歌姫物語 


『 前編 』

 とある国の城で、女の子が生まれエルバと名付けられた。
 エルバは国王と、国王の身の回りを世話する女達の1人・ブランカの間に産まれた望まれない娘。
 ブランカがエルバを生んだのは、15の時である。
 王は50を超えていたが、壮健な肉体が自慢だった。

 エルバが生まれてまもなく、人目につかないように寝室のベッドで横たわる王の元へブランカが赤ん坊のエルバを連れて、忍んで訪れた。
「陛下・・・陛下・・・どうか、お目覚めください」
 暗闇でベッドの脇に膝をつき、王に囁くように呼びかけるブランカの両腕にはスヤスヤと寝息を立てるエルバ。
「・・・何者だ?」
「お忘れですか陛下。私・・・ブランカでございます。娘のエルバと共に忍んで参りました。ひとめ陛下に娘を見ていただきたく・・・」
 その言葉を聞いた王は無言で手元にある鈴を引き寄せた。
「知らぬな・・・そのような名は」
「そん・・・な陛下!あなたのお子です!」
「わしは知らぬと言っておる!誰か!誰かいないか!曲者だ!」
 鈴を手に持ち振るい、甲高い鈴の音が暗闇に響き渡る。
「この女を捕らえ、牢にでも放り込んでおけ」
「ははっ」
 すぐに控えている兵達が寝室へ駆けつけ、ブランカは捕らえられた。
 ブランカが兵士の手によって動きを封じられた時、彼女の手から眠っていたエルバが王の手によって取り上げられる。
「−−−−−っ!!!」
 目を覚ましたエルバが信じられないような声で泣き叫んだ。
「・・・なっ!なんだ、この娘の声はあああ!」
 思わずエルバをベッドの上に放り、両手で耳を抑えながら苦しむ王と、周囲の兵士達。
 母親のブランカだけが、突然の出来事に目を見開き苦しむ王や兵士達を見回し、ベッドの上で泣き続けるエルバを見つめた。
「まさか・・・エルバ、あなたの声・・・が陛下を?」
 恐る恐るベッドと近づき我が子を抱き上げると、ピタリとエルバの泣き声が止み、王や兵士達は苦しみから解放される。
 腕の中で母親に向かい両腕を伸ばし、無垢な笑顔を向けるエルバを見つめて抱きしめた。
 ようやく落ち着きを取り戻した王は、エルバを抱きしめるブランカを兵によって捕らえさせ、娘であるエルバを腕に抱いた。
「エルバよ・・・お前はわしの娘だ・・・そう、わしのな。お前の力、わしのために使うが良い」
 口元に笑みを浮かべた王はきょとんと自分を見つめるエルバの額に口付けを落とし、
ベッドの脇で兵達に両脇から抑えられたブランカに視線を向けた。
「陛下・・・その子を・・・どうするおつもりです!返してくださいっ私の娘を!
まだ乳離れもしていないのです・・・どうか、ご慈悲を!」
「ブランカ・・・と言ったか。安心するが良い、この娘はわしが王女として大切に育ててやる。
お主は安心して眠りにつくが良い・・・くくっ・・・はぁはっはっは!」
 王が笑いながら腕を水平に振るうと、ブランカの後ろに控えていた兵が彼女の首を刎ねた。


 十数年後。
「お父様」
 王女が父である国王の傍らで不満そうな声を上げる。
「なんだ?」
 王女エルバは、今年で11歳。
 産みの母親が父親によって殺されたと知らされるはずもなく父である国王と、
国王の后の間に産まれたと信じさせられ育てられていた。
 だが、エルバは成長する毎に国王にも王妃にも似ず、母であるブランカと同じ瞳、同じ髪、同じ声に育っていく。
「どうして私の目や髪は、お父様やお母様と違うのでしょうか?」
 エルバは家臣達が自分を見る視線に含まれる暗い光や、母親である王妃から愛されていない事を知っていた。
「それは前にも話したであろう。お前のおばあ様である、王妃の母親と同じ色だと。父母ではなく、祖父母に似る場合もあると聞く」
「・・・・それは、そうだけど。では、お母様が私を見つめる瞳が冷たいのはなぜ?私が不思議な力を持っているからですか?」


 王は乳離れもしていないエルバを連れ戦場へ何度も赴き、物もわからぬ時は体に傷をつけ、泣き声を敵陣に向け敵の耳をつぶした。
 エルバが言葉を覚えた頃には、声を自在に操り、人間の行動や感情を制御する事が可能だと、
王女の世話役や教育係を仰せつかった者達が気づいたのだ。
「何?それはまことか?」
「はい・・・姫様のご機嫌が良い時はお声を聞きますと、心躍るような気持ちになり、体も軽くなります。
反対にご機嫌を損ねた時にお声を聞きますと、割れるような頭痛に襲われたり、手足が痺れて動けなくなった事もございました」
 王の前で報告をするのはエルバの教育係だった。
「ふむ・・・では、歌など歌わせたらどうなるかの?」
「それは、まだわかりませぬ」
「よし、では明日からはエルバに歌を教えよ。歌の種類で、あやつの声がどのような効果を生み出すかを調べるのだ」
 今、国は隣国を攻めるために内乱をようやく終結させ、戦に備えて準備を進めている。
 王は娘の声を今こそ自在に操り、戦を勝利に導こうを画策していたのだ。
 エルバに歌を教えはじめてから、5年後。
 隣国を滅ぼし、その領土を手中に収めていた。
 それ以来、王は娘を溺愛したが王妃や家臣は逆にエルバを蔑み、まるで化け物を見るような視線を彼女に向けるようになる。
 その娘を溺愛する王に対する反抗心も育ち、今にもこの国は内部から崩壊しようとしていた。


 年老いた王は上半身だけを起き上がらせ、ベッドの脇に両膝をついているエルバの頭に皺だらけになった大きな手を乗せた。
「そんな事はない。王妃もお前を愛しておる。何も心配しなくても良い」
「そうでしょうか・・・お母様は私に触れようとなさいません。私がお傍によると、
まるで化け物から逃げるようにどこかへ行ってしまわれます」
 涙を浮かべ、ベッドに顔を突っ伏した娘の頭を優しく撫でながら王は再び口を開いた。
「エルバよ、歌を歌っておくれ。いつもの歌を」
 すると、さきほどまで泣いていたエルバがベッドから顔を上げ、大きく息を吸い込むと、唇から美しい旋律を紡ぎ出す。
「〜〜♪〜♪♪〜〜〜〜♪〜〜」
「お前の歌は良いな・・・心が和む・・・・」
 娘の歌声にうっとりを瞳閉じた。
 王の寝室で、何かが風を切り裂いた。
ードスッ
「〜♪・・・・?お父様?」
 瞳を閉じ、懸命に父のために歌っていたエルバも異変に気づき、瞳を開いた。
 目の前に飛び込んできたのは胸を長い矢で貫かれ、唇から血を流す父親の姿だった。
「きゃあああああっ!!お父様!だ、誰か!誰か、おらぬか!」
 扉の外から妙にゆっくりとした歩調で複数の足跡が近づいてくるのがわかる。
 エルバの声で王に異変があった事はすぐにわかったはずなのに。
 違和感を抱いたエルバは、ベッドにだらりと落ちた父親の手を握り締めた。
 扉が勢い良く開かれ、部屋に入ってきたのはエルバが予想だにしなかった人物を先頭にした家臣達。
「お・・・お母様?」
 ベッドで息絶えている夫を見つめる王妃の目は恐ろしく冷ややかなものであった。
 そして、王妃を始め、家臣の姿形にもエルバ驚き、目を見開いた。
 全員の両耳には布が押し込められ、布が外れぬように頭と耳を布できつく縛り付けてある。
「お母様!これは、一体?」
 王妃に向かって必死に声を上げるが、その声はこの場にいる者には誰1人届かない。
 唇を必死で動かす王女を怯えるような表情で見つめていた家臣達だったが、
間もなく自分達の体や感情に異変が認められない事を確認すると、その表情は自信に満ちた。
 心なしか王妃も安心したような表情を見せ、ベッドの脇にへばりつくような格好で座るエルバに突き刺さるような視線を向ける。
「この娘を捕らえよ。そして、声が我に届かぬ地下深くに閉じ込めておけ!」
「どうして!なぜです、お母様!お父様を・・・なぜ!」
 耳を塞いでいる王妃にエルバが何を言っているのかは通じない。
 一方的に話すのみだ。
「お前はこれで王女でも、姫でもない。陛下が身分卑しき女との間に作った娘。
一度は、陛下に母親と共に殺されかけた身なれど、その力のみを陛下に気に入られ、お前だけが生き延びた。化け物め」
 冷ややかな視線に怯えるようにエルバは冷たくなりつつある父親のベッドに登り、動かぬ王にすがりついた。
「私はお父様とお母様の娘です!お父様が嘘をおっしゃるはずがないもの!
なぜ、そんな事をおっしゃるのですか?そんなに私がお嫌いですか!どうしてお父様を殺したの!」
 泣き喚きながら、怒りとも悲しみともわからない感情で王妃を見つめる。
 完全に遮断できなかったエルバの声が王妃や家臣達の鼓膜を震わせ、頭痛や眩暈が彼女達を襲った。
 自らの変化に気づいた王妃が後ろに控えた家臣の影に身を隠し、
頭を抱えながら後方に控えていた兵士達に腕を振り上げて命を下した。
「穢わらしい目で私を見るでない!今からこの国は私の物。お前はただの化け物だ。
殺せば何か災いがあるやもしれぬ。死ぬまで地下で生きるが良い。さあ、早う連れて行け!」
「お母様!」


 こうしてエルバは城の地下深くに幽閉され、窓も無く、光も一切差し込む事がない、石を彫って作られた牢獄に囚われる身となった。



『 後編 』

 エルバが元・王妃、現・女王によってその身を囚われ、地下牢に幽閉されてから数年経過した時にそれは起こった。
 地下牢でエルバが過ごす城が敵国に襲われたのである。
 女王は、野心は強かったが政治力には長けておらず、
エルバの父親でもある元・国王が死去した話が数年の間に他国に知れ渡った事が災いした。

 地上の城や、城下町が敵国からの攻撃で美しかった頃の面影もなくした頃、
エルバは何も知らずに地下牢で飢えに苦しみ、命を落とそうとしていた。
「お父様・・・これで会いに行けますね」
 冷たいベッドに横たわったままエルバが瞳を閉じ、永遠に続く眠りに就こうとした時、地下牢へ下りてくる足音が彼女の耳に届いた。
 数日前にきたきりの食事係である兵士のものではなく、聞きなれない足音にエルバは、
力を振り絞って上半身をベッドの上に起こし、堅く重い扉の方を見つめた。
 どんどん近づいてくる足音が扉の前で止まると、ガチャガチャと鍵を開ける音が牢の中に響き渡る。
「・・・誰なの?」
 鍵が開けられ、扉がゆっくりと開けらていく中、エルバは怯えるような視線で入ってくる人物を見定めようする。
「君は、エルバ姫だな?」
 今だ姿が目に入らない人物が、扉の外から声をかけてきた。
 その声は、若い男で気品を感じさせる事から、身分の高い人間だという事がエルバにもわかる。
「いかにも私はエルバです。ですが、王女でも姫でもありません・・・ただの化け物」
 最後の一言は悲しみに満ちた声色で、男が牢の中へ足を踏み入れたと同時に消え入るように口に出し、瞳を床に落とした。
 言葉にした事によって、自分が”化け物”だと・・・醜い者だと心が悲しみに染まった。
 牢の中へ入ってきた男の足が見えた。
「君が”化け物”だって言うのか?僕はこんなに美しい化け物は見た事がない」
 男がベッドにゆっくりと近づきながら、そう告げるとエルバの顎へ手をかけられ、
床に落ちていた彼女の視線が徐々に上がり、男の顔が見える位置で止まった。
「・・・あなたは誰ですか?」
「僕は、隣国・カスティユ国の第二王子で、ファルナンだ・・君の婚約者さ」
 ファルナン王子の言葉にエルバは目を見開いて驚愕する。
 自分に婚約者がいた話を知らなかったのだ。
 父親の元・国王はカスティユ王と若い頃に結んだ同盟関係にあったが、女王が即位した時にそれは自然消滅したという。
 同盟関係にあった際、カスティユ王とエルバの父親である元・国王は、
互いに王子か王女が生まれた場合は、その2人を王子が誕生した国へ嫁がせようと約束していたとファルナン王子は簡単に説明した。
「そんな、急に言われても私は・・・どうすれば良いのですか?
お母様・・・いえ、女王の許可がなければここから出る事もできないのです」
 ファルナン王子の手を軽く頭を振ることで振り払い、エルバは再び視線を床に落とした。
 無言でファルナンの言葉を待っていると、ふいに体が浮いた。
「・・・何をするのです!放してください!」
 ベッドに座るエルバの体を軽々と抱えて両腕でしっかりと抱き上げたファルナン王子は、綺麗に微笑んで口を開く。
「君は、もうこんな場所に閉じ込められる必要はなくなったんだ。この国の女王は・・・どこかへ行ってしまったからね」
 その言葉でエルバは理解した。
 女王は、おそらくファルナン達の国が城へ攻め込んだ時に討ち取られたのであろうと。
 そうでなければ、自分がここに閉じ込められている事をファルナンが知るはずもなく、朽ち果てる運命にあったのだ。
「そうなのです・・・か・・・」
「エルバ?どうした?」
 ずっと自分を地下牢に閉じ込めていた母親と信じていた女王の悲劇、滅びた自国、そしてこれから自分はどうなるのだろうか?
 色々な不安が疲れ、飢えた心身を一気に襲う。
 ファルナンに抱き上げられたままエルバを気を失っていた。


 エルバが気がつくと、そこは温かく、やわらかなベッドの上であった。
 思うように自分の体が動かない為、視線だけで周囲の様子を伺う。
 ベッドのすぐ横には、地下牢で初めて出会った婚約者と名乗る敵国の王子・ファルナンが椅子に腰かけたまま眠っていた。
「・・・ファルナン王子?」
「ん・・ああ、起きたのか。お腹空いているだろう?今、食事を作らせてくるから、横になっていなさい」
 エルバが口を挟む隙もなく一方的に言葉を紡ぎ出し、ファルナンは椅子から立ち上がって部屋の外へ出ていってしまった。
 部屋の外からは、ファルナンの声が聞こえてくる。
 言っていたように食事を用意させるらしい。
 部下に指示を与えた後にファルナンが再びエルバの横に戻って、椅子に腰をかけた。
「気を失った君は、あれから2日間眠っていたんだ。ここは僕に国だ」
「・・・私の国は、滅んだのですね?」
 かすれる声でファルナンを見つめる。
「そうだ。君の国は滅んだ・・・君は、唯一の王族として生き残った事になる」
「では、お母様・・・女王は亡くなったのですか?」
「僕が女王の間にたどり着いた時には、もう部下の兵士達によって・・・」
 エルバの視線から瞳を逸らさずに、真実を述べるファルナン。
 瞳に悲しみを浮かべるエルバ。
 ファルナンは、やせ細っていても美しいエルバを見つめていた。
「私は、これからどうなるのですか?」
 見つめる瞳をまぶしく感じてエルバは、視線を逸らし恐る恐る訊ねる。
 滅びた国の王族が辿る末路は決まっている。
 国を治める女王が亡くなっている今、自国の国民への褒美として公開処刑をそれに変わる王族で・・・と。
「私はいつまで生きていられるのです?」
 自分は処刑される身。
 余計な希望を持たせて欲しくない。
「君は僕の花嫁になるんだ、いいね?」
 ベッドの上に力なく横たわっていたままのエルバの手を握り、強く念を押すように言い放った。
「ですが、私は亡国の・・・王族というよりも、化け物です」
「化け物なんかじゃない。君は、この僕の・・・カスティユ国・第二王子の妃となるんだ」
 握られた手を引き戻そうとエルバを力を込めると、ファルナンは力を緩めない。
「あなたが、そうおっしゃってくださっても・・・あなたのお父様・・・カスティユ国の王はお許しにならないでしょう」
「そんな事はない。父も君と僕の婚姻を望んでくれている」
「・・・なぜです?私はお父様と血が繋がっているとはいえ・・・生まれは身分の低い母だったと教えられました」
 どこの国の王族でも、王族は王族同士・・・もしくは、王族と近い身分のある貴族と結婚し、互いの血を濃くする事を望むもの。
 王族の妃として、身分の低い人間から誕生した人間を望むとは不自然な事だとエルバに思えた。

 次の言葉をファルナンが発しようとした時、扉を叩く音が2人に届く。
 ファルナンの力が緩んだ瞬間にエルバを自分の手を胸に引き戻す事に成功した。
「ファルナン王子、お食事をお持ち致しました」
「ああ、入れ」
「失礼します」
 清潔そうな服装をした部下が食事の載せられたトレーを王子に手渡し、部屋から立ち去る。
「話の続きは食事をしながら・・・さあ、食べなさい。
温かくて柔らかい物ばかりだが、数日ぶりの食事だろう?ゆっくり少しずつ食べて」
「はい、ありがとうございます」
 ベッドから上半身を起こし、膝の上にトレーを置きながら食事をファルナンに言われた通り、ゆっくりと少量ずつ口に運ぶエルバ。
「さっきの話しを続けよう・・君は、聞いているだけでいい」
「はい」

 ファルナンは語る。
 エルバの国を襲ったのは、すべて彼女を自国へ連れ帰るためだった。
 幼い頃からエルバは父親である国王に連れて戦場で歌っていた。
 その歌声は敵意をくじき、味方の士気を高めたと聞く。
 声に秘められた魔力を用いた戦として、同盟を結んでいたカスティユ国にも伝わっていたのだ。
 エルバの父親には、王子が2人いたが王女はエルバ1人。
 一方、ファルナンはカスティユ国王の第二王子である。
 父親同士の約束はどちらかの王子とエルバが婚姻するという事になっているはず。
 だが、エルバの父親は殺され、同盟の際に結ばれた約束を
 自分の子供は2人の王子だけで、王女などいない。
 ファルナンの姉を自分の生んだ王子へ婚姻させるように迫ってきた。
 その時点で同盟は無効となり、カスティユ国はエルバの国へ攻め込んだという。
 その戦には、第二王子が初陣として同行していた。
 地下牢に、自分か兄の妃となる王女が囚われていると聞き、自ら出向いたファルナンは、一目でエルバを気に入ってしまったのだ。
 気を失ったエルバを抱きかかえたまま、その足で父であるカスティユ王に、
自ら婚姻を懇願し、それが初陣の祝いとして受け入れられた。
 その後、国へ帰り兄王子へエルバの件を報告するが、それは兄王子にとっては面白くない話しになった。
 眠るエルバを見た兄王子も婚姻を望んだが、それは国王によって却下されて、
兄王子はエルバを手に入れる為に親しい臣下達と何かを企てていると噂も聞いている。

「だが、君との婚姻を許されているのは僕だ・・・兄上ではない。
君さえ、僕との事を受入れてくれたら、すぐにでも結婚の儀式を行いたい」
 食事を終えたエルバはトレーを両手で抱えたまま無言でファルナンの話を聞いていた。
「いくら兄上でも、結婚した後に君を奪うような真似は次期国王としては、できないはずだかな」
 エルバの手からトレーを受け取り、そばにあるテーブルに置き、ファルナンは椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。
「お願いだ。僕との結婚を承諾して欲しい。兄上に、君を奪われたくないんだ」
 頭を下げたまま静止しているファルナンを見つめ、エルバは地下牢に入れられた時から覚えている限りでは、初めて微笑んだ。
「・・・私からもお願いがあります。その願いをあなたが叶えてくださるのなら、私はあなたと一緒に生きていきます」
 その言葉にファルナンは頭をあげ、嬉しそうな表情を浮かべ、エルバからの願いに耳を澄ました。
 まるで歌うかのようなリズミカルな言葉が紡ぎだされた。





 名も無き村で、仲睦まじく暮らす3人の家族がいた。
「お母さん、唄って!」
 小さなベッドに横たわる娘が母に子守唄をせがんでいた。
「はいはい」
 優しい顔で笑いかけると、母親は娘のベッドの脇に腰を下ろして静かに歌う。
 不思議なメロディ、不思議な声を聞きながら娘は安らかな空気に包まれながら眠りに落ちる。
 その様子を椅子に腰かけながら父親が見つめていた。





 数年前、カスティユ国・第二王子ファルナンは、ある日突然1人の女を連れて城から姿を消したと記録に残っている。
 ファルナンにエルバが願った事。

ー私の歌は、愛する人に捧げる気持ちです・・・私の気持ちを殺し合いをする為に使わないでください。
                              それを約束していただけるのなら、私はあなたを愛しますー



Fin