ここはグランドライン病院のごく一般的な個室3456号室。
入院しているのは大学生で、先日不慮の事故により両足を骨折した青年だ。
昼食を食べ終わった頃に、日当たりの良いベッドの上で
うとうとしていた青年は、突然開いた扉の音で意識を現実へ引き戻した。
「サンジ!」
青年の名前は”サンジ”綺麗な金髪に青い瞳を持った姿は
一般的に二枚目の部類に入るであろう。
だが、扉を勢い良く開いて入ってきた人物を目の前に、
彼が二枚目だと思える要素は消えうせていた。
「ルフィ!今日も来てくれたのか?」
目尻を下げ、鼻の下がほんの少し下がる様は三枚目と言っても過言ではない。
「おうっ。だってサンジはオレの恋人だもんな!」
両手いっぱいに持った弁当や果物をサンジが横たわるベッドの上にドサリと置き、
真っ白な歯を見せながら笑うのはルフィという少年と言っても違和感のない青年。
ルフィはグランドライン病院に雇われている清掃係のアルバイトだ。
「足の上に置くなよ。怪我人なんだから俺は。恋人なら優しくして欲しいね」
「あっ悪りぃ!今すぐ食べるから」
「わかったよ・・・ったく仕方ねぇなお前は」
骨折した両足の上に弁当箱やら固い果物やらを乗せられて、
確かに痛みを感じるが可愛い恋人を目の前にケチな事は言いたくない。
満面の笑みでルフィの行動を許すと、
すでに弁当をかたっぱしから広げて平らげていくルフィを見つめて目を細めた。
「美味いか?」
「おうっ」
「俺にも味見させてくれよ」
「いいぞ!これは受付のねえちゃんから貰った弁当な」
グランドライン病院でのルフィは女性職員の中ではアイドルのような存在。
毎日の昼食は自分で用意しなくても彼女達が心を込めて作ってきてくれる。
それをありがたくすべて平らげて、アルバイトが終わる時間に
彼女達と一緒に決めた弁当箱置き場に返却すれば良いのだ。
以前までは恋人のサンジが毎日弁当を用意していたのだが、
最近は彼女達がルフィに対して本気で付き合いたいとか
何かをしたい・・と思っていないと知ると、ヤキモチも自然と消えうせてしまった。
ベッドの上に昇り、サンジの頭を自分の膝に乗せてルフィは
手に持った弁当箱の一口コロッケをフォークで突き刺す。
「じゃ、あーん」
「あーん」
サンジがコロッケを口に入れてもぐもぐと租借していると
ルフィの背後にある扉がバタンと大きな音を立てて開いた。
そこには白衣に身をつつみ、拳を胸の前で震わせる若い医師が
ルフィの膝に頭を預けて至福の時を味わっているサンジを睨みつけていた。
「また・・・てめぇはウチのルフィを・・・・」
「あ、エース!」
入ってきたのはルフィの兄で、グランドライン病院に勤めて2年目の
若手医師であるエースである。
医師エースと清掃アルバイトのルフィが仲の良い兄弟だというのは、
2人の住む近所だけではなく、院内でも有名な話だった。
「また出やがった。ブラコン兄貴」
ぼそっと呟いたサンジを鋭く睨みつけ、カルテを挟んだボードを
乱暴にベッドに備え付けてあるテーブルに置くと、
ボードから発せられた音にルフィがびっくりした表情をエースに向けた。
「な・・・なんだよエース!何怒ってんだ?」
「ん?何も怒ってないだろ、俺は。さ、お前はそろそろ仕事の時間だろ?」
「あ、ホントだ!じゃあ、また仕事終わったら来るからなサンジ!」
「ああ、仕事がんばれよ」
笑顔でルフィを送り出すサンジとエース。
扉が閉じられた瞬間に3456号室には険悪な空気が漂うのもいつもの事だ。
「おい・・・ルフィに気安く触るんじゃないと言っただろうが」
「あんたもいい加減認めろよ。俺とあいつは付き合ってんの?わかる?
恋人同士ってやつで、触るどころか・・・あーんな事もこーんな事も
できちゃう間柄なんだよ!」
「てめぇ!ルフィにふしだらなことしやがったら骨折だけじゃすまさねぇぞ!」
ベッドに横たわったままのサンジを睨み、手が出そうになるのを必死に耐える。
ここで手を出してしまったら医師としての誇りも資格もルフィからの信頼も
失ってしまうとわかっているからだ。
「ふしだらって!あいつはもう二十歳の男だぜ。いつまでもガキじゃないだろ」
「いーや、あいつはまだまだガキのままだ!
お前は何もわからないあいつを手篭めにしているに違いない!」
「はぁ?何ふざけた事言ってやがるんですか?センセイ?
俺とルフィは相思相愛だって、まだわかんねぇの?
今度、あんたの目の前でやってやろうか?」
両腕を頭の後ろに組んで強気な瞳をエースに向ける。
わなわなと小刻みに震えながら必死に自分の拳を押さえつける
エースを見つめて勝ち誇ったような表情を見せるサンジであった。
その日の夜。
常勤を終えたエースが自宅へ戻るとルフィがソファの上で
テレビを眺めながらこっくりこっくりと全身で船を漕いでいる姿が目に入ってきた。
「ただいまー遅くなったけど、今から飯作るからちょっと待ってろよ」
「あ〜おかえりぃ!腹減ったぞエース」
「はいはい。わかってるよ、すぐに作るからテーブルの上片付けておけよ」
「はーい」
眠い瞼を擦りながら言いつけ通りにテーブルの上を片付けるルフィを見つめて口元に笑みが浮かぶ。
二十歳とは思えない幼い容姿に、子供のような言動に仕草や行動すべてがエースにとっては可愛くて仕方が無いのだ。
五歳下の弟を見る目は幼い頃からまったく変わる事がない。
恋人ができたと聞いてエースは取り乱したものの、
ルフィが好きになった相手なら認めようと思っていた。
だが、実際に恋人だと連れてきた人物が同性で生意気な青年だった事でその気持ちはすっかり薄らいだのである。
両親亡き後、手塩にかけて育ててきた可愛い弟をあんな軟派な男に奪われるとは思いもよらなかった。
野菜を切る為に握っていた包丁にだんだん力が籠められて、
ダンダンッ!と大きな音を立ててまな板までも切ってしまいそうな勢いに
背後からルフィが駆け寄るとエースが握る包丁を止めるよう両手で腕にしがみつく。
「エース!何やってんだよ!まな板まで切れてんぞっ」
「え・・・あ・・・ああ。悪い、考え事してたら力が入っちまった」
笑いながら自分の腕にしがみつくルフィを見つめ、子供を褒める時のように頭を撫でる。
それに嬉しそうな表情を見せるルフィはまだまだ大人の男には程遠いように思えた。
夕食を済ませた後もエースは昼間に見た光景を思い出して眉間に皺を寄せていた。
「エース。なんか怒ってるよな?オレ、なんかしたのなら謝るからさ」
目の前に座っていたルフィがモジモジと上目遣いに見つめてくると、先ほどまでのむしゃくしゃした気持ちが和らぐ。
「いや・・・別に怒ってるわけじゃないんだけどな」
「じゃ、なんでそんな顔してんだよ?昼間から変だぞエース」
唇を尖らせて、普段と様子の違うエースを攻める。
その可愛さに一瞬ほだされそうになったが、
エースは兄として威厳を保つために、自分の意志を総動員して表情が緩むのを堪えた。
「ルフィ。ちょっとここに座れ」
自分の目の前を指差して、ジロリと視線を向けたが相変わらずルフィは平気な表情だ。
「もう座ってるけど。なに?」
「正座で座れ」
「えーやだよ。足痛くなるし」
「いいから、正座!」
渋々といった調子で正座をするルフィを目の前に一呼吸置いて口を開いた。
「お前、本当にあの男と付き合ってんのか?」
「サンジの事”あの男”なんて言うなよ!」
改まってサンジとの付き合いについて話をされた事はないが、
紹介した時の様子と病院での2人を見ていれば
なんとなくエースとサンジが仲が悪いのはルフィにもわかっていた。
「なんかで脅されたり、飯で釣られたりしてるんじゃないのか?」
「何言ってんだよ。オレはサンジの事が好きだから付き合ってるんだぞ?」
きょとんした表情だが、その言葉を口にしたルフィの瞳は本気の目だった。
ルフィが生まれた時から見つめているのだ、彼の言葉が本当なのかどうかくらいは瞳を見ればすぐにわかる。
「・・・ひ・・・膝枕なんていっつもやってんのか?」
「へ?いつもって程じゃないけど・・・今日はたまたまそんな感じになったからかな」
「俺にもやってくれた事ないのにか?」
だんだん論点がズレている事に気づかない程エースはルフィの事が大好きなのだ。
認めたくないが、ルフィが好きだという人間をいつまでも否定し続ける事はできない。
結局、自分は兄であり・・・たった一人の家族である弟ルフィの幸せを願う事しかできないのだから。
「エースもやって欲しいのか?膝枕」
「え・・・い、いやっ!」
ルフィの言葉に今自分がとんでもなく恥ずかしい事を言った事に気づいたエースは慌てて両手を顔の前で振る。
「別にいいよ、ほらっ」
そう言って振られている両手を上手くすり抜けたルフィの手が伸びてきて、
エースのネクタイをぐいっと下にひっぱる。
「うわっ」
勢いよくネクタイを引かれたエースはバランスを崩して、ルフィの膝の上に倒れこんでいた。
そこをルフィが両手で頭部を持つと正座をした太腿の上にちょうど収まるように抱えこんでしまう。
「へへっこれでいいだろ?」
真上で笑う弟を見つめていると、エースも幸せそうに微笑む事ができたのだった。

end
■キャラ設定■
ルフィ 20歳 エースの勤めている病院で清掃員バイト中
サンジ 22歳 大学4年 現在・両足骨折で入院中。ルフィの恋人
エース 25歳 大学病院勤務の医師2年目。サンジの担当医
コメント
船長感謝祭で開催されたチャット会で、運命の出会いをした方・・・よぐさん。
「よぐたく」というコンビ名で制作した現代パラレルです。
エースは絶対にルフィにメロメロなブラコンだという妄想を元に書いた文章に
可愛いほんわかしたイラストを相方のよぐさんが描いてくださいました!
よぐさんとコラボできて大変光栄です♪また機会があれば是非またvv
今回はお付き合いくださいまして、ありがとうございました〜〜〜〜!!
|