■ 『 すれ違い 』 水天宮拓仄

「そろそろルフィが“腹減った〜”とか言いながら起きだしてくる頃だな」
夜中のキッチンでサンジは翌朝の仕込みをしながら、
片手間にルフィの夜食を作りつつ上機嫌に唄を口ずさんでいた。
トレイに最後の品を乗せ終わると耳を澄ます。
「…あれっおかしいな」
いつもの遠慮のない足音も聞こえてもこない、
しばらく待ってみたが一向にルフィの気配は感じられない。
「しょうがねぇ…持っていってやるか」
トレイを手に持つと、キッチンのドアを開け、男部屋の方へ足を向けた。



サンジがキッチンを出た頃、ルフィは男部屋から抜け出していた。
「今日は何食わせてくれんのかなぁ〜」
わくわくしながらキッチンへ向かった。
「サンジ〜!腹減った!何か食べさせてくれ〜…って、サンジ?」
キッチンには明りもついており、たったさっきまでサンジがいたのであろう、
煙草の残り香りもあるのに、サンジだけがいない。
ちなみに料理もなくルフィは首を傾げた。
「サンジどこ行ってんだろ…飯もねぇし」
キョロキョロとキッチンの中を見回したが、待つことが苦手なルフィはキッチンを出る。
「トイレでも行ってんのかな」
ブツブツとつぶやきながらルフィはトイレのある方へ歩いていく。



男部屋の様子をうかがってきたサンジはがっくりとした表情で甲板に上がってきた。
「ルフィのやつどこ行ったんだ…せっかく持ってきてやったのに」
すでに冷めつつある料理を見て、甲板にあがりキョロキョロと周囲に視線を走らせる。
「ひょっとしたらすれ違ったのかもな、キッチンに戻ってみるか」


トイレに来てみたものの、誰かが使った気配も使われている気配も感じられなかった。
「ん〜サンジのやつどこ行ったんだよ〜すげぇ腹減ってんのによ」
何に対して腹が立ってきているのかルフィもわからないまま、ちぇっと舌打ちをする。
トイレにいない。後は思いつく場所はなく、ルフィはとりあえず甲板に上がることにした。


甲板の上からキッチンの方を見上げてもルフィがいる気配は感じられない。
この狭い船内で人ひとりの姿見えないことが、こんなに不安になるとは。
「あいつ…まさか海に?」
焦ってサンジは、いつもルフィが腰を降ろしているメリー号のシンボルである船首へ向かった。



サンジが不安を感じ、船首に向かっている頃
ルフィは行く当てもなくなり自然と足が向く方へ心なしか寂しそうに歩をすすめた。
「あ…サンジ?」
船首の近くに料理を持ったサンジがキョロキョロと海を見たり、船首を見たりしていた。
ルフィの接近に気づいたサンジは、振り向いて安心したような表情を見せたのもつかの間
「どこ行ってやがったルフィ」
「どこって…サンジだってキッチンにいなかったろ!探したんだぞ!」
「探したって…オレもお前を探してたんだぜ」
顔を見合わせてしばらく見つめあう二人は同時に噴出す、
甲板に二人の笑い声が小さく響き渡った。
「オレはてっきりまた海に落ちたもんかと思ったぜ」
「そんなに何度も落ちてねぇ」
自分を心配してくれたサンジの言葉に悪い気がしないルフィは表情を崩す。
「料理、冷めちまったぞ。また温めなおすからキッチンに行くぞ」
「おうっ!」
的外れな心配をしてしまった自分に顔を赤らめてしまったサンジはルフィに背を向けて歩く。
「ありがとな、サンジ」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、なんでもねぇ!早くそれ食わせてくれよ」
サンジの背中にそっとささやいたルフィは先を歩くサンジに追いつくように足を早めた。

※小説はゴム幸会報内「お題企画」にて担当になった際に執筆したものです。