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| ■ 『 いつもと違うあなた 』 水天宮拓仄 |
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ルフィが船首に座りながら、横目で甲板で黙々と筋力トレーニングを続けるゾロをつまらなそうに眺めてため息をついた。
「はあ〜つまんねぇな、ゾロ」
さほど大きな声での呼びかけであったが、今日は天気も良くて風もない。ルフィのやや高い声がゾロの耳にも届いた。
「なんか言ったか?」
いったいどのくらいの重さがあるのかわからない程大きなバーベルを上げたり下げたりしながらゾロはルフィに聞き返した。
「つまらないって言った!」
「なんだ。じゃあ、一緒にやるか?」
バーベルを掲げてみせると、あからさまにルフィは嫌そうな表情を浮かべた。そして、さらに大きなため息をつき口を開いた。
「やだ。もっと、つまんなそうだ…ゾロだって、楽しいわけじゃないんだろ?」
「俺はそれなりに楽しいぞ。こうやって自分が強くなっていくのは楽しいだろうが」
「ふ〜ん。そういえばゾロが起きてる時はずっとそれやってるよな」
「まあ、日課だから。起きてる時はいつもやってるな」
「オレと一緒にいる時くらいやめようとは思わないわけ?」
不満そうに唇を尖らせるルフィは頬を膨らませた。お互いの思いを確かめあってから、ルフィはそれなりにゾロと一緒にいる時を楽しんでいたが、ゾロは特に普段と変わりがなかった。自分はゾロと二人になるとドキドキしたり、わくわくしたりしているのに相手のゾロにそれがないことが不満であり、不安でもあった。
「何だよ、急に」
「別に」
「別にって顔してないだろ」
プイッと視線を自分から逸らしたルフィにそっとため息を洩らして、ゾロはバーベルを床に置いた。ガリガリと頭を掻きながら船首に座ったままのルフィに近付いていく。その気配に気づいたルフィが少し怒ったような顔をしてゾロの方を振り返った。
「なんでもないから、ゾロは特訓でもなんでもやってろよ!」
「何怒ってるんだよ、ルフィ」
「怒ってなんかいねぇ」
そうは言ってもルフィはゾロの顔を見ようともしない。しびれを切らしたゾロは、ルフィの肩をぐっと掴むと強く引いた。
「ルフィ」
「な…なんだよ?」
「まったく…俺が我慢してるのも知りもしないで言ってくれるな、お前は」
「何我慢してんだよ?」
いつもと違う様子を見せるゾロに次第にドキドキしてきたルフィの頬が徐々に赤くなってくる。気持ちを確認してからは、妙に意識をしていたせいかクルーがいる時は接触もままならず、二人きりになったのは、今日が初めてだった。
「わかって言ってんなら、すごい殺し文句だな」
「だから、何我慢してんだよ?」
「こういうことだよ」
「んんっ!」
ルフィの顎をついと指で持ち上げると薄く開いた唇にゾロは自分のそれを合わせた。いきなりの行為にルフィは目を見開いて目の前にあるゾロを見つめる。すっと唇を離したゾロが照れたような笑みを浮かべてルフィの目を空いている方の手で塞いだ。
「そんなに見るなよ。俺だって恥ずかしいんだからな」
「ちょ…ちょっと待っ…!」
目を塞がれたままルフィは二度目のキスを受け止める。さきほどは唇に触れ合っていただけのキスも、だんだん深くなりゾロの舌が遠慮なくルフィの口内を犯す。唇の隙間からどちらともわからない唾液がルフィの首へ伝い落ちる。
ゾロが唇と瞳を解放すると、ルフィは顔を真っ赤に染めてしびれているような自分の唇を指で触れた。目の前にいるいつもと違うゾロに鼓動が高まる。
「まだお前には早いと思って我慢してた俺の気も知らないで、よく言う」
「もうオレはガキじゃない!ゾロとだって二コしか違わないだろ」
「そういう意味じゃないけどな」
困ったような、嬉しいような表情を浮かべたままゾロはルフィを船首から抱き上げて自分の胸にすっぽりと納めて抱き締めた。ルフィの耳にもゾロの鼓動が自分と同じく高まっていることを感じる。いつも、冷静に物事を見つめているゾロの鼓動が早まっていることにルフィは少なからず驚いていた。
「ゾロでもドキドキする事あるんだな」
嬉しそうに笑いながらルフィがゾロの胸に自分の耳を押しつけた。
「当たり前だろ、俺だってお前と同じなんだよ」
「そっか!」
「何がそんなに嬉しいんだ」
柔らかいルフィの頬を軽くつまんで、意地悪そうに笑ってゾロは軽く額に唇を落とした。
「今度は、あれくらいじゃ済まないからな、ルフィ。覚悟しろよ」
「へ?」
きょとんとした表情をゾロに向けたルフィは、今の言葉が何を意味しているのかわからないまま笑顔を浮かべた。
何もわかっていないであろうルフィの笑顔を愛しいと思いながらゾロは心の中で苦笑いを浮かべていた。
― こうなったら俺の我慢も限界に近いな…わかってんのか?ルフィ ―
※小説はゴム幸会報内「お題企画」にて担当になった際に執筆したものです。 |
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