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■ 『遠愛』 水天宮拓仄
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今、赤髪海賊団は白ひげ海賊団が停泊している海域を目指して、
グランド・ラインを駆けていた。
赤髪海賊団を率いる、シャンクスの耳に白ひげ海賊団の
2番隊隊長を務めるエースが、自分の顔に傷を負わせた男・ティーチ
と接触する為に動いていると報告が入ったからだ。
自分の力を過信しているわけではないが、針の穴ほどの油断が
直接死に繋がる海上での戦闘において、シャンクスは相手が
どんな人間でも常に本気で向かい合ってきた。
マーシャル・D・ティーチと向かい合った時、
シャンクスに油断も助長もなかった。
片腕とは言え、世界一の剣豪であるミホークからも深手の傷を
負ったことがない自分に傷を負わせた男。
恐るべき悪魔の実を食べ、少数ながらグランド・ラインに
その名と存在を広めつつある少数海賊団の頭だ。
ルフィとも接触経験があり、今はルフィの首を狙って動いているらしい。
「エースがティーチの居所を掴んだ?それは、確かな情報か!」
届いたばかりの新聞を持ってきた雑用係の手から、
受け取ったと同時に受けた報告。
新聞を握りしめ、険しい表情を浮かべた。
「確かな情報です。海軍の情報ですから、確かだと思います!」
主に海軍の情報を傍受する為の能力を買われた男が、
緊張した面持ちでシャンクスの脇に硬直する。
味方とはいえ、シャンクスの発する気に怯えた。
「2人が接触するまで、あとどのくらいだ?」
硬直したままの男を睨みつけると、ふっと男の意識が飛び、
そのまま後ろに体が傾いていく。
床に倒れる前に、シャンクスの傍に控えていた副団長のベン・ベックマンが、
愛用の長いパイプ煙草を咥えながら男の背を片手で支えた。
すぐに周囲の若い団員達が、気絶した男を抱えてシャンクスとベンの周囲から立ち去る。
「お頭、落ち着けよ。若い連中には、まだあんたの気は強すぎる」
「ベン。白ひげの船につくまで何日かかる?早くしないと手遅れになっちまう!」
くしゃくしゃになった新聞を持ったまま、シャンクスが焦った表情でベンを見上げた。
団員の前では、見せない表情になる。
「白ひげの船までは、急いでもあと3日はかかる。
今、焦っても仕方ないぜ?それに、新聞見たか?」
焦る自分とは違って、冷静な副団長を睨み上げながら
手に持っていた新聞を床に投げつけた。
「新聞なんか読んでいる場合か。今はエースを止める事が・・・」
叩きつけた衝撃で、新聞本紙に挟まっていた手配書が目に入る。
見覚えのある麦わら帽子が目の端に入り、
ベンに詰め寄ろうとしていたシャンクスの動きが止まる。
「ルフィ!」
「・・・まあ、そういう事だ。また、賞金額上がったぜ、アイツ」
嬉しそうな表情を浮かべ、ベンがにっと笑うと釣られてシャンクスにも笑みが浮かぶ。
床に散らばったぐしゃぐしゃの手配書を拾い集め、ルフィの手配書を手に取る。
「3億ベリーか・・・大したもんだ。
海賊になってまだ数ヶ月だってのに、この金額は驚異的だな」
「そうだな」
ルフィのチラシを見つめるシャンクスを横目に見ながら、
ベンは残りのチラシを拾い集めて床の上で皺を伸ばす。
「それに、仲間も増えたようだし。あいつも立派に
海賊やってるみたいだな」
「ああ!なんせ、俺の片腕をかけた程の男だからな・・・
あいつは、俺を超える海賊になるぞ」
懐かしさと愛おしさを瞳に浮かべ、手配書を持った手を目一杯延ばし、
目を細めて成長したルフィの姿を思い浮かべた。
「お頭、仲間達の手配書も見てやったらどうだ?ルフィが認めた奴らだ」
「ああ」
ルフィの手配書を懐につっこみ、ベンの手から仲間達の手配書を
受け取って一枚一枚を眺めた。
「頼もしそうな仲間達じゃないか、ルフィ」
気を使ったベンは、シャンクスの目の前に酒瓶を置くと
少し離れた場所で2人の会話を邪魔しないように見守る事にした。
10年前に愛用の帽子を預け、不確かだが確実な約束を
まだ子供だったルフィとの絆を大海賊団を率いるようになった今も信じている。
仲間達のチラシを床に放ると、それは風に乗って
甲板へ転がっていき、やがて海の中に消えていった。
そんな事はシャンクスにとっては、どうでも良い事だ。
酒を口に含み、懐に入れたルフィの手配書を手にとって眺める。
「そういえば、エースとお前は仲が良かったよな・・・
よく、喧嘩して・・・でも、すぐに仲直りして・・・それの繰り返し。
フーシャ村が懐かしいな」
真っ青な空を見上げ、10年も前の事が昨日の事よりも
鮮明に脳裏に浮かぶ。
自分の海賊人生で、もっとも楽しかった時間を
過ごした土地での思い出が、ルフィだった。
珍しく長期滞在をした港の1つだった。
「ポートガス・D・エース・・・か。お前の兄貴には、
嫌われていたが・・アイツが死ぬとお前が悲しむ」
空から視線を再び手配書に戻し、くしゃくしゃになったルフィの笑顔に唇を寄せる。
「お前の兄貴は俺が守ってやるよ、ルフィ。
お前を悲しませるような事は絶対に止めてみせる」
チュッと軽い音を立て、手配書を懐にしまいこむと、
海風に乗ってククッと小さく笑う声が耳に流れてきた。
かっと頬に朱を昇らせ、笑い声の聞こえた方向をチラリと見る。
案の定、少し離れた船室の壁に背を預け、
両腕を胸の前で組んだベンが声を殺して肩を揺らしていた姿があった。
シャンクスの視線に気づいたベンは、壁から背を離して近づいてくる。
「話しは終わったのか・・・くくっ」
「なんだよ・・・何がおかしい!」
気まずい空気に、シャンクスは酒瓶をぐいっと煽り、
上を向きながらベンに視線を向けて様子を伺った。
「いや・・・いつまでも、あんたって人は若いって思ったんだよ」
「・・・う・・・」
瓶の中身をすべて飲み干したシャンクスは瓶から唇を離し、
遠巻きに自分達をおそるおそる観察している団員に手を振りながら大声を上げた。
「おい、酒持って来い!」
遠くで、数人の団員がキッチンへ走るのが見えた。
頬がまだ赤いシャンクスの顔を見て、再び耐え切れなくなったベンが吹き出す。
「何、笑ってんだよ・・・」
「赤髪海賊団の大頭が少女趣味とは、
他の海賊団には知られないようにしなくては・・・な。シャンクス」
ククッと笑い、ついに声を殺す事も限界になったベンは
空を仰ぎながら笑い声をあげた。
滅多に大口を開けて笑う事がない副団長と、それを不思議そうに見つめる団員達。
そして、真っ赤な顔をして握りしめた右拳が震える真っ赤な髪の大頭。
団員が2人の下に酒を持って来た。
シャンクスは震えたままの右手で瓶を受け取り、大声をあげた。
「いつまでも笑ってんじゃねぇ!・・・・
野郎ども、白ひげんところまで景気づけに宴会だぁ!用意しろっ!」
やけくそ気味に下した命令にも、団員達は素直に従う。
白ひげ海賊団に接触するまでの間、
シャンクスの船はどんちゃん騒ぎの大宴会が催されたという。
end
※この小説は、SNSのmixiでお友達の546さんがキリ番を踏んでくださった際に受けたリクエストで
執筆したシャンクス⇒ルフィの小説です。プラトニックを目指して書いてみました。 |
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