■ 『 ケーキの行く末 』 水天宮拓仄

甲板の上で面白くなさそうな表情をした船長が胡座をかいて、この船のコックを目で追っていた。
コックの目の前には美しい考古学者と航海士だ。
「ナミさん、ロビンちゃん!どうぞっ」
だらしない顔を2人に見せ、作ったばかりと思われるケーキをテーブルに載せると、
すっと椅子を引き、エスコートするサンジの姿はルフィにとって不愉快なモノだった。
「あら、新しいケーキね」
「ありがとう、コックさん」
2人の笑顔に一層だらしない表情になったサンジを目にしてルフィは頬を膨らませ唇を尖らせる。
「今、おいしいお茶も用意するので、お待ちください!」
スキップしながらキッチンに戻るサンジを追って、立ち上がったルフィもキッチンに駆け込む。
後から入ってきたルフィは、目くじらを立て、大声をあげた。
「サンジ!」
「ああ、ルフィか?ちょっと待ってろ。今、レディー達にお茶をお運びするから。
お前の分はその後な!危ねぇからどいてろ」
テーブルに置いてあったティーポットに熱湯を注ぎ、
トレイに載せるとルフィを押しのけて再びサンジは甲板に戻っていく。
「なんだよ、サンジのやつ!デレデレしちゃってさっ」
つまらなそうに言葉を吐き出すとルフィはどかりと椅子に腰を下ろしてサンジが戻ってくるのを待つことにした。
サンジに腹は立つが、大好きなサンジと一緒に居たい気持ちも強い。
ルフィがテーブルに両腕を投げ出してぐったりと待っていると、
しばらくしてサンジが戻ってきた。ドアが開き、テーブルの上に上半身を投げ出しているルフィを見つけて声をかける。
「ルフィ、どうした?お前の分も用意してやるからテーブルの上からどけよ」
カットされたケーキを皿に移し、少し温くなったお茶をカップに注ぎながらルフィに視線を流すと、
一向にテーブルから離れようとしない。いつもと様子が違うことに気づくと、
カップを置くとルフィに近付く。
「おい、ルフィ?どうしたんだ?具合でも悪りぃのか?」
食い意地の這ったルフィがケーキを目の前に、つっぷしているのだ。
体調でも悪くして食欲がなくなったのかとサンジは心配したのだ。
「ううん…別になんともねぇ」
「じゃあ、ケーキ食うか?」
「…いらねぇ」
その言葉にサンジは驚愕した。ルフィが食べ物を拒否するなんて信じられないことだった。
今までに一度もそんなことはないし、少ない食料の中でも間食を作れとせびってくる程なのに。
「いらねぇ…って。なんかあったのか?」
別人のように元気がないルフィを見て、さすがに心配になったのか
サンジはルフィの隣に腰を下ろして覗きこむように自分もテーブルに顔をつけた。
「……」
すると、サンジの顔を見ないようにすっと顔を反対に向けたルフィの態度に
だんだんとイライラしてきたサンジは椅子から立ち上がって口を開いた。
「なんだよ?俺になんか言いたいことがあんのか?」
「…ある」
ぼそっと呟いたルフィの声に耳を傾け、先を促す。
「サンジは…ナミとロビンの方が好きなのか?」
「はぁ?」
あまりにも突拍子ない言葉にサンジは口をあんぐりとあけて絶句した。
なんだ、その質問は?
「だから!サンジは、オレよりナミとロビンが好きなのか?って聞いてんだ!」
ガバッと身を起こすとルフィはふくれっつらをサンジに見せて唇を尖らせた。
そんなルフィを見て、内心サンジは可愛い…と感じたが、
今はそれよりもルフィの言葉の真相が先決だった。
「何言ってんだ?そりゃ、ナミさんもロビンちゃんも俺は好きだぜ?」
その言葉にルフィはますます頬を膨らませて首や耳まで真っ赤にして椅子から立ち上がった。
頭から湯気が出てそうな様子にサンジは戸惑ってしまう。
どうしてしまったのだろう、ルフィは?ナミとロビンへの態度が気にいらないらしいが、
自分は2人と出会った時から何も変わったような事はしていない。美しいレディへの礼儀である。
「じゃあ、オレのことは?」
「え、そりゃ、好きさ。だから付き合ってるんじゃねぇか俺達」
ルフィとサンジは数日前から船内恋愛をする関係に。
仲間達に隠してはいたが致命的にルフィの嘘が下手で、全員が2人の関係について認知していた。
歓迎はしていないが、反対もしていない所だ。
「だったら、なんでナミとロビンにあんなデレデレしてんだよ」
「デレデレなんてしてないって」
「してた!」
「してないって!」
「絶対してた!オレずっとお前のこと見てたんだから、わかるんだっ」
恋人が腹を立てるようなことは何もしていないのに、どうしてこんなに怒っているのかサンジには不思議でならなかった。
別に自分は下心があって2人に礼をつくしているわけじゃないし、手すら触れていないはずだ。
「別にいつもの事だろ?おやつを一番先にレディ達に用意するのは。
レディファーストだって前に教えてやっただろうが」
困った表情をしながらサンジは頭をがりがりとかく。
やきもちをやいてくれているルフィを可愛いと思いながらも、
自分とルフィの考え方の違いをどう説得させるか頭を悩ます。
「そりゃ・・そうだけど…サンジのあんな顔見たくねぇし」
急に声を潜めて尖らせた唇をひっこめたルフィは上目使いでサンジをチラリと見て、
今度はピンク色に頬を染めた。その様子はサンジを無意識にルフィへ腕を伸ばさせるには充分だった。
両腕でぐっとルフィを引き寄せるとぎゅっと抱き締めた。
「ばかやろう。あんなんで、やきもちやくんじゃねぇよ」
「そ…そんなんじゃない」
「嘘つけ」
「う…っ……」
サンジの言葉を否定しようと顔を上げた瞬間に唇を奪われたルフィはその後の言葉を続けることができなくなった。
「ナミさんも、ロビンちゃんも好きだけどよ…俺はお前が一番なんだぜ?わかるだろ?」
「うん」
素直に頷くルフィに満足したのか、笑みを浮かべると軽く額に唇を落とし、
すっとルフィを抱き締めていた腕を緩めた。
でも、ルフィはまだサンジの背中に腕を回し、胸に顔を押し付けていた。
「どうした?ケーキ食べるだろ?」
「うん」
それでもルフィはまだ離れない。
「お茶、冷めちまったから煎れなおしてやるよ」
「うん」
まだ離れない。身動きがとれないサンジはそっとルフィの両肩に手をかけると力をこめたが、
それ以上の力でルフィが抱きついてくる。
「どうした?まだなんかあるか?」
ふうっ息をはいてルフィに視線を落とすと、そろっと顔を上げてきたルフィが照れたような顔をして、
唇は何かを言いたそうに動く。
「ん?」
「オレ…サンジのあんなかっこ悪りぃ顔見たくねぇからな!」
ルフィは早口でそれだけを口にすると自分からサンジの元から離れ、キッチンを飛び出していく。
開きっぱなしのドアからバタバタと遠ざかっていくルフィの足音を聞きながらサンジは、
後に残されたルフィのために用意したケーキを見つめ、
「これ…どうすんだよ?」
キッチンには困り顔のサンジがしばらくの間、1人で幸せに浸っていた。


The end