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| ■ 『 ブラザー・ランチ 』 水天宮拓仄 |
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「まきのー!ごはーん!」
良く晴れた日の昼に元気よくこの村唯一の酒場に入ってきたのは、左目の下に大きな傷跡がある黒髪の男の子だ。その後から、最初に入ってきた男の子より幾分か大きなそばかすの多い男の子が入ってきた。
いつもなら、カウンターの中から笑顔で返事をしてくれる二人のお姉さん的存在のまきのがしばらく待っても姿を現さないことに首を傾げた二人は顔を見合わせる。
「エース、まきのがいないぞ」
先に入ってきた小さい方が後ろを振り向いて困った表情を見せた。大きい方の名前はエースと言った。そして、小さい方はルフィである。この二人は兄弟だ。いつも、二人は昼ご飯と夕飯をここの酒場でご馳走になっていた。
「そうみたいだな…どうしたんだ、まきの?ん?」
「どうしたんだ、エース?」
ルフィの低い目線では見えなかったが、目線の高いエースがカウンターの上にある小さな紙を見つけた。
「カウンターの上に…」
そう言いながらエースがルフィを押しのけてカウンターに近付いて、小さな紙を手に取って紙に見慣れた筆跡で書かれた文章に目を通した。どうやら、これがまきのがいない理由のようだ。
「ルフィ、まきのは明日の朝まで帰らないってよ」
「えー!じゃあ、ごはんどうすんだ?」
不満そうな表情で叫ぶルフィの頭をぽんと叩いて、エースが腕を振り上げて声をあげた。
「大丈夫だって、俺が作ってやるよ!」
「えーーーー?エースが?」
思いきり不安そうな表情をエースに向けてエースの手から紙を奪うと文面に目を通すがルフィはまだ書いてある文章をすべて読めなかった。元から良くない頭の上に、勉強を怠っているせいで同じ年頃の子供達が読める文章もまともに読めなかったりするのだ。
「なんだよ、不満そうな顔してるな?だったら明日まで飯抜きで我慢できるのか?」
「う…できない」
「だろ?だったら俺が作るしかないってわけ。大丈夫だって、まきのが作ってくれる料理までとは言わないけど、それなりに食えるもん作ってやるって」
笑いながら胸をはり、ルフィの背中をバンと叩くエースはカウンターの中にいそいそと入り、まきのがいつも使っているエプロンを身につけて食料が入っている箱の中を覗き込む。
「何作るんだ?エース?」
「ん〜まあ、何ができるか楽しみにしてなっうんまいもん作ってやるから」
「オレも手伝う!」
カウンターを飛び越えてエースがいる側に飛び降りて箱を物色しはじめた。
「お前は大人しく座ってろよ!どうせ何もできないんだから」
「むぅ〜そんなことねぇぞ!なんか手伝う!」
「とは言ってもな…お前、台にも届かないしよ」
エースでさえ、少し高いと感じる台にルフィは顔がやっと覗くくらいの高さ。物を切ってもらうにしても、台が高すぎて危険だし踏み台を使うのも危険に思えた。正直、ルフィに手伝ってもらうと混乱するだけなので、食事の時間がますます遅くなる上に食べれる物も食べれなくなる可能性も高い。まきのからもらった手紙によれば、二人が今日食べる昼ご飯と夕飯分の二食分しか材料がない。手紙の中にエースでも作れる料理のレシピが簡単に書かれていたのだ。
「やだ!なんか手伝う!」
「あーもうっいい加減にしろ!まだお前には早いってんだよ!できるまで外で遊んでろよ」
足をばたばたさせて駄々をこねはじめたルフィにイラついて、つい声を荒げてしまったエースは、しまった…という表情を見せるが、そんなことは頭に血が昇ったルフィが気づくはずもない。
「なんだよエースのバカ!エースが作る昼飯なんかいらねぇ!」
そう叫ぶとカウンターの上によじ登って飛び降りると店の出口までいっきに走っていくと勢いよく外に飛び出していってしまった。
「あのバカっどうせ後で腹減って泣くくせに!もう知らねぇぞ」
弟のわがままにイラつきながらも、エースはまきのが残してくれたレシピに従って昼食を作りはじめた。
「完成だな。ん、我ながら、美味いもんじゃないの?」
完成した昼食を前にエースは満足そうな表情を浮かべて店の出口に視線を走らせた。そろそろルフィが我慢できなくなって戻ってくる頃だ。案の定、出入り口の隙間から黒いくせっ毛がチラチラと覗く姿がエースの目に飛び込んできた。小さく笑って、エースはわざと大きな声を出す。
「せっかくルフィの分も作ったけど、あいついらねぇって言ってたから俺が食っちまうかなー?」
わざとフォークを皿にあてて、今から食べるぞ!という意志を外にウロウロしているルフィに報せるようにすると、小さくきしむ音と共に後ろから小さな足音が近付いてきた。
「エース」
「なんだよ?昼飯いらねぇんだろ?」
「…ごめん」
「ん?聞こえなーい」
「だから…ごめん!オレもエースが作った飯食べてもいいか?」
うなだれたルフィを振り返って、エースは微笑むと両手で可愛い弟の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でまわす。
「いいに決まってんだろ?お前の分も作ったんだからな。ほら、座れ」
「うんっ」
ぐしゃぐしゃになった頭をそのままにルフィはエースに示された席につくと、目の前にある皿と隣の席に置いてある皿を見比べて首を傾げた。
「あれ、そっちの皿少ないぞ?エース」
「ん?そんなの気にしなくていいから早く食べろ。慣れないもんだから、えらく時間くっちまったからな。下手するとおやつ時間だ」
エースも笑いながら席につくと自分の目の前にある皿を手に取った。その皿にルフィが自分の皿から料理を移そうとしたのを手で制して、にかっと笑った。
「お前はチビなんだから、いっぱい食わなきゃだめなんだよ。わかったか?チビルフィ!」
「チビって言うな!自分がちょっとでかいからっていばんなよ!」
エースの言葉に憤慨したルフィは皿を自分の口元に引き寄せていっきに料理をかきこむように食べ始めた。その豪快な食べっぷりにエースは嬉しそうに表情を緩めると、自分も料理を口に運んだ。自分で作った料理もなかなかだなと感想を持つと、またルフィのために作ってやるのもいいもんだと心の中でそっと思うのだった。
End |
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