主夷リレー小説 2005年1月編
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 第一話 うおつき



 ”葉佩九龍”が、帰ってきた。

 どんな経路を辿ったんだかは知らないが、もうほとんどの生徒が帰省してしまったこの学園に、
そのニュースはまたたく間に広まっていた。
 つい数日前姿を消し、ここを別離の哀しみで満たしていたはずの犯人が出戻ってきたとあって、
俺の隣部屋――、つまりアイツの自室だった場所は、いまや大人数のごった返す大変な空間と化している。
集まった女子のほとんどは涙を浮かべ、ごく一部の野郎は乱闘騒ぎに持ち込もうと大暴れし、
その中でも少し遅れて駆けつけた俺は、人ごみで中の様子もうかがえない廊下に立ちすくんでいるほかなかった。

「≪転校生≫ごときで……、か」

 自然と、つい最近も口にしたフレーズがよみがえる。それを笑って聞いていた八千穂の声も今は遠く、
大方、誰よりも早くアイツに突っかかっていったんだろうことが容易に想像できた。場所こそ校門じゃあないが、
ほとんど俺の言った通りになったというわけだ。
 ――おめでたいヤツら。
 まァ、この光景を見ているだけで頬がゆるむ俺も、その一員に含まれていることは間違いない。
つい懐かしい気持ちで、俺はいつものアロマに火を点けた。
 ……が、どうやらそいつは大きな間違いだったらしい。

「…ン!皆守クン!九チャンが!」

 このラベンダーの香りが、十分に「俺がいる」という目印になっていたことを忘れていた。
 しばらくもしないうちに、泣き笑いなままの八千穂が人ごみの中をかきわけて現れる。
何かと思えば、少し離れたところにいた俺を、そのまま部屋の中に引き込もうと必死に腕を伸ばしてきた。
 おいおい、こっちは点火したばかりのパイプ持ちだぞ?

「ねぇ、早く!」
「……チィッ」

 焦った俺が火を消すのと、八千穂が俺の手首をつかんだのはほぼ同時、
そのまま人と人の間をもみくちゃにされながら何とか通り抜けると、その先には思っていた通り、
狭いステージ状の空間が出来上がっていた。
 恐らく一番に連絡が行ったんだろう阿門に双樹、神鳳。
 部屋も近い取手と夕薙。それに八千穂や七瀬やら、俺にも馴染みのあるメンバーが周りを取り囲んでいる。
 その中心にいる九龍はガタイのいい体でにこにこ笑っていて、相変わらずのマイペースっぷりをにじませていた。
 隣には、また相変わらずギャーギャーうるさい後輩がいるような気がするが、
九龍も九龍で軽くいなしているようなので、
俺も特に気にしないことにする。

「……よォ、やけに早いご帰還じゃないか」
「あ、コウタロ、久しぶり!」

 さっきまで集まった皆で思い思いに話していたんだろうが、派手な行動をしてくれた八千穂のおかげで、
 今はどこか、俺と九龍の立会いを見守られる形になってしまっていた。純粋に、居心地が悪い。
 続く言葉にも詰まる有様だが、さすがにこれだけの人数がいる中でアロマを吸う気にもなれず、
俺は静かに握ったままのパイプを胸ポケットに入れた。
 まァ、ありがたいことに、そんな微妙な雰囲気を見事にぶっ壊してくれるのが、
その原因まで作った俺らのクラスメイトなわけだが。

「皆守クン!九チャンね、あの遺跡の……、追加調査?のためにお仕事で戻ってきてて、
終わるまでここに残るんだって!それも春までかかりそうとか!」

 すっかり弾んだ八千穂の言葉を受けて、部屋からあぶれ気味の人垣から歓声が上がる。
 全くもって、コイツはたいした人気者だと実感した。
 いつもなら、めったに感情を見せない神鳳ですらそれを引き継ぎ、にこやかに補足の説明をしてくれる。

「こちらの手続きの上でも、そういうことになりますね。
龍さんも、これからゆっくり学園生活を楽しまれるおつもりだそうですよ」


 ……と、まァ、ここまでは良かったんだ。
 少しあっけなく終わってしまった別れ、それから再会。
 冬休みを明けても続く「俺たち」の日々が保障されて、あとはマミーズで祝いの会でも開けばいい。

 が、それに続く、九龍の言葉が悪かった。

「うん、ホントに間に合ってよかった。ニホンの『オショウガツ』、楽しみにしていたから」

 目の前に浮かぶ、満面の笑み。

 ……いや待て。何故そこで俺の肩に手を置くんだ。
 何故、もう片方の手が、阿門の肩に乗っているんだ。

 その他大勢の笑顔とは裏腹に、俺を含む、生徒会役員全員の顔がこわばった。
 確か、今日の日付は年末も年末、29日。
 あのクリスマスイブからこのかた、遺跡の処理、『眠って』いた生徒の面倒、
それから胡散臭い組織の相手をし続けて、この俺ですら毎日借り出されている有様だってのに。
 ほとんど「お遊び」に近い正月行事の準備?済ませているわけないだろうが。

「あッ、そういえば、この時期毎年≪生徒会≫主催のイベントがあってたような……。
さっすが九チャン、楽しみだね!」

 ああ、それは確かにそうなんだが、お前は少し黙っていてくれないか、八千穂。
 俺は――いや、恐らく残りの役員も皆――少しだけすがるような気持ちで、隣にいる阿門を振り返る。
 今、俺たちの冬休み事情を一手に引き受けているのがこの男だ。
 本来なら、ここで一つ言ってやるのが≪副会長≫の務めなんだろうが、
いかんせん、俺は職場放棄をしすぎてしまっていたらしく。

「ああ。お前も楽しめるものを、こちらもふるって準備しよう」

 何か一言告げる間もなく、俺たちの、貴重な休みは終わりを告げた。



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