自分の選んだ仲間達が最高の仲間であると誇りに思うのだった。
「ほんと、最高の気分だよ、オレは」
「え、何か言った?」
「んんっ?オレがみんなを”大好きだ”って言ったんだ!」
笑顔で海に向かった叫ぶとルフィは4回目の最高に幸せな気分を味わっていた。
Fin |
|
 |
|
|
|