■ 『 この世の唯一 』 水天宮拓仄

 深深と雪が降る甲板の上に二人の影。
体を寄せ合い、少しでも体温を失わないように静に降り続く雪を二人で見上げていた。
海の上だということを忘れさせるほどの静寂が辺りを包む。
「…なあ」
 二人の影。若干小柄な影が自分よりも背の高い影に顔を上げ、口を開いた。
「なんだ?」
「寒くねぇの?」
「お前こそ。腕も足も出てるくせに寒くねぇのか?」
 小柄な影はこの船の船長であるルフィ。背の高い影は船のコックであるサンジ。
「寒くない…もう、少しここにいてくれないか?サンジ…」
「ああ、オレもそうしようと思ってたとこだ」
「そっか…」
 短い会話の後には、さきほどと同じ静寂に身を任せる二人の上に、
雪がうっすらと積もりはじめるが二人はそれを振り払おうともしない。
ただ、身を寄せ合いお互いの体に腕を回し自分達に降りつづける雪を見つめた。
 静寂の中、サンジの懐中時計が懐の中でカチリと鳴った。
それを合図にしたかのように二人は静に唇を合わせた。
真白の世界の中で二人は唇を合わせ、静に離すとお互いの瞳を見つめた。
まるでこの世界には自分達しか存在していないかのような錯覚を覚える。
二人の顔には幸せな微笑みが浮かび同時に唇を開いた。
「この瞬間をお前とまた迎えることができてオレは幸せだ」
「ああ…そうだな」
「静かだ…誰もこの世に存在していないみたいだ」
 微笑を浮かべながらルフィが降り続く雪を掌に受け止める。
上に向けられたルフィの掌にそっとサンジが手を添えた。指を絡ませぎゅっと力強く握りあう。
「誰もいねぇよ…最初っから」
「…え?」
「お前に会ってからオレの世界はお前しか存在しなくなっちまってる」
「サンジ」
「オレがこの世から消えるまで、それは変わらねぇ…オレの世界でお前はいつでも一人だ」
「…くくっ…なんだよ、それっ」
 サンジの手を離さないままルフィはくるりと背を向けて、肩を震わせて声を震わせる。
サンジと繋がっていない掌で両目を抑えながらサンジに背を向け続ける。
「なんだよ、笑うなよ」
 いつまでも肩を震るわせているルフィの手を離すと、肩を持ってくるりと自分に向きなおした。
「…な…んだ、サンジもオレと一緒だったんじゃん?ははっ…あはっ」
 掌で抑えていたルフィの両目からは大粒の涙がこぼれ落ち、顔はぐしゃぐしゃに汚れた。
「オレ達の世界にはオレ達しか存在しない…お互いの存在がこの世から消え去ってもだ。
すげーことだと思わねぇか?」
「ああ、すげーよ」

 深深と雪が降り積もる甲板の上、二人の影が一つになった時。二人には新たな時が流れはじめていた。

fin