4th STAGE


■1■
 今、ディルク達はヴィルブルグから徒歩で10日ほど離れた港町の借家を本拠地に、退治屋を本格的に開業するに至っていた。
 ヴィルブルグで開催された退治屋の大会で優勝したまでは良かったが、あの会場に来ていた観客の8割以上はヴィルブルグの住民。
 大会の決勝戦で、ディルクの用いた戦略はたちまち街中の噂になり、住民達の批判を浴びる事になったのだ。
 それについては、ディルクも承知していたのか、大会の2日後には街を出て行く事になった。
 彼が大会を終えた後に言った一言。
「この街からはそろそろ退散しましょうか?」
 全員一致で、ディルクの提案に賛成したのは言うまでもない。

 今いる港町は、ヴィルブルグから北上した位置にある海沿いの町”ビレフォルト”。
 ヴィルブルグよりも小規模で、人口も少なく住民はほとんど海に関わる生業としている町。
 海に面した町は、どことなく穏やかで住む人間の人柄も大きな街のそれよりも人情に溢れていた。
 また、港という土地柄か色々な国の人間が出入りし、国内外の情報も容易に集まる場所でもある。
 ディルクは、当分の期間をこのビレフォルトで退治屋としての腕を磨き、名声を高める為に、
ヴィルブルグの大会で獲得した優勝賞金のほとんどを借家に費やしていた。
 そして町にある退治屋ギルドに登録手続きを済ませ、ヴィルブルグの大会優勝の実績を売り文句に1枚のビラをギルドに手渡した。

『ヴィルブルグ・第6回腕試し大会。初出場+初優勝チームが、あなたの依頼を引き受けます。
どんな事でも、まずはお気軽にご相談ください。』

 ディルクとエドヴィンが作成したビラの冒頭には、こんな文句が書いてあった。
 ヴィルブルグから離れたこの土地なら、ディルク達が優勝した経緯を知る者はほとんどいないはずである。
 ビラを作ってから今日は3日目。
 ディルク達が滞在している借家には、この町で初めての相談者が訪ねてきていた。
「初めまして。私がチームの代表、ディルク・ノイラートです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
 受付係を申し付けたエドヴィンに案内されて、
二十歳前後の港町にしては色白の女性がおろおろとした様子で扉をくぐり、小さく頭を下げた。
 顔立ちからして、この国で生まれ育った人間では無い事が知れる。
 その女性を笑顔で部屋に迎え入れるディルク。
 窓際に立ち外を眺めつつも部屋の様子を伺っているグレーティアと扉の横に立ったまま無言で頭を下げるライムントが控えている。
「さ、どうぞ、おかけになってください」
 部屋の中央に、おいたテーブルと2客の椅子。
 扉を見据える位置にディルクがすわり、テーブルを挟んだ正面の椅子に来客が座るように配置してある。
 軽く椅子をひき、エスコートするエドヴィンを振り返って再び頭を下げて女性は椅子に腰をかけ、
テーブルの上に置かれた紙と男にしては細く、綺麗なディルクの指を見つめた。
 エドヴィンは自分の役目を終えて、数歩後ろへ下がるとライムントの控える扉の反対側に立ち、
依頼者の女性とディルクに視線を向けた。
「初めまして・・・私はマーシャ。マーシャ・エーベルトと申します」
 視線を上げないままマーシャは名乗って、再び唇をつぐんでしまった。
 目の前に座ったマーシャをゆっくりと観察するディルクは、彼女の様子に機嫌を悪くする事もなく優しく語りかける。
「マーシャさんですね。今回は、我々にどのようなご相談を?」
「あの、こちらでは、どんな事でも引き受けていただけるのでしょうか?」
 今までずっとテーブルを見つめていた彼女が、意を決したように突然顔を上げ、必死な瞳でディルクを見つめた。
 その瞳をやんわりと受け止め、軽く微笑むディルクにマーシャはほんのりと頬を染める。
 扉の横に立つライムントは、ディルクの微笑みを見つめて内心舌打ちをしていた。
 ディルクが幼い頃から得意とした、営業スマイルという心のこもっていない笑顔だとわかるからだ。
 付き合いの短い人間や初対面の人間には、それには気づかないほど板についた表情を、ライムントは嫌っていた。
「基本的にはどんな事でも我々に可能な事ならばお引き受け致します」
 その言葉にマーシャは表情を明るくする。
 そして、彼女は相談についてを語り出した。


 マーシャは、ビレフォルトの港口近くにある酒場で客から注文を受け、料理や酒を運ぶ仕事、いわゆるウェイトレスをしていた。
 彼女の容貌は、いわゆる”美人”の部類に属し、さらに異国風という事もあって、この酒場では看板のような存在になっている。
 酒場に来る客は、漁師や港に立ち寄る客船や私船で航海中の男達が中心だ。
 1ヵ月程前に寄港した貨物船が現れてから、マーシャの身の回りで奇妙なことが起こり始めた。
 最初は、酒場での仕事を終えた夜も明け始めた早朝の帰り道。
 帰路につくマーシャの背後から、ヒタヒタと何者かの気配を感じ、振り向いてもそこには何もいない。
 安全のために海沿いを歩いている彼女は海の反対側の建物と建物の間にある細い通路を覗いてみたが誰もいない。
 隠れる場所も限られており、見通しの良い場所にも関わらず、背後の気配は確かにあるのにその姿を見ることはできなかった。
 そんな事が5日ほど続いた後、酒場の常連となっている漁師の青年がある日突然店に顔を出さなくなった。
 ここ数ヶ月、天候も安定しており海で遭難者が出たような噂も聞いていない、
漁師仲間もその青年が消えた事に首を傾げるばかりである。
 そして、その青年が消えてから数日後、また常連のマーシャよりもだいぶ年上、そう父親ほど年が離れている漁師も姿を消した。
 その後も数日毎に、常連客が次々と行方をくらまし、今では十数名の男達が消えたという。
 町でもこの話題は有名で、消えたのは酒場の常連客で漁師という事も手伝い、酒場に来る客がほとんどいなくなっていた。


「・・・・我々に、この事件を解決して欲しい。つまりは、そういう事ですね?マーシャさん」
 話を聞き終えたディルクがテーブルの上に置いてある紙に事件の概要を書き記しながら、マーシャの方を見つめた。
 その表情には、すでにライムントの嫌う微笑みは存在しなかった。
 ディルクの言葉にマーシャは、小さく頷き、椅子から立ち上がって深々と頭を下げて必死に訴える。
「どうか・・・どうか、お願いします!このままでは、私・・・この国で暮らせなくなってしまうのです!
国にいる両親の為にも、仕事を失うわけにはいかないのですっお願いします!」
 何度も頭を下げるマーシャを前に、ディルクは無言で腕を組み、テーブルの上にある紙を見つめた。
「このお話が、魔物に関係している・・・という確証はありますか?」
 そう、ディルク達の生業は”魔物退治屋”である。
 もし、この事件に関わるモノが人間の場合は彼らの出番は無い。
 町にある役所の管轄になるのだ。
「わ、わかりません・・・ですが、消えてしまった方々はいずれも屈強な漁師の男性です。
そんな方々を次々と連れ去る事ができる人が、いるとは思えません・・・」
 俯いたままマーシャは言葉を続け、手に持っていた荷物の中から小さな袋を取り出しテーブルに置いた。
 置いた時に、小さく金属同士が接触するような音が響く。
「報酬は・・・少ないかもしれませんが、故郷の宝石と貨幣です」
 袋の紐をとき、中を開いてディルクに見えるように手でテーブルの中央に押す。
「報酬は、成功した時のみ受け取る規則ですので、今は結構ですよ。それに・・・」
 袋を手にとり、紐をしめてマーシャの手に返すとディルクは何か思いをめぐらすように、椅子に腰掛けたまま視線を宙に泳がせた。
「それに?」
 ディルクの言葉をそのままマーシャが繰り返す。
 今まで、複数の退治屋にこの相談を持ちかけて、すべて断られてきた。
 新しく退治屋ギルドに登録された、他の土地からやってきたディルク達なら引き受けてくれると思い、やってきたのだ。
「それに、このお話は謎が多すぎます。数日、我々の方でも調査させていただき・・・
魔物が関与している確証を得た時に正式にお引き受け致しましょう」
「本当ですか?ありがとうございます!」
 マーシャは涙を浮かべて部屋にいる全員に頭を下げた。
 最後に、椅子から立ち上がったディルクの手を両手で握り、何度も何度も頭を下げながら涙を流した。

 今夜、事件の舞台となったマーシャの働く酒場へ行く約束を取り交わし、
まだ涙を流し続ける彼女にグレーティアを供につけ、帰路へつかせた。

 このマーシャの相談が、後にディルク達にとって良い事なのか、悪い事なのかは、まだ誰も知らない。


■2■
 ここはマーシャが働く酒場”ミーアガルダ”。
 ディルク達の元に訪れたマーシャが言う通り日も暮れて海の男達で賑わう時間のはずだが、店内にいる客は数える程度だ。
 ガランとした店内にディルク、ライムント、グレーティア、エドヴィンは、
奥まったテーブル席に腰掛け、マーシャが店主を連れてくるのを待っていた。
 ディルク達がテーブルについてから、しばらくして中年程度の男性が現れ、マーシャから一行に紹介された。
「ミーアガルダの主です」
「初めまして、フランツ・ヘルダーです。話はマーシャに聞きました」
 テーブルの横に立ち、ディルク達にペコリと頭を下げる。
 彼の挨拶に一行も軽く挨拶を返した。
「初めまして、代表のディルク・ノイラートと申します。他の者は、後ほどご紹介します。
早速ですが、お話を伺ってもよろしいでしょうか」
「ええ・・・僕の話が何か参考になれば良いのですが」
 立ったままのフランツに椅子をすすめ、同じテーブルを囲む。
 いくら店内に客が少ないとはいえ、まったく居ないわけではない。
 また、店内にいる客のほとんどは、ここ数日で入港したばかりの船乗り達という事だった。
「この店に訪れている常連客が行方不明というのは、真実ですか?沖へ漁に出かけて帰港していない・・・等ではないのですか?」
 声を潜めて問いかけると、ディルクの言葉に静かに頷いたフランツは口を開いた。
「行方不明になった漁師の家族が、ここへ訪ねてきたので・・間違いないと思います。
それに・・・この街で行う漁は、沖へは行きません。朝に出港した船は、日が暮れないうちに帰港します」
 フランツの言葉にマーシャも頷く。
「居なくなった漁師達は、みな屈強な男性で・・・家族を持ち、明るく幸せに暮らしている人達ばかりで・・・
自ら姿を消すような人達とは思えないのです」
 無言で話を聞き、フランツとマーシャの話から何か手がかりになる情報がないかと考える。
 ディルクが腕を組み、頭の中にある引き出しを少しずつ開ける作業を行っている時、
隣で話を聞いていたエドヴィンが何か言いたそうに視線を動かした。
 それに気づき、エドヴィンに発言を促す。
「エドヴィン、何か思い当たる事でもありましたか?」
 声をかけられたエドヴィンは、自信の無い視線でディルクを見つめた。
「あの、昔聴いたことがあるおとぎばなしに・・・今回の事件と似たものがあったと思って。物語の題名を思い出せないのですが」
 ”おとぎばなし”という言葉を口にしてエドヴィンは顔を赤らめた。
 まだレーベン家で暮らしていた頃に、教育係がよく読み聴かせてくれた絵本の事を思い出したのだ。
「おとぎばなし・・・ですか。それは、どんな内容なのですか?」
 意外にもディルクが自分の発言に反応を示した事にエドヴィンは、先ほどとは違う意味で頬を上気させ、言葉を続けた。
「えっと、確か・・・。話の中で、行方不明になるのは”りょうし”ですが、山の方が中心となる”猟師”でした。
 次々に姿を消した猟師達は、神隠しに遭ったのだ・・・とか、
山の女神に魅入られて自ら女神の下へ行ったのだ・・・とか、猟師の住む村で噂された・・・というお話です」
 遠い記憶を少しずつ辿るエドヴィンは視線を宙に泳がせ、ゆっくりと思い出した順番におとぎばなしの内容を語る。
「・・・それで、その話の最後はどうなったのですか?」
 真剣な表情で、話の続きを促すディルクにライムントは首を傾げる。
 このおとぎばなしが、何かのヒントになるとでも本当に思っているのだろうか?と。
「話の最後は、猟師達が必要以上に動物を狩すぎて、怒った山の精霊が魔法をかけ、
そこでは永遠に時間が巡り、猟師達は年を取ることもなく、死ぬこともなく、永遠に山を彷徨ったと」
 話終えたエドヴィンは黙ったままのディルクをチラリと見つめ、再びテーブルの上に視線を落とした。
 自分が言った発言は何か役に立つのだろうか、それともまったく役に立たないものなのだろうか。
 緊張でエドヴィンは喉の渇きを覚え、自分の背後に立っていたマーシャに飲み物を頼む。
「マーシャさん、すみませんが水を一杯いただけませんか?」
「あ、ごめんなさい!私、みなさんに何も出さずに」
 慌てた様子で頭を下げると、マーシャはパタパタとカウンターの方へ駆けていく。
 駆け去るマーシャの背中を見送ったエドヴィンは再びディルクに向き直り、彼の発言を待った。
「なあ、ディルク。こんなおとぎばなしが事件のヒントになるのか?
しょせん、子供に”生き物は大切に”と教えるための話だろう、これは」
 何も言わないディルクにライムントがしびれを切らして、自分の意見を述べた。
「・・・少なくても、私は今のおとぎばなしを知りません。
ライムント、グレーティア、それに・・・フランツさんも聞き覚えがないのではありませんか?」
 そう発言したディルクが、ライムントから順番に目を向ける。
 問いかけられた3人は、幼い頃に聞いた事があるおとぎばなしの数々を思い浮かべていく。
「ライムントは私とほとんど同じ環境でしたから、私の記憶になければ君にも無いはずです。グレーティアはどうですか?」
 頭をひねって必死に思い出そうとしているライムントを記憶の迷路から導き出し、
次にエドヴィンの隣に座っているグレーティアに視線を向けて、彼女からの言葉を待つ。
 ディルクの意図を感じとり、グレーティアも頭を左右に振った。
「よく兄におとぎばなしを聴かせてもらったが、このような話はなかったと思う」
「僕も・・・聴いた事がないと思います・・・ずっと海育ちだからかもしれませんけど」
 何十年も昔の記憶で、自信が持てないフランツは、最後に自分が知らないかもしれない理由を付け加えたのだ。
 すると、ちょうどマーシャがトレーの上に、軽い食事と酒や果汁を使った飲み物を4人分乗せて戻ってきた。
「どうぞ、召し上がってください。たいした物は用意できませんでしたが」
 トレーの上からテーブルに皿やグラスを置くマーシャに、ディルクが彼女にも同じ内容を問いかけた。
「私の国でも、そのようなおとぎばなしは・・・無いと思います。
私、小さい頃からおとぎばなしが大好きで、よく母に色々な話をせがんだものですから」
 懐かしそうな寂しそうな表情を浮かべたマーシャは、最後の皿をテーブルに置くと、店の窓から暗くなった外を見つめた。
 彼女の言葉を聞いて、ディルクは少し間をあけ、自分なりの考えを言葉にする。
「この話は、レーベン家に伝わる実話なのかもしれませんね。
幼い頃から、魔物退治としての教育が始まると言っていましたよね、エドヴィン?」
 テーブルを挟んで正面に座るエドヴィン問いかけた。
「はい。レーベン家では三歳になった日から教育が始まると聞いていますが・・・あまりにも幼い頃なので、記憶が曖昧です」
「そして、レーベン家では・・・一族の歴史を学びますね?過去にあった事件や事故、功績などもすべてを、なんらかの形で」
 エドヴィンから直接聞いた話もあるが、レーベン家に興味があったディルクは旅に出る前に
レーベン家ではどんな教育が行われているかを調べた事があったのだ。
「そうです。よく、ご存知ですねディルクさん・・・一族以外の人間には、伝えないはずなのですが」
「色々、私にも情報を得る手段がありますので・・・っと、この話は後にしましょう。今は、行方不明についての話を進めますよ」
 有無を言わさない口調でディルクが話を再開する。
「これは私の推測です。レーベン家の人間が過去に体験した”謎に満ちた事件や事故”は正確な記述ができず、
”おとぎばなし”という形で一族の子供達に伝えているのではないでしょうか?」
 推測と自ら発言しているが、その表情は自信に満ちていた。
 自分の記憶と知識を組み合わせて導き出した答えなのだから、
口に出す時点でほぼ確信しているのがディルク・ノイラートという人間である。
 それを良く理解しているライムントが驚いた表情を見せ、斜め前に座るエドヴィンに目を向けた。
「エドヴィン。どうだ?ディルクの言っている事に心当たりはないのか?」
 友の自信に溢れた表情と言葉で、ライムントは無条件で信じる。
 普段は平気で嘘をつき、人をだましてでも自分に利益を生むようなディルクだったが、仕事や知識に嘘はつかない。
 そして、自分が納得できない内容の話は、決して他人にも話さない男である。
「・・・僕も子供の頃に聞いた話は、すべておとぎばなしだと思っていたので、
ディルクさんが言っている事が正しいのかどうかはわかりません。・・・・でも」
 申し訳なさそうな顔をしたエドヴィンが、何かを言いかけて唇を閉ざした。
「エドヴィン、知っている事は何でも良いから話すんだ」
 隣に座っているグレーティアが俯くエドヴィンを下から覗きこみ、元々吊り気味の目じりをさらに吊り上げた。
 その迫力に負けたエドヴィンは、先ほどの発言に言葉を繋げた。
「でも、ビレフォルト郊外に住んでいる・・・オスターを訪ねれば、何か知っているかもしれません」
「オスター?何者ですか?」
 初めて聞く名前にディルクが訝しげに問いかける。
「オスター・フォン・レーベン。昔、僕の教育係をしていた方です。
僕がレーベン家を出た責任を感じて、隠居生活をしていると聞いています」
 その回答に満足したのかディルクはにんまりと笑みを作り、椅子から立ち上がった。
「では、訪ねてみましょうか。オスター・フォン・レーベンを」
 椅子にたてかけておいた杖を手に持ち、一同を見渡すとライムントが非難の声を上げた。
「訪ねるって、今から行く気か?郊外って事は、10分や20分の距離じゃないんだぞ」
「本当に君は知能年齢が低いですね、ライムント」
 目を細め、いかにも馬鹿を見るような視線に、さすがのライムントもカチンときて椅子から立ち上がった。
「俺はこんな夜遅くに訪ねるような非常識な真似をしたくないと言ってるだけだ!お前の常識のなさには心底呆れたぞ!」
 声を荒げる友をチラリと見やり、まだ椅子に腰を下ろしていたエドヴィンを立つように促す。
「さ、エドヴィン行きますよ」
「今から出発すると、オスターの屋敷に到着するのは夜も更けてしまいますが・・・よろしいのですか?」
 椅子から立ち上がりながら、エドヴィンも内心ではライムントの主張に賛成である。
 旧知の仲とは言え、一般的には人が眠りについているような時刻に訪ねるような事は非常時以外は避けたい。
「やれやれ、君もライムントと同意見ですか?」
 ため息をつきながら、隣で怒りで顔を赤く染める友人に視線を向けながらマーシャに手を差し伸べる。
「夜だからいいんじゃないですか?さ、マーシャさんもご同行願います」
「私も・・・ですか?でも・・・まだ、仕事が終わってませんし」
 マーシャの横で一行のやりとりを呆然を見つめていたフランツを振り返る。
「行っておいでマーシャ。店は僕一人で大丈夫だから」
「ありがとうございます、フランツさん」
 ディルクはにっこりとフランツに礼を言い、恐る恐る差し出されたマーシャの手を取って席から足を踏み出した。
「おい!ディルク!まだ話は終わっていない!」
「嫌なら、君はここに残ってください。どのみち一人はここへ残ってもらうつもりでしたから、君にお願いしますよ。
さ、グレーティアも行きましょうか」
 怒鳴り声を上げるライムントに見向きもしないで、ディルクはマーシャの手を引き、
エドヴィンとグレーティアを引き連れて店から出て行ってしまった。
「・・・・・何、考えてやがるんだ!あいつはっ」
 怒りが治まらないライムントは、目の前で戸惑う様子を見せるフランツをよそに、
どっかりと椅子に腰かけて目の前にある酒を一気に流し込むのだった。



■3■
 酒場”ミーアガルダ”を出たディルク・エドヴィン・グレーティア・マーシャは、
薄暗い郊外へと続く雑木林に面した細い道を歩いていた。
「ディルクさん・・・なぜ夜に行く必要があるのですか?先方にご迷惑なのでは?」
 普段のディルクを知らない者だからこそ言える台詞。
 マーシャが一番後ろを歩くディルクを振り返りながら問いかけた。
 その言葉にディルクは、にこりと笑って答える。
「我々はこの町に辿りつく前に、魔物に襲われた・・・。
そして、たまたま助けを求めた人家がエドヴィンと旧知だった。
・・・という簡単な設定ですよ」
 そう言ってディルクは足を止めた。
 それに従い、全員が足を止める。
「ディルクさん・・・僕は、その・・・嘘とか・・・そのような事は困るのですが」
 この言葉の通り、エドヴィンが嘘をつけない人間なのはディルクにもわかりきっていた。
 世間知らずの良い家柄の”おぼっちゃん”に、もっともらしい嘘をつけという方が無理であろう。
「わかっていますよ、エドヴィン。誰も君に嘘をつけとは言っていません。
今から、事実にしますから・・・ちょっと待っててくださいね」
 ゆっくりと笑顔を作ったディルクにエドヴィンは首をかしげた。
 首をかしげたエドヴィンの横に立っていたグレーティアが剣の柄に手をかけ、マーシャを自分の背後に誘導する。
「エドヴィン、杖を出せ」
「え?グレーティアさん?どういう事ですか?」
 グレーティアの行動を見てディルクはにっこりと笑った。
「さすがグレーティアですね。察しが良い事・・・助かりますよ。では・・」
 杖を持ち、懐の中から小袋を取り出したディルクはブツブツと唇を動かす。
 どうやら何かの魔法を使おうとしているらしい事は、エドヴィンにもわかった。
 しかし、なぜ突然に魔法を使う必要があるのか理解ができない。
「闇の使い達よ・・・我の声に応え・・・いでよ!」
 小袋の口をあけ、細かな粉末を周囲に散らすとディルクは杖を大きく夜空に振り上げて力を解放した。
「ディルクさん・・・まさか」
 やっとディルクの意図を理解したエドヴィンが顔をこわばらせる。
 魔物を自分達の下へ呼び寄せ、嘘を誠にするつもりなのだ。
「そう、そのまさかですよ。エドヴィン・・・逃げたら承知しませんよ?
君がいなければオスター氏から、お話を伺えなくなりますからね」

 魔法によって魔物を呼び寄せる方法は、異界から魔物を呼び出す”召還”と、
近くに生息する魔物を特定せずに呼び寄せる”おびき寄せ”の2つある。
 異界から呼び出す”召還”は魔力の消費が激しい上に、スペルも複雑で習得が困難だ。
 しかし良い点はいくつもある。
 異界から召還した魔物は、自分の力で呼び出せる種類が決まる。
 呼び出せる魔物も選べる上に、術者の命令に従事させる事ができた。
 だが、ディルクが使う”おびき寄せ”は、魔物が好む香りとちょっとした魔力があれば、誰にでも使える簡単な物である。
 簡単に使える反面、どんな魔物が何匹で現れるか、術者にも予想がつかない。
 リスクが大きい為に、”おびき寄せ”を好んで使う人間は滅多にいないのである。

「・・・この辺りは、僕らの手に負える魔物は・・・少ないはずですよ。
それなのに、あなたは!マーシャさんも居るのになんて無謀な!」
 一緒に旅をする事になってから、初めてエドヴィンはディルクに対して怒りを感じた。
 ライムントが以前自分に申し訳なさそうにディルクの事を話していた時があった。
 その時は、一体何の事かわからなかったが、今やっと理解できた。

 ディルクと会ったばかりの頃、小さな村の宿屋で魔物に襲われた時があった。
 偶然だと思っていた事が、ディルクによって引き起こされたのを理解する。
−な・・・なんて、人なんだ!自分の利益の為には、他人を危険にさらしても平気だなんて・・・僕は選ぶ人を間違えたのか?−
「ですから・・・マーシャさんを守りつつオスター氏の家へ逃げ込むんですよ。
我々だけなら、退治できるように見えてしまって不自然でしょう?」
 おびき寄せを使ってから、魔物が実際に現れるまでは少し時間がかかる。
 歩み寄ってくるディルクを睨みつけるとエドヴィンはマーシャの手を取った。
「ミーアガルダに戻りましょう、マーシャさん。万が一でも、あなたを危険に巻き込む事はできません」
「え・・・でも・・・」
 不穏な空気を感じとったマーシャは自分の手を引くエドヴィンと
相変わらず微笑みを浮かべるディルクを見つめ、最後にグレーティアに助けを求めるように視線を向けた。
 だが、グレーティアは周囲の気配に、すぐ反応できるように警戒していた。
「さあ、マーシャさん。参りましょう!」
「待て、エドヴィン」
「おや、早かったですね。今回の子たちは」
 グレーティアの警戒した声に、ディルクは笑みを浮かべて周囲の闇に目を凝らす。
 まだはっきりと姿は見えないが、闇がわずかに動いているのがわかる。
「・・・くっ、なんで・・・こんな事を」
「エドヴィン。オスター・フォン・レーベンの家はどっちにある?」
 顔をゆがめ、杖をマントの下から取り出したエドヴィンと背中合わせにグレーティアが鋭く声をあげた。
 彼女の表情を見ると、額にわずかに汗が浮かんでいる。
 声もいつも冷たく聞こえる物よりも若干高く、緊張しているのが見てとれた。
 そんなに強い魔物が迫ってきているとでも言うのだろうか?
「グレーティアさん・・・」
「早く!どっちだ!」
「あ・・・あちらの方向に見える明かりが・・・・オスターの家だと思います」
 その方向を見つめたグレーティアが小さく舌打ちをした。
「ちっ思ったよりも距離があるな・・・エドヴィン、彼女を連れて走れ!」
「・・・そ、そんなあなた1人を残して行けるはずが!」
 グレーティアの方を振り返ると、そこには杖を構えたディルクが真剣な顔で自分を見つめていた。
「ディルク・・・さん?」
「行きなさい、エドヴィン。マーシャさんを守ってください。後ろからの攻撃は心配しないで結構です。
私とグレーティアがいますからね?」
 ディルクは顔をグレーティアに向けて片目を瞑り、それに彼女も無言で頷く。
「思ったより数が多いようです。最初に私の魔法で一掃します!
危険ですから先に行ってください。我々も後からすぐに行きますから」
 言い争いをしている内にどんどん魔物の気配が強くなってくる。
 普段、周囲の気配にさほど敏感ではないエドヴィンにも、魔物の気配が感じられる程に近づいてきていた。
「わ、わかりました!先にマーシャさんをオスターの家まで送り届けて、すぐに僕も戻ってきますから!」
「ええ、待っていますよ。さ、早く行きなさい!」
「はいっ!さ、マーシャさん!」
「お2人とも、ご無事で!」

『了解』

 ディルクとグレーティアは揃って返事を返し、マーシャに安心させるように笑顔を向け、魔物が接近してくる方向に顔を戻す。
「来るぞ、ディルク!」
「さあ、今日は思い切り暴れてもいいですよ、グレーティア。私も遠慮はしません・・・うるさい人も居ませんし・・・ね?」
 その言葉にグレーティアは不敵な笑顔を浮かべ、鞘から剣を抜き放って腰をかがめた。

■4■
 道の真ん中に陣取り、ディルクとグレーティアは背中合わせで目の前に迫りくる約三十匹の魔物達に囲まれていた。
 魔法でおびき寄せた魔物の数と種類を見て、ディルクは心中頭を抱えた。
 自分が呼んだ結果とは言え、まさかこんなにも多くの魔物がこんな人間が住む集落付近に潜んでいたとは予想していなかったのだ。
 さらに魔物の種類を一通り見ると、背中に冷たいものが伝う。
 以前、討伐した事のあるゴブリンなど足元に及ばない強さの魔物達が数多く現れたのだ。
 実際に見たことのある魔物だけではなく、文献で得た知識を頭から引き出して名前や一般的な特徴がわかるだけの魔物。
 数が多いのは屈強な男も軽々と引き裂く事のできる力を持つオーク。
 豚のような顔をし、毛むくじゃらな全身を服や鎧で包み、手には様々な武器が握られている。
 それらは人間から略奪した物だと容易に想像できた。
 彼らは徒党を組んで行動する習性があり、その統率力は人間に勝るとも劣らないであろう。
 そして、ひときわ大きな体の魔物は一つ目が有名なサイクロプスであった。
 見たところ一匹しか居ないようだが、それを倒すだけでも数人の犠牲が出る事もあるらしい。
 あとは狼や大型犬を思わせるヘルハウンドに、ゴブリンも混じっていた。

「ディルク・・・・」
 同じく冷や汗を流しながらグレーティアが背後に声をかけた。
 まさかこれほどの魔物が集まるとは彼女も予想できなかったのである。
 ディルクなら知識で知っている魔物でも、彼女にとっては名前もわからないような未知の魔物もいるのだ。
 今、グレーティアは家を出てから初めて命の危機を感じていた。
「グレーティア・・・苦しまずに死ねる方法って知ってますか?」
 唐突の言葉にグレーティアが目くじらを立て、魔物から視線を外さずに声を荒げた。
「何を弱気になっているんだ!お前らしくないじゃないか!
わたしは1人でもやってやる」
 剣の柄を握りしめ、ジリジリと魔物達との距離を縮める彼女をディルクが背後から声だけで制す。
「待ちなさい・・・動くのはまだ早いです・・・あなたは魔物達を闘気で抑えこんでください」
 杖をマントの中にしまいこみ、両手で細かく印を結びながら唇を動かす。
 今の言葉と気配で彼が大きな魔法を使おうとしていることを理解する。
「わかった・・・だが、そう長くは保てない。
魔物達の殺気が高まってきている」
「数秒で結構です。集中する時間を下さい」
 グレーティアはそれ以上声をかけることを止めた。
 大きな魔法を使おうとしているディルクの集中を乱さないために。
 そして、自分も周囲の魔物向けて全身の闘気を放ち、彼らの動きを封じる事に全神経を集中させる。
(まだかディルク!)
「・・・・・・・・・・」
 その時、ディルクの正面にいた魔物が一斉に二人へ飛び掛ってきた。
「ディルク!」
 目の前に同じく魔物が迫ってきているグレーティアは思わず振り返り、叫び声をあげた。
 

『炎の神よ我の下へいでよ。そしてすべてを燃やし尽くせ!』


 振り返った瞬間グレーティアが見たものは、全身から火柱を立てながら魔物の群れへ飛び込んでいくディルクの後ろ姿。
 火柱を身に纏ったディルクを襲う魔物達は次々に燃やされて倒れていく。
 辺りには肉が焼けた匂いが充満していくと同時に、ディルクの歩みが徐々に弱々しくなり、
そして動けなくなるとその場に両膝をついた。
「ディルク死ぬな!今そっちへ・・・くっ!くそっこいつらっ」
 悲痛な叫びをあげながら、次々に襲いかかる魔物達を必死に剣で受け流し、
なんとかディルクの下へ走ろうとするが、焦った気持ちがいつものスピードも技もを半減させる。
そのことがますますグレーティアを追い詰めた。
 炎に包まれながらグレーティアを振り向き、いつもの微笑みを浮かべて唇を動かしたが、
その声は魔物達の断末魔や襲いかかる時の雄たけびでかき消されてしまう。
 ゆっくりとディルクの体が前のめりに倒れそうになった時。

「ディルクさん!」
「くっ・・・間に合うか?水の精霊よ・・・・恵みを我らに与え給え!」
 銀製の装飾がまったくない身長ほどもある杖を振りかざす男がディルクに向かって手を突き出す。
 すると、今にも自ら呼びだした炎に焼き尽くされようとしていたディルクの周囲に濃霧のような物が現れて彼を炎ごと包みこんだ。
 一瞬にして炎は消え、ディルクはその場に倒れこむように気を失った。
 そこをエドヴィンが寸での所で受け止めて、グレーティアは胸を撫で下ろした。
「・・・・彼の事は後ですね・・・まずはこの事態を収めます」
「頼む」
 気を失い、全身に火傷を負ったディルクを地面に横たえさせ、彼を守るように魔物達を睨みつける。

 この時点で残っている魔物はディルクの命をかけた魔法によって半数以下に減っていた。
 残るはグレーティアの前に立ちはだかるオーク3匹とサイクロプスにヘルハウンドが2匹のみ。
 エドヴィンが連れてきた見知らぬ男。
 この男が現れた事に動揺したグレーティアが、オークの力まかせの攻撃で剣を弾き飛ばされてしまった。
「しまった!」
 次の斬撃を後方に飛びのき、回避するグレーティアに次のオークが襲いかかってくる。
 体を空中で回転させて攻撃を回避し、着地と同時に太腿からナイフをすばやく抜取り、襲いかかるオークの目に向かって投げた。
『があああっ』
 見事にオークの右目を潰してみせたグレーティアは両肩を背後から、そっと抑えられ動きを止められる。
 ビクリと体を震わせ勢い良く振り返り、投げナイフを抜取って、背後に投げ・・・ようとした。
 だが、それは背後の人物がナイフを握っている彼女の腕を掴んだ事によって防がれてしまった。
 戦闘中に自分が背後を取られた事に驚き、目を見開く。
 グレーティアの腕を掴む男は彼女の腕を力強く引くと、自分の背後に回るように促した。
 手に持っていた杖を両手で持ち、少し回転させたような動きを見せる。
「あなたは下がっていなさい」
「何者だ?お前は一体!」
 その言葉には応えず、男は杖の先端を左手でぎゅっと握り、反対の手で握っていた方向に杖を引く。
「あっ」
 思わずグレーティアが声をあげた。
 杖だと思っていた長い杖が、細身の剣になったのだ。
「グレーティアさん・・・早く剣を!」
 気を失い、瀕死の重傷を負っているディルクに治癒系の魔法をかけているエドヴィンはその場から離れられない。
 さきほどオークに飛ばされた剣は、エドヴィンとディルクの近くの地面に突き刺さっていた。
 だが、剣を取りに行く必要が無くなった事を次の瞬間、グレーティアは目の当たりにする。
 杖を剣に変えた男は、まず最初の一突きで一番近くにいたオークの心臓を正確に貫き、
次に襲いかかってきたオークを剣の抜いた動きで首にある動脈を深く切り裂いた。
 心臓を貫かれたオークは声も発せず絶命し、その場に倒れた。
 動脈を切り裂かれたオークは血飛沫を上げて地面を転げているが、しばらくすれば絶命するであろう。
 新手の出現に面食らったもう一匹のオークは奇妙な声を上げながら、この場からヘルハウンドを伴って雑木林の中へ消えた。
 その場に残った魔物はサイクロプスのみ。
 逃げる気配も襲いかかってくる気配も読み取れないが油断できない相手を見据え、男は背後にいるグレーティアに向かって告げた。
「ここは退散した方が良いでしょう・・・まさかサイクロプスがいるとは思いませんでしたから、倒すには準備が足りません」
「こいつを倒せば逃げる必要もないのだろう!どけっわたしが殺る!」
 剣を手に戻ってきたグレーティアは両手で剣を握り、サイクロプスを睨み上げて今にも飛び掛ろうと腰を屈めた。
「よしなさい!敵意を見せたら死ぬのはあなたです」
「うるさい!わたしは目的を果たすまでは絶対に死なないんだっ」
 声を荒げ、足を踏み出したグレーティアに男はすばやく近づく。
 汗や血が滲む首筋にするどい手刀を叩きこみ、気を失った彼女を抱きかかえた。
 サイクロプスから視線を外さないように、少しずつ後ろへ下がり、エドヴィンとディルクのいる所まで後退して様子を伺う。
 どうやら敵意を見せ無ければ襲いかからないサイクロプスが来たようだ。
 その事がわかると男はほっとした表情を見せ、ゆっくりと踵を返す。
 雑木林に帰っていく巨人を見送り終わると、男とエドヴィンは顔を見合わせて頷きあった。
「さあ・・・帰りましょうか、エドヴィン」



■5■
 エドヴィンがディルクを背負い、その後からグレーティアを抱きかかえた男・・・
この家の主が扉を開けると心配そうな表情をしたマーシャが待っていた。
「ディルクさん!グレーティアさんも・・・まさか・・・」
「安心してくださいマーシャさん。ディルクさんは重傷ですが、命を落すほどでもありませんし、
グレーティアさんは気を失っているだけでほぼ無傷ですよ」
 その言葉を聞いて安堵したが、背に抱えられているディルクの姿を見ると”死”を連想してしまうほどに酷い姿だった。
 たたっと駆け寄ると心配そうにディルクに手を伸ばす。
「早くベッドへ!私、医療の心得が少しですがあります。ディルクさんの手当てをさせてください」
 優しげな彼女が厳しい表情でエドヴィンに指示を出すと、抱きかかえていたグレーティアを部屋の奥にあった長椅子へ横たえさせた。
 家の主が、自分の寝室にディルクを連れてくるように促す。
「確かに魔法での治癒はこれ以上は限界でしょう・・・エドヴィン、彼を寝室へ連れてきてください。
えっと・・・・マーシャさん、道具がここにはほとんどありませんよ?」
「かまいません。熱い湯に不純物の少ない強い酒と清潔な布を用意してください・・・・それと、ナイフを」
 寝室へ入ったマーシャはベッドの上から布を取り払い、
エドヴィンにディルクをゆっくりと衝撃を与えないように下ろすように指示し、脇に置いてあったランプに灯を灯す。
 改めてディルクの様子を観察し息を呑んだ。
 整った顔が火傷で所々ただれ、長い髪は毛先が焦げてチリチリになっていた。
 破れた衣服から見える肌は赤黒く焼け、表面の皮が剥けて赤い肉が見える所もある。
 思わず目をそむけたくなる傷ばかりだがマーシャは皮膚にへばりついている服を丁寧にはぎとっていく。
「マーシャさん、言われた物を用意しましたが我々に何か手伝える事はありますか?」
「ありがとうございますオスターさん。布を細かく切り、酒に浸してください。
これから、焼け爛れた表皮を切除しますので・・・患部にその布を当て、上から布を軽く巻いていってください」
「わかりました。エドヴィンは居間の長椅子で眠っているグレーティアさんの元で控えていなさい。
気がついたら事情を話し、少し休んでいただくように」
「わかった。ディルクさんの事・・・よろしく頼むオスター。それにマーシャさんも」
「ええ、簡単な処置しかできませんが、何もやらないよりは良いはずです」
 エドヴィンは名残り惜しい気がしたが、寝室から廊下へ出た。
 心からディルクの無事を祈る。
 先ほど自分で”ディルクは命を落さない”と発言したが、根拠もない言葉だった。
 自分が使った治癒魔法がどれほどの効果をディルクにもたらしたのかが目に見えなかった。
 効果の手ごたえもほとんど感じられなかったのだ。
 ただ背負ったディルクの体はひどく熱く、わずかだが苦しそうな息遣いが耳元で聞こえていた。
「ディルクさん・・・生きてください。僕はあなたに言いたい事があるんです。」
 居間の奥に置かれている長椅子の上では、眠るように気を失っているグレーティアが小さな声を発しながら身じろぐ。
 どうやら意識が戻り始めているようだ。
「グレーティアさん気がつきましたか?」
「・・・あ・・・・?ここはどこだ?サイクロプスはどうした?」
 身を起こし、ズキズキと痛む首筋を片手で抑えてエドヴィンに視線を上げた。
 さっきまで彼女はサイクロプスを前に剣を構え、飛びかかろうとしていた所だったのだ。
 気がついたら見知らぬ部屋の中で眠っていたのだ。
 目の前にエドヴィンがいなければグレーティアでも、軽いパニックを起こしたに違いない。
「ここはオスターの家です。しばらく、ゆっくり休んで・・あっ怪我もしていますね。
今、治癒魔法をかけますからじっとしててください」
 長椅子の前まで歩を進めて、屈みこんで両膝を床につきグレーティアの露になった太腿に手を伸ばす。
 どうやら短剣を抜取った時に自らの肌を傷つけてしまったようだ。
「これくらいなら放っておいても自然に治るから、いい」
 場所が場所だけに、グレーティアは遠慮して足を両腕で抱え込もうとするがエドヴィンによって制される。
「いけません。どんなに小さな傷も疎かにしては」
「離せ。自分でこれくらい手当てできる」
 エドヴィンに掴まれたままの足首を見つめ、居心地が悪そうに身を捩った。
「僕に魔法を・・・かけさせてください。お願いします」
 自分より高い位置にあるグレーティアの瞳を見つめ、真剣な顔で懇願する。
 小さな怪我で本来なら治癒魔法なんて必要としない程の傷なのは彼も承知していた。
 だが、先ほどディルクへ使った治癒魔法・・・もし効果が何もなかったとしたら。
 それを考えると怖くてたまらなかった。
 あの時は必死で、とにかく神に祈りを捧げ、全魔力を使い果たしても良いと思った。
 彼に息があったのは、オスターが助けたタイミングがギリギリ間に合ったからで、
自分の治癒魔法が効果を発揮したわけじゃないのかもしれない。
 神官として治癒魔法の習得は絶対であり、自分がこの一行に加えられた最大の理由。
 ここで役に立たなければ、この一行に残る意味は無いのではないだろうか?
 そんな気持ちがエドヴィンの中に渦巻いていた。
 何かを感じ取ったのか抵抗するのをやめ、長椅子に体を預けてグレーティアは全身の力を抜き瞳を閉じた。
「じゃあ、頼む」
「はい!ありがとうございます」
 嬉しそうな表情を浮かべるエドヴィンを薄く開けた目で見つめ、
再び瞳を閉じると左足の太腿にかざされた掌から暖かな空気を感じる。
「神よ我に力を・・・傷つきし者を癒したまえ」
 神に力を乞うと全身を包む暖かな力を感じ、目の前の小さな傷はすぐに塞がっていく。
 ほっと息をつくのを感じると自分の傍から気配が遠のいた事で瞳を開く。
 少し離れた位置で家の奥を見つめるエドヴィンが目に入る。
「エドヴィン」
「はい」
 振り向いた表情はどこか冴えない。
 そういえば、一緒に闘っていたディルクや名も知らない男とマーシャの姿が見当たらない事に気づいた。
「ディルクとマーシャは?それに、あの男は何者なんだ?」
「ディルクさんは先ほどの戦闘で重傷を負い、今はマーシャさんが治療しています。彼女は医療の心得があるそうなんですよ」
「ディルクは死なないんだな?」
 エドヴィンの言葉聞いて安心し、胸を撫でおろしたグレーティアだったが、
すぐに険しい表情を浮かべて長椅子から立ち上がるとエドヴィンに詰め寄ってきた。
「あの男は?わたしの邪魔をしたあいつはどうした?」
「彼がオスターです。オスター・フォン・レーベン・・・僕の師で信頼できます。
あなたを救う為にとった行動を責めないでやってください」
 オスターがグレーティアに手刀をあびせて意識を奪った事を頭をさげて謝る。
 そう謝られてはグレーティアは黙るしかなかった。
 確かに自分はオスターという男に危機を救われたのは確かだからだ。
「お前が謝ることではない。で、そのオスターはどこに?」
「今は奥の寝室でマーシャさんを手伝っています。彼は色々な知識を持っているので医療についても知っているそうです」
 静かに話しを聞き終えるとグレーティアはエドヴィンが見つめていた家の奥へ足を向けて歩き出す。
 長椅子の脇に置かれていた自分の道具袋を片手に寝室へ向かった。
 木製の板をはりあわせて作られた廊下を歩いていくと、一番奥にあった扉が開き、部屋からオスターとマーシャが出てきた。
 彼らは正面から歩いてくるグレーティアの姿をすぐに認めた。
「グレーティアさん、目が覚めたんですね。大きな怪我も無くてよかった」
 にこにこと笑顔を向けながら駆け寄ってきたマーシャに軽く手を上げ、
彼女の後ろからどす黒い液体の入った器を持った男・オスターが歩いてくる。
「治療は終わりました。あとは彼の意識が戻るのを待つばかりですよ。心配いりません」
「まだ意識が戻らないのか?ディルクは」
「ええ、全身に火傷が広がっていますから・・・目覚めるには、しばらく時間がかかると思います。
処置も最低限のものしかできませんでしたし」
 申し訳なさそうに答えるのはグレーティアの目の前にいたマーシャだった。
 医療については素人より知識がある程度の彼女は初めて他人の体に刃物を入れた恐怖を今さらながらに思い出し、
血だらけになった手と手に持ったナイフを見つめて小刻みに震えた。
「薬は飲ませたのか?患部に塗る薬草も無いのか?」
 マーシャの両腕を力任せに掴んで揺さぶる。
 荒っぽく体を揺すられ、マーシャの不安定だった気持ちが崩れてついに彼女の瞳からは涙が溢れ出した。
「ごめんなさい!でも・・・あのままじゃディルクさんが・・・死んでしまうと思ったんです。だから、だから・・・私必死で!」
「何故わたしを起こさなかった!」
「やめなさいグレーティアさん!」
 後ろから追ってきたエドヴィンがグレーティアの両腕を背後から掴み、2人引き離す。
「ごめんなさい・・・」
 力なく呟くマーシャに我に返ったグレーティアはバツの悪そうな表情をして顔を横に向けた。
「彼女は今ここで可能な限りの最善を尽くしてくれました。あとはディルクさんの生命力と意志の強さに任せましょう」
 器を床に置き、震えるマーシャの両肩をそっと支えると居間の向こうにある水場へ行くように促した。
「さ、早く手を洗っておいでなさい。ナイフはこちらへ」
「はい・・・ありがとうございます」
 手に持っていた赤黒く変色した血がこびりつくナイフをオスターに手渡し、
視線をグレーティアからそらしながら小走りに水場へ向かう。
「グレーティアさん・・・ディルクさんのところへ行きましょう。あなたの持っている薬が役に立つかもしれません」
 優しくエドヴィンが語りかける目の前でうな垂れたグレーティアが小さく頷いた。
「さ、行きましょう」
 オスターの脇を通りすぎ、ディルクが横になっている寝室に入ると全身に布を巻きつけられた痛々しい姿を目の当たりにし、
グレーティアの全身がガクガクと震えだし、今にも倒れそうになった。
 彼女の背後からエドヴィンが両肩をしっかりと支える。
 支えた後もグレーティアの震えは止まらない。
「本当に死なないのだ・・・ろうな?エドヴィン」
 震える足を一歩一歩踏み出してベッドに近づき、眠っているディルクを見つめる。
「マーシャさんとオスターを信じましょう・・・それに僕の事も信じてください。ディルクさんは大丈夫です」
「・・・薬を傷口に塗って、生命力を強くする薬を飲ませたい・・・低温の白湯を用意してくれ」
「わかりました。少し待っててください」
 今にも泣き出しそうな声を聞きながらエドヴィンの胸に小さな痛みが走る。
「・・・・?」
 左手で胸の辺りを掴みベッドの脇に立ち尽くすグレーティアの後ろ姿を見つめ、ベッドに横たわるディルクを見つめ踵を返した。
 扉から廊下へ足を踏み出した時に、もう一度振り返るとグレーティアがベッドの脇で両膝をつき、
ディルクの左手を握っているところ見るとまた胸が痛んだ。


 全身布だらけのディルクを見つめるグレーティアは床に両膝をつき、傷が少ない彼の左手をそっと両手で包み込んで軽く握った。
「ディルク・・・死なないでくれ」
 握った彼の手はとても熱い。
 熱いのは火傷を全身におったからで、今は自己修復の為に熱を発しているのである。
 薬草を扱う一族に生まれたグレーティアにも多少医療についての知識があるのは当然だった。
 仲間が命の危険にさらされている時に自分が暢気に眠っていた事が許せなかった。
 その怒りをマーシャに向けてしまった事もグレーティアには許せない。
 自分の弱さを改めて認識し、唇をかみ締める。
 眠っているディルクを見つめながらそっと語りかけた。
「もし、逆の立場ならお前もわたしを心配するだろうか?そして”利用価値があるうちは死ぬな”等と言うんだろうか」
 笑顔で憎まれ口を叩くディルクを脳裏に思い浮かべ、
グレーティアは一筋の涙を流しながら、いるかどうかもわからない神に祈った。


■6■
 グレーティアは目の前に横たわるディルクに火傷の薬を巻いた布の上からたっぷりと塗りつけ、
エドヴィンが用意した白湯に粉末状にした薬草を溶かし綿にたっぷりとしみこませた。
「ディルク、薬だ」
 そっと顎に指を添えて唇を少し開かせると綿にしみこませた薬湯を数滴垂らす。
「エドヴィン。治癒魔法を頼む」
「・・・僕の力では、まだ・・・」
「せめて顔の傷だけでも綺麗に治してやってくれ」
 顔中に巻かれた布を見つめ、後ろに立っていたエドヴィンを振り返る。
「傷を治すほどの力が僕にあるとは思えません」
ーバシッー
 弱気な言葉を吐いた瞬間に、立ち上がったグレーティアに右の頬をぶたれた。
 思わず叩かれた頬を右手で抑えて目を見開く。
「なんの為に旅について来たんだ!やりもしないで弱音を吐くなっ」
 治療を施した後に行う治癒魔法は、何もしないままの状態よりも高い効果を発揮する事をグレーティアは知っているのだ。
 たとえ、一人前の僧侶でなくともそれなりの効果は期待できる。
 それによってエドヴィンも自らの力を信じる事ができると考えた。
「ですが・・・先ほど、僕が施した魔法はなんの効果も無かったんです」
「いや、お前の魔法は確かに効果があった。わたしの傷を治してくれただろう?」
 険しかった表情を和らげ、優しい口調でさきほどエドヴィンから治癒魔法を受けた足をポンと叩く。
「そ・・・そうですね・・・やってみなければわかりませんよね」
「なら、頼む」
「わかりました・・・魔力が続く限りやってみます」
 ほんの少しの自信を顔に覗かせ、グレーティアの立つ反対側のベッド脇に膝まずき、天を仰いで両手を掲げる。
 すっと瞳を閉じて小声で神に祈りを捧げはじめたエドヴィンをその場に残し、グレーティアは寝室を出た。
 集中を乱すと効果はその分薄れてしまう事も、彼女は理解しているのである。

 寝室を出てさきほどまで自分とエドヴィンが過ごしていた居間へ戻った。
「グレーティアさん。エドヴィンさんは?」
 先ほどよりも落ち着いた様子のマーシャが長椅子に腰かけながら、廊下から歩いてきたグレーティアを見つけて声をかけた。
「治癒魔法をかけているから、しばらく集中させてやってくれ。治療を受けた後の治癒魔法は効果が高まるからな」
「ご存知でしたか」
 感心したように呟くのはオスターだ。
 奥から湯気が立ち上るカップを3つトレーに乗せて、グレーティアの元に近づくと「さあ、どうぞ」と差し出す。
 それを受け取るとグレーティアは近くにあった椅子を引き寄せて腰を下ろした。
「わたしの一族は薬師だ。治療に関する知識なら多少は知っている。薬草と治癒魔法の組み合わせは基本だからな」
「そうですね。エドヴィンさんが僧侶で本当によかったですわ」
 ほっとした表情をするマーシャを見つめ、グレーティアは大事な事を思い出した。
「どうしました?」
 表情の変化を感じ取ったオスターがマーシャの座る長椅子の反対側へ腰を下ろし、
二人分のカップをテーブルに並べてグレーティアを見つめる。
「ディルクの事をライムントに知らせなければ」
「ライムント?」
 初めて聞く名前にオスターが名前を繰り返した。
「わたし達の仲間だ。マーシャが働いている酒場で待機している」
「それなら、私がお伝えします。そろそろ戻らないといけないと思っていたので」
 長椅子から立ち上がったマーシャが壁にかけてあった外套を手に取り、言い放った。
「まだ危険ですよマーシャさん。せめて朝になるのを待ってからでも遅くはないでしょう」
 続いて立ち上がったオスターがマーシャの外套を手に取って壁に戻す。
「その通りだマーシャ。一休みして夜が明けてから戻った方が安全だ。そしてライムントにここへ来るように伝えて欲しい」
「わかりました。では、休む前にディルクさんの様子を見てきますね。布も取り替えなければ」
「頼む。この薬草を布に含ませて巻けば、少しは治りが早くなるはずだ」
 道具袋からディルクに塗った薬をマーシャに渡し、静かに寝室へ向かう彼女の後ろ姿を見送った。

 居間に残っているのはグレーティアとオスターの二人となり、しばらくの沈黙が続く。
 その沈黙を破ったのはグレーティアの方だった。
「オスターどの。頼みがある」
 神妙な顔をして両手でカップを握りしめるグレーティアを正面から見据え、オスターは穏やかな声で返事を返す。
「なんでしょう?」
「わたしに剣を・・・教えて欲しい」
 言い終えて下を俯く。
 今回の事でいかに自分が弱いと思い知らされた。
 少しでも強くなる為にプライドを捨て、オスターに指導を望んだ。
 魔物と立ち合った時に見せたオスターの動きや剣さばきは自分をはるかに凌いでいたのは明らかだった。
 自らの弱さを認識する事も上達の一歩なのだ。
「剣を?」
「そうだ・・・今のままでは、わたしは足手まといにしかならない」
「そんな事は・・・」
 魔物を前にしていた彼女を遠目で見た時、オスターは剣の実力と才能を評価していた。
 だが、まだ経験が浅いが為の隙や甘さが目立つと感じたのも確か。
「気休めはいい!」
 真剣な目を向けられ、オスターは迷っていた。
 レーベン家の掟として、外部の人間に一族の技を洩らしてはならないのだ。
 グレーティアの気迫を前に戸惑う。
ー彼女は自分の力を信じられなくなっているのか・・・だがー
「オスター!」
 椅子から立ち上がってテーブルに両手をついて必死に頼むグレーティアを見つめながら決断した。
ー私はいつまでも古い掟に縛られる事に疑問を感じていたはずだ。
エドヴィンを剣士ではなく僧侶として指導したのも、その為だったー
 強い光を宿した瞳でグレーティアを見返し、力強く頷く。
「わかりました。・・・ただし、レーベン家に伝わる秘技はお伝えできませんがよろしいですか?」
 その言葉に表情を輝かせたグレーティアの耳に寝室の方から大きな声が聞こえてきた。
「グレーティアさん!ディルクさんが・・・・ディルクさんが意識を取り戻しました!」
 慌てた様子で廊下を駆けてきたのはマーシャだ。
 瞳を潤ませてグレーティアに駆け寄る。
「今、行く!」
 廊下をバタバタと走ってディルクがいる寝室へ飛び込む。
 肩を揺らし、息を切らせ、暗い室内に目を凝らすとベッドの上で片手を上げる男を確認した。
「グレーティアですか?心配をかけて申し訳ありません」
 いつもより弱々しい声だが、確かにディルクの声。
 ベッドに近づくと涙がこぼれそうになるのを必死に耐える。
「し・・・心配などしていない。お前がそう簡単に死ぬはずが無いからな」
 言葉を発すると耐え切れなかった涙がつうっと頬を伝う。
「つれないですね。少しくらい心配してくれても良いでしょう?」
 ベッドの横に両膝をつき、突っ伏すグレーティアの髪を優しく撫でながら、
同じく反対側で突っ伏しているエドヴィンに視線を移して、囁くように言葉を発した。
「ありがとう・・・二人とも」
 言葉通り魔力が底をつくまで治癒魔法をかけ続けたエドヴィン。
 彼は上半身をベッドの上に投げ出した状態で気を失っていた。
 グレーティアの後からオスターとマーシャが寝室に入ってくると、ディルクは二人に向かって深く頭を下げたのだった。


To be continued…