■ 『 お酒を呑もう 』 水天宮拓仄

ゴーイングメリー号にサンジの声が響く。
「誰だ!この馬鹿に酒呑ませたのは?」
 真っ赤な顔をして甲板に寝転んでいるルフィを覗きこみながら周囲を見渡したが、人影は見当たらない事にサンジは溜息をついた。
どうやらルフィが自分でこっそりと持ち出して呑んだようだ。
「ったく、自分が呑めないのは知っているってのに…何やってんだコイツは」
 しゃがみこみながら、前髪を左の掌で上げ、右手の甲でルフィの上気した頬をぺちぺちと叩く。
 わずかな刺激に反応したルフィはぱっちりと男としては大きな瞳を見開き、
サンジの呆れた表情を見つけるとしまりなく笑った。
「へへっサンジがいっぱいいる〜〜」
「この馬鹿」
 ちっと舌打ちをしながらルフィの頬を強くつねった…が、相手はゴムなので効果はなかった。
「サンジがこれだけいれば、料理もいっぱい作ってもらえるな」
 などと馬鹿な事を口走ったルフィを見つめ、少し離れた場所に転がる瓶を見つけ驚くサンジ。
「な…お前、あれ呑んだのか?」
 それは、ナミが寝酒にと購入してサンジが管理を任されていた、この船にある酒では一番強い物だったのだ。
「でへへへへ〜星がぐるぐる回ってんぞ〜」
 サンジの問いかけにはまったく答える様子もなく、ルフィは思ったことを上機嫌に口走るのみ。
「おいっ気持ち悪くないのか、ルフィ?免疫がないくせにあんな強い酒呑んじまいやがって」
「…気持ち悪くなんかねぇよ。もっと呑めるぞ」
 立てもしないのに手探りで酒瓶を探すルフィにいつもの様子と違う事に気づいて優しく問いかけた。
「なんで酒なんて呑もうとしたんだ?普段から、酒には手を出さないだろ?」
 サンジの問いかけに寝転んだまま口を開くルフィ。
 上気し、潤んだ瞳がやけに艶っぽくサンジの目に映った。
 ゴクリとサンジの喉がかすかに鳴った。
「もうすぐクリスマスだろ?オレ以外は遅くまで酒呑んで面白そうなのにさ、
オレはちょっと呑んだだけで眠くなっちまうから」
「それで?」
「うん…オレだってもっと酒呑めるようになれば、
みんなと…その…サンジとも夜更かしできるようになるって思ったんだ」
 酒気とは違うもので頬を染めるルフィが愛しくてサンジは目を細める。
「で、ナミさんの酒を持ち出して呑む練習してったわけか?」
 コクンと頷くルフィを優しく撫でて、ひょいと軽い体を抱き上げて歩き出した。
「うあっ」
 急に体を動かされたルフィは目を回したのか、さっきまで見開いていた瞳を閉じる。
 酒で自由に体を動かせないようになっているルフィに軽く口付けを落とすとキッチンに向かう。
「サ…ンジどこ行くんだ?オレ、もっと呑むから下ろせよ」
 ぐるぐると回る視界に堪えられないのか、一瞬開いた瞳を再び閉じた。
「あの酒は、まだお前には早すぎだ。今度、お前にあった酒を用意してやるよ」
 そう言って立ち止まるサンジを感じて、再び瞳を開くルフィ。
「ホントか?」
「ああ、でも、今日はもうやめておけよ?」
「…うん」
 さすがに自分が今どんな状況にあるのか理解しているのかルフィは素直に頷いた。



―数日後―
 夕食を食べ終えて、甲板で星空を見上げていたルフィの元にサンジが2つのグラスを手に持ち、近付いてきた。
「ルフィ」
 呼びかけに振り返ったルフィは首を傾げた。夜食にはまだ早い時間だから。
「なんだ?もう夜食できたのか?」
 とんちんかんな台詞にサンジは一瞬苦笑を浮かべたが、グラスを掲げて口元に近づけ、ちゅっとグラスにキスした。
 その仕草にドキリと胸を鳴らすルフィは、甲板に座りながら上へ視線を向けた。
「あなたにピッタリのお酒をご用意しましたよ、ミスター?」
 まるでレストランでお客を相手にするような恭しい態度と、極上の笑顔を添えてグラスをルフィに差し出すサンジ。
 グラスには何色とも言えない綺麗な液体が入れられていた。
 高鳴る鼓動を抑えることができずに、ルフィの頬は酒を呑む前なのにピンク色に染まった。
「サンキュー」
 恭しくグラスをルフィに手渡すとサンジも甲板に腰を下ろし、
 グラスを寄せると軽くあわせた。
 静かな甲板にかすかにグラス同士が触れた音がこ気味良く響く。
「呑んでみな、お前のためだけに作ったスペシャルカクテルだ」
 サンジに促され、唇にグラスをつけると中身を口に入れる。
 甘い中にも少しアルコールの苦味が広がる。
「うまい…」
「だろ?でも、まだそれだけで満足してもらっては困る」
「え?」
 くいっとサンジも自分のグラスを傾け、中身をふくむとグラスを甲板に置くとルフィの唇にまだ濡れている自分のそれを近づけ、合わせた。
「んん…」
 サンジの唇から甘く・苦いものがルフィの口内に流れ込んでくる。
 先ほどグラスから直接口にした時よりも、数倍それは甘くルフィは舌が痺れるような感覚を味わった。

※小説はゴム幸会報内「お題企画」にて担当になった際に執筆したものです。