■ 『続Dr.ブラコン』  (サンル+エース)文/水天宮拓仄

 グランドライン病院玄関で今一人の青年が退院を迎えようとしていた。
 女性看護士達から花束を受け取り、にこにこと笑顔を振りまく。
 彼を含めて全員が笑顔なのに一人だけしかめっ面をした若い医師がいた。

「退院おめでとうサンジ!!」

 一番の笑顔で飛びついてきた小柄な少年・・・いや青年はグランドライン病院の清掃員アルバイターのルフィだ。
 その光景を見てしかめっ面をしていた医師が怒りの表情になり声を荒げた。

「おめでとうサンジくん!もう二度と俺達の目の前に現れないように気をつけてな?」

 ヒクヒクと引きつった笑顔を浮かべて、近づいてくるとサンジの肩に手を置いて力を込める。
 その手に余裕の表情で痛みを感じながら笑みを作ったサンジも口を開いた。

「ありがとうございましたエースセンセイ。無事に退院する事ができて嬉しいよ」
「何、礼はルフィと別れる事で十分だから」
「誰がっ!てめぇこそ、いい加減弟離れしやがれ」

 顔を近づけてボソボソと言い争う様子を見ていた看護士達は微笑ましく眺めている。
 おそらく、入院中に年の近いサンジとエースが仲良くなったのだろうと誤解していた。
 近くにいたルフィは苦笑を浮かべて二人のやりとりを見ていたが、互いの足や手が出そうな所で止める。

「エース!サンジは怪我が治ったばっかりなんだぞ、やめろよ」
「ルフィ・・・俺はお前のためを思ってだなぁ」
「はん。だったら、ごちゃごちゃ口出しするんじゃねーよブラコン兄貴」
「なんだと!」
「エース!」

 なぜルフィが怒り出したかわからない周囲の人間は不思議な顔をして三人を見つめる。
 さすがにここで退院したばかりのサンジと暴力沙汰を起こすわけにはいかないとエースも気づいて渋々身を引いた。
 ぎゅっと拳を握り締めて病院の中へ戻って行く。

「ルフィなんで怒ってるの?」

 仲が良い看護士の一人が訊ねてきた。

「別に怒ってねーよ。ビビも他の皆も早く仕事戻った方がいいぞ。昼休みも終っちまうし」
「そうね。お昼食べる時間がなくなっちゃうわ」
「それじゃあ、サンジくん。もう怪我なんてしないように気をつけてね」
「また入院したら私が担当してあげるわよ」

 看護士達は思い思いの言葉を残して、パタパタと小走りで病院に戻っていくとその場にはサンジとルフィが残された。
 申し訳なさそうな表情でルフィがサンジに向き直ると、ちょこんと頭を下げる。

「ごめんなサンジ」
「何が?」
「エースがさ・・・オレとサンジが付き合うの嫌だってさ」

 快活なルフィらしくなく、両手を胸の前でもじもじと弄りながらボソボソと呟くように言葉を発する。
 俯くルフィの頭に掌を乗せて、わしゃわしゃとかき回した。

「気にすんなって。別にお前の兄貴が俺達の事を認めなくてもかまわねーぜ」
「でもさ・・・」
「お前らしくもねぇなルフィ。俺とお前の気持ちが一緒ならそれでいいじゃねぇか?な?」

 周囲を見渡して誰もいない事を確かめると、ルフィを引き寄せて顎に手をかけた。
 反射的にルフィも瞼を閉じて、唇をそっと開くとサンジの唇を受け入れる。
 さすがに病院の玄関脇で真昼間から濃厚な口付けを交わすわけにもいかず、軽く触れ合わせてすぐに離れた。
 不満そうな表情を見せるルフィにゴクリと喉を鳴らすが、頭を左右に振ってもっと触れたい気持ちを我慢する。

「馬鹿、なに物足りないって顔してんだ。こんな場所でこれ以上はやべぇだろ。我慢できなくなっちまう」
「だ、誰も足りないなんて言ってない!」

 真っ赤になりながらルフィが腕を振り上げると、それを軽く後ろへ飛んで避けて持っていた花束を肩に担いだ。

「ほら、お前も仕事に戻らないとだろ?終る頃に迎えに来てやるよ」
「うう〜」
「何うなってんだ。もう一回して欲しいか?」
「違う!じゃあ、また後で!」

 勢いよく踵を返して病院の中に駆け込むと、清掃員が使っているロッカールームの前にエースが立ちはだかっていた。
 その表情は怒りや悲しみなんかが交じり合った複雑なもので、ルフィはどう声をかけて良いのか戸惑う。
 何も言えずに数歩前で立ち止まっていると、エースの方から口を開いた。

「ルフィ。この前、言った事覚えてるか?」

 いつも聞いている声とは種類が違う事にすぐ気づき、ルフィは胸が痛んだ。
 なんで、エースはこんなにも悲しんでいるんだろう。
 そんなに自分がサンジと恋人同士なのが嫌なのだろうか。

「この前の事・・・って?」

 おそるおそる口にして、エースの様子を伺う。

「お前はあの男・・・いや、サンジが本当に好きで付き合っているんだな?」
「そう言っただろ」
「心から愛していると言えるのか?」
「あ・・・愛・・・って、そんな・・・の」

 耳や首まで赤くしてエースの視線から逃れるように下を向いて黙りこんでしまった。


「俺はルフィを愛してるぜ」


 背後から突然声が響いてルフィは飛び上がって驚き、後ろを振り向くとさっき外で別れたサンジが真剣な表情で立っていた。
 ルフィを正面に見ていたエースにはサンジの接近がわかっていたはずである。
 
「サンジ!なんで、ここに」
「なんでって、お前の兄貴から呼び出しがあったんだよ」

 手に持っていた携帯を見せるとルフィの横に立ち、ぐいっと肩を抱く。
 強い意志を宿した瞳をエースに向けてもう一度さっきと同じ言葉を繰り返した。

「俺はルフィを愛してる・・・あんたよりもな」
「たいした自信だな。だが、ルフィが君に対してそこまでの気持ちがあると思えない。どうだ、ルフィ?」
「・・・エース、オレ・・・」

 肩を抱くサンジと正面に立つエースを交互に見つめてルフィは口ごもる。
 サンジの事はもちろん好きだと断念できる。
 だが、ルフィには「好き」と「愛」の違いがはっきりとわからない。

 もう昼休みも終わり、病院の職員達も動き出す時間になっていたが、ここは裏口に近い場所で人影はほとんどない。
 だが、あまり長くここへ居ると清掃員アルバイト達がルフィを探しにやってくるだろう。
 しかし、そんな事を気にするような余裕がルフィには無かった。
 目の前で起きている非常事態にどう対応して良いのかわからず、頭が真っ白になっている。

「ルフィ。どうなんだ?ここで、はっきりさせなければ俺はお前達の仲を認めない」
「・・・ ・・・」

 言葉にしなくてもエースはルフィの気持ちを理解していた。
 サンジの気持ちは強く、これからも変わる事はないだろう。
 運命の出会いとでも言うのかもしれない。
 サンジとルフィが離しても離れられないのは、理屈ではなく感覚でわかった。
 自分の弟は年齢よりもだいぶ幼い精神である事を兄として心配していた。
 精神的に未熟な弟が、運命の相手を一時の感情で見誤らないようにしたかった。
 ルフィがサンジと同じ気持ちならば、二人が共に過ごすのは”運命”と認める事ができる。

「わかった。お前は彼を愛してはいないって事だ。サンジ・・・金輪際ルフィには近づかないでくれ」
「ま・・・待っ!オレは・・・サンジの事、あ・・・愛してるから!そんでずっと一緒にいたいんだっ」

 大きな瞳に涙を溜めたルフィに両腕を力いっぱい掴まれながらエースはその言葉を受け止めた。
 さきほどまでの険しい表情は消えうせて、口元には笑みが浮かぶ。

「そうか。じゃあ、俺も認めざるをえないな」
「エース?」

 突然の変わり様にルフィはきょとんとした表情でエースを見つめ、自分の肩を抱いていてくれたサンジを見つめた。
 肩に置かれた手に頬を幸せそうにすり寄せる。

「サンジ・・・君にルフィを頼んでもいいか?」
「ああ。任せてもらおうかエース先生」

 空いている片手を差し出すと、エースも腕を伸ばしてその手を握り、まっすぐサンジを見つめて大きく頷くと一層笑みを深めた。

「弟を幸せにしてやってくれ」
「言われなくとも」
「エース・・・サンジっ」

 嬉しくて涙を浮かべるルフィを見つめて表情を崩しかけたが、それはサンジの手を強く握る事で耐えた。

「いでででででっ!」
「エース!」

 サンジから離れて彼の手を握り締めているエースの腕にしがみつく。
 力いっぱい握り締められた掌をぷらぷらさせながらもサンジは笑っていた。


end