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■ 『Greatest happiness』 水天宮拓仄
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2月6日
彼女にとってはいつもと変わらない日常だった。
いつも通り甲板にある自分専用の長椅子で寛ぎながらの読書に幸せを感じる。
彼女の目の前では、いつものように仲間達が賑やかな声を発しながら動いている事すら幸福だった。
エニエス・ロビーで仲間の為に自分を殺そうと決意し、救われ、生きていても良いと認められた事。
どんなに年月が経過しても今以上の幸せは無いと思う。
故郷の島を出てから数十年という時を生きてきて、こんなにも穏やかに過ごせる場所を得た幸せ。
目を細めて仲間達を見つめていると背後から、トレイを持った長いしなやかな腕が伸びてきた。
「今日も美しく艶やかな貴女の為だけに、僕から愛を込めて」
カクテルグラスに薄い紫のような桃色の液体を満たし、グラスには綺麗だが決して派手ではないフルーツの飾り。
差し出されたグラスを受け取り自然と微笑が浮かぶ。
「ありがとう。とても綺麗ね」
一口グラスの中身を口に含むと広がるほんのりと甘いアルコールと、身も心も酔うような香りを楽しむ。
腰をかがめ、紳士的な態度で笑顔を向ける彼はこの船のコック。
彼はいつも軽薄な雰囲気を持っていたが、今日は実に紳士的な身のこなしだ。
目の前に座りながら海図を描いている航海士がいるというのに。
「航海士さんと喧嘩でもしたのかしら?」
腰を屈めたままのコックへ小声で囁きかけるが彼は小さく頭を左右に振り、立ち上がった。
「とんでもない」
それだけを告げるとコックはカツリと踵を返し、空になったトレイを小脇に抱えてキッチンへ戻る。
いつも通りの仲間に、いつも通りの風景をグラスを手に改めて眺める。
ほんの少し感じる違和感に小首を傾げ、目の前にいる航海士に視線を向けた。
「ねぇ、航海士さん?」
「なあに?」
描きかけの海図から目とペンを離さないまま彼女は返事を返してくる。
いつもなら、ペンを止めてこちらを向いて微笑む彼女が。
「いえ、なんでもないわ」
「そう?」
短い会話が苦痛なわけではない。
元々口数も少なく、静寂を愛している。
でも、この空気にある違和感は一体なんだろう?
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夜になり、甲板からコックが仲間達を呼ぶ声が聞こえて彼女は部屋を出た。
『おめでとうロビン!』
仲間達の笑顔と拍手に迎えられて彼女は驚きの表情を浮かべていた。
普段は船室で食事を取るのが恒例になっているはずの食事・・・いや、いつもより豪華な食事が
甲板の上に用意された大きなテーブルセットの上に鎮座している。
「え・・・これは何?」
向けられた言葉と笑顔の意味を瞬時に理解できなかった。
きょとんとした表情を浮かべ、部屋から足を踏み出したまま動きを止めている彼女に
船医が自分よりも大きな花束を抱えて、ヨタヨタと歩み寄ってくる。
目の前が見えない船医が甲板にあったデコボコに躓いた。
「あっ!」
思わず駆け出して大きな花束と小さな体を受け止める。
目の前には色とりどりの花と、鼻先には今まで感じたことが無い香り。
「ごめん、ロビン」
「大丈夫よ。それよりも船医さんは大丈夫?」
「もちろんだ!この花も大丈夫だ!」
花束から手を離して照れくさそうに笑う船医を見つめ、今日は何の日か思い出す。
誕生日。
故郷を出てから、そんな日が年に一度ある事すら忘れていた。
『誕生日おめでとう!!』
花束を抱えた彼女に仲間達が口々に同じ言葉を紡ぎ出す。
何度も何度も聴こえる同じフレーズが、今まで忘れていた日々を取り戻してくれる。
「ありがとう・・・・みんな」
これだけは、はっきりとした言葉で告げたい。
でも涙が溢れて止まらず、最後の方は掠れて消えてしまいそうだった。
それでも彼女は仲間達を見つめ、何度も何度も呟き花束を抱きしめていた。
「誕生日だって聞いたの今日でさ・・・なんにも用意できなかったけど、おめでとうな!」
麦わら帽子をかぶり、年齢よりも幾分か幼く見える彼はこの船の船長だ。
テーブルにおいてある肉を掴み、彼女に歩み寄ってくると「ん!」と肉を差し出す。
「この肉、一番美味そうだからやるよ。誕生日だもんな?」
あの日、自分を救ってくれた太陽のような眩しい笑顔を向ける船長へ手を伸ばす。
「ありがとうルフィ。プレゼントならコレで結構よ」
両手で船長の顔を引き寄せて彼の首をゴムのように伸ばす。
仲間達が驚きの表情で見つめる中、彼女は船長の唇に自分自身のそれを掠めるように触れさせる。
「今までの人生で一番のプレゼントだったわ」
微笑む彼女を目の前に顔を真っ赤に染める船長と、囃し立てる仲間達の喧騒を乗せて
今日もサウザンド・サニー号は大海原を行く。
end |
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