■ 『真心をキミに。』 水天宮拓仄    挿絵:鳴海梅子さん(HP

 サウザンド・サニー号は、物資補給のために中規模な港町に寄港していた。
 かと言っても、高額賞金首が何人もいるルフィ海賊団は港の反対側にある崖を
見上げるように停泊している。
 島へ入るには小型のミニメリー2号や偵察用のシャークサブマージ3号で乗り込むしかない。


ー約半刻前ー
 船が島へ停泊する前に、ナミとロビンがクルー達が寛ぐスペースとして活用している
生簀水族館アクアリウムバーでグラスを傾けながら語り合っていた。
「もうすぐね」
「ロビン何か用意した?」
 テーブルに頬づえをつきながらナミに視線を向けながらロビンは少し困った表情を見せて頭を左右に振った。
「私もなの・・・こういう事は大事だから何か用意したいのだけど・・・あまり豪華にはできなくて。
一緒に考えてくれない?ちょうどもう少しで港町に着くし」
「ええ、いいわよ」
 可愛い妹分のようなナミの言葉を快く引き受けたロビンは視線を生簀の中を泳ぐ魚達を見つめていた
ルフィの視線が自分達に向けられていたのを感じとったのだ。
「ありがとうロビン!」
 嬉しそうに笑うナミの後ろに歩いてきたルフィがきょとんとした顔でロビンとナミを見つめ、口を開いた。
「なあ、何話してんだ?何か面白い事ならオレもやる!」
 自分がわからない会話をして楽しそうな二人に唇を尖らせながら詰め寄ると、振り向いたナミが呆れた顔を見せる。
「あんた・・普段あれだけ一緒にいるくせに、サンジくんの誕生日忘れてるの?」
「え!サンジ誕生日なのか?」
「そう、明日ね」
 ナミの説明にロビンが一言付け加えてグラスを唇に運ぶ。
「そっか〜じゃあ宴会だな!」
 嬉しそうに顔を輝かせるルフィを見てナミは溜め息をついた。
「あんたは誕生日と言ったら”宴会”なわけね?祝うとか何か贈るとかいう気持ちはないの?」
ーしかも、あんたはサンジくんの恋人でしょう?−
 と喉まで出かけたが、それはクルーの中でも暗黙の了解となっていたので何とか自制することに成功した。
「おうっもちろんサンジの誕生日を祝う宴会だ!祝うに決まってんだろ」
「祝うって”お誕生日おめでとう”って言うだけなんでしょ?
たまにはプレゼントの1つや2つあげてもバチは当たらないわよ。特にあんたは」
 二人の会話をくすくすと眺めるロビンは何かの気配に気づくと唇に人差し指をあてて”シーッ”という仕草を見せた。
「何言ってんだよ、たんじょ・・・むぐぐっ」
 ロビンの能力で咲いた2つの花がルフィの口を塞ぐと同時に扉が開き、今話題の中心だった男が入ってくる。
「もうすぐ港につき・・・ああっ!ルフィ何て羨ましい事になってんだお前!」
 サンジから見たらロビンに抱擁されているかのように見えるのだろう、慌てた様子で駆け寄ってくる。



 口を塞いでいた花を解きながら、ロビンはルフィの耳元に唇を寄せて囁きかけた。
「今の話はコックさんには内緒よ?驚かせたいの」
 その言葉に頷くとロビンからは笑顔がこぼれ、ナミは駆け寄ってきたサンジに同情的な視線を向けた。
「サンジくん。もう島につく頃かしら?」
 ナミからの視線を不思議そうに受け取ったサンジだったが問われた事には、即答した。
「はい、もう予定の港から離れた崖の近くに来たのでナミさんを呼びに」
「そ、ありがと。じゃあ、後はわたしに任せて皆は上陸の準備を」
 椅子から立ち上がり、手に持っていたグラスをルフィに手渡して表情で口止めに念を押していく。
”いいわね、絶対に言うんじゃないわよ?”
 とナミが言ったかどうかは定かではないが、その迫力にグラスを受け取ったルフィはコクコクと頷いたのだった。



ー停泊中のサニー号キッチンー
 キッチンで冷蔵庫の中身や食料庫のチェックをしているサンジを見つめルフィは考え事をしていた。
 ナミとロビンから言われた事を思い出し、今までの事を思い出してみると自分の誕生日には
宴会を開いて大騒ぎした後に、仲間達からプレゼントを貰った記憶があるのだ。
 ほとんどが食べ物だったので、それらはその場で自分の胃袋に消えたので頼れるのは記憶だけである。
 そして、自分がサンジの誕生日に何か贈った記憶が無いことに青ざめた。
 一人で難しい表情を見せているルフィに気づいたサンジが冷蔵庫の鍵をかけ終えて振り返り声をかけてきた。



「これから買出しに行くから、お前も一緒に付き合えよルフィ。何か奢ってやるよ」
「ほんとかー?行くー!」
 たった今まで難しい表情をしていたルフィの顔にいつもの笑顔が戻ってほっとした。
 何を考えているのかわからないが、あんな顔はルフィに似合わない。
「よし、じゃあ仕度してこい。甲板で待ってるからな」
「おうっ!」
 港へ今回上陸するのは、ナミとロビンとサンジという予定だったが買出し用のミニメリー2号は4人乗れる。
 そこにサンジがルフィを誘って一緒に買出しへ行くのには何も問題はないだろう。
 ルフィも今回は船番係から外れている。
 キッチンから勢い良く飛び出すとルフィは真っ先に停泊処理をウソップとフランキーに指示しているナミの元へ
駆けつけて両手を出した。
「何の真似かしらルフィ。この手」
 用件に検討がついたナミは冷ややかな表情を浮かべ、チラリとルフィへと視線を流す。
 口を開いたルフィは、まったく一言一句予想通りの台詞を発してくれた。
「ナミ、小遣いくれ!」
「駄目よ。この前の分け前は、だいぶ多く渡したはずよ?」
「あれは港で飯食ったら終わっちまった」
 胸を張って自慢気に言い放つルフィを思い切り殴りつける。
 芝生の上にドターンと叩きつけられて、すぐに抗議の声を上げた。
「いてぇ!オレは船長なんだぞ!一番いっぱい貰ってもいいはずなんだぞ!」
「うっさいわね!あんたに渡したらあるお金全部食べ物にしちゃうでしょ!しかもその場で食べるし」
 ブーブーと唇を尖らすルフィを上から見下ろし、威圧的に睨みつける。
 普段のナミも迫力があるが、お金が絡むと尚更だ。
 怯んだルフィになおもナミが畳み掛ける。
「サニー号の設備にも、それなりにお金がかかるの!維持するにも整備するにもね。わかった?キャプテン」
 もう言葉が終わる頃には反論する余地も力も無くなったルフィはふて腐れて芝生をむしっては海風に流していた。
「サンジのプレゼント買おうと思ったのに」
「それはそれよ。お金がかからないプレゼントでも考えるのね」
 上陸の準備で女部屋へ戻るナミの後姿をうらめしく見つめ、力なく立ち上がると男部屋へトボトボと歩き出した。
 ルフィの宝物である麦わら帽子を取りに部屋へ戻った。



ー停泊より1時間後ー
 商店街の入り口でナミとロビンと別れ、食品を多く扱っている店が商店街の一番奥にあると聞き、そこに向かっていた。
 食品が売っている店へ行くまでの道で、ルフィは目につく店で足をとめてはサンジに繰り返し聞いてくる。
「なぁなぁサンジ!これなんかどうだ?かっこいいぞ!」
 奇妙な形をした人形やらお面やらと、いかにもルフィが好きそうな雑貨やおもちゃを見せられて
サンジは最初は戸惑ったが、だんだんその意図がわかると終始にこやかにルフィが示す物を見ていく。
ーそういえば明日は俺の誕生日だ・・・こいつから何か貰おうなんて思ってなかったけど。
 そういえばナミさんとロビンちゃんと何かこそこそ話してたな。そこで何か言われたってわけか。可愛いねぇー
 口元が緩むのを止められないサンジは一軒一軒の店を覗いては、そこの商品を吟味するルフィを見つめる。
「これは!」
「ん〜イマイチだな」
 どうせ貰うなら使える物がいいな。食料を買う店までだいぶあるし、時間もたっぷりある。
 今日はルフィにとことん付き合うのも悪くないなとサンジは思いながら、ゆっくりと歩を進めていく。
 ふと、とある店の軒先に並んでいた揃いのカップに目を留めて、足を止めた。
 それに気づくと数歩前を歩いていたルフィがサンジの元に戻ってくる。
「どうしたんだ?」
「なあ、ルフィ。俺、これがいい。これが欲しい」
 目線の下にある二つのカップを指差すと、すかさずルフィが両手でカップを持ち上げてジロジロと観察すると、
両手に持ったままサンジを見つめて信じられない言葉を発した。
「じゃ、これ買ってきて」
「え?お前が買ってくれるんじゃないのか?」
 てっきり自分への誕生日プレゼントをルフィが買ってくれるのだと思っていたサンジは驚いて目を見開いた。
「いや、そのつもりなんだけどさ。今、手持ちが無いから宝払いで!」
 シシシッと笑いながらサンジを見つめ、幼い頃に育った村でよく口にした台詞を使う。
「なんだそりゃ・・・あてになんのかよ?」
「オレは現に海賊やってるし、海賊王になる男だから大丈夫だ!」
 何を根拠に言うのかわからなくて、思わず噴出してしばらく腹をかかえて笑うサンジだったがやっとの思いで
笑いを我慢するとルフィが手に持っていた2つのカップを手に取ると、店の中へ向かった。
「わかったよ。じゃあ宝払いな。期待してるぜ海賊王」
「おうっ」
 元気よく腕を上げたルフィを見て、踵を返すとクスリと笑いが再びこみ上げてくる。
「何が宝払いなんだか・・・。あ、これプレゼント用にしてくれよ」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
 小さく笑いながら会計をするサンジを店主は怪訝な顔で見つめながらも、丁寧に梱包してプレゼントとして仕上げてくれた。

 店の外で箱をルフィに渡すと嬉しそうに胸に抱え込む様子を見て、先ほどと違う笑みが浮かぶ。
「ありがとな、サンジ!後でお前にやるから楽しみにしてろよ!」
 渡す本人に買わせたプレゼントを渡す事がそんなに嬉しいのか思いながらもサンジの心は満たされていく。
ーお前からは、もう充分貰ってるから・・・今さら何か欲しいなんて気持ちは無いが・・・嬉しいもんだなー
 上機嫌で軽やかに前を歩く後姿を見つめながら、サンジは明日のその瞬間が待ちきれないほど楽しみだと自覚した。





end