主夷リレー小説 2005年1月編
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 第ニ話 水天宮拓仄



 葉佩九龍が天香学園に戻ってきた翌日、今は2004年12月30日。
 冬休みの只中だったが、生徒会室には主な役員が揃っている。
 長い間生徒会室の片隅に片付けられていたホワイトボードを引っ張り出して応接セットと会長席の間に置いた。
 副会長補佐という名の雑用係により、綺麗に拭かれたホワイトボードには黒いマーカーペンで”2005年正月行事”と書かれていた。

 前日に突如出戻った葉佩九龍の為に生徒会主催で”日本のお正月を楽しもう”という行事を急遽行う事になったのだ。
 この決定は、現生徒会長であり天香学園を全面的に支援している阿門帝斗の一言で決まり、誰にも逆らう事はできない。
 もっとも、毎年冬休みを学園内で過ごす生徒の為に生徒会主催で何らかの行事は恒例として行われているのだが、
今年は色々な事件が学園内で起き、生徒会も行事の計画も準備もできなかった所へ来て葉佩九龍の帰還であった。

「議題は”正月行事”なんで、それぞれ提案お願いします」

 ホワイトボードの横にしかめっ面で立ち、マーカーペンを指先で器用に回しながらソファに座っている役員達を見渡す。
 司会兼書記は唯一2年生役員である夷澤凍也である。
 誰に命令されたわけではないが、このメンバーでこの役ができるのは彼だけであり、それは暗黙の了解だった。
 夷澤もそれがわかっているので、しかめっ面をしつつも司会を務める。

「羽つき大会なんてどう?」

 真っ先に手を挙げて発言をしたのは、高校生とは思えない色香を漂わす生徒会書記の双樹咲重だ。
 その意見を聞いてちょっとした反論をする長髪で糸目の男子生徒。

「残っている生徒分の羽子板や羽根を用意できる時間も予算もありませんよ双樹さん」
「確かにそうねぇ。お正月まで2日しか無いし・・・今年の予算はもうマイナスだったわね」

 却下はされたが、一応出された意見としてホワイトボードに「羽根つき」と雑な字で書き留め視線を役員達に向けて次の意見を待つ。
 すると、双樹の意見を却下した神鳳充が夷澤の方に視線を向けて口を開いた。

「全員で初詣に行くというのはどうですか?お金もかかりませんし、生徒会公認での外出なら問題ありませんから」

 神鳳の意見を書きながら夷澤は反対の声を上げる。

「オレは反対っすね。残ってる生徒は百人以上いるんすよ。そんな大勢で正月の神社なんて混乱するだけっすよ」
「それはそうですが・・・準備期間も予算もいらない行事なんて、他にありますか?」
「書初めとかで良いんじゃないすか?選択授業用に道具も揃ってますし。紙なんて明日で買って来れますよ」

 小学生の頃に全校で体育館に習字セットを持ちこんでやらされた事を思い出したのだ。
 自分の案だったが、正直面倒くさいので”採用されないような案”を出して、さっさと自分の分を終わらせただけに過ぎない。
 先ほどの神鳳からの案「初詣」と自分の案である「書初め」をボードに書き出し、意見を出していない役員に視線を向ける。
 両腕を胸の前で組んで、話合いを無言で聞いている姿はいつもと変わらない。
 多少、気持ちの面で変化があろうとも彼の表情が変わる事は滅多にないのだ。

「阿門さんは何がいいと思いますか?」
「・・・葉佩は何が良いと思う?」

 そう言って自分の隣りに座っている大男に視線を向けた。
 彼が、この場所にいた事は部屋に入った瞬間にわかっていたが、あえて無視していたのに。
 最後の最後の決定権を生徒会役員でもない人間に託すのかと夷澤の目が吊りあがった。

「どれも楽しそうだけど・・・ボク、書初めやってみたいな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ阿門さん!なんで、この人がいるんすか?生徒会役員でもない人間に決定権は無いですよね!」

 自分が提案した案に興味を示した事に心の中で舌打ちをし、なんとか違う案を阿門から引き出そうと捲くし立てた。
 だが、それがこの人達に通用しない事はすぐに悟る事になる。

「何言ってんのよ、自分が出した案じゃない。九龍がやりたいって言ってんだから良いじゃないの」
「そうですよ夷澤。来年のお正月会は龍さんの為に開催するようなものですから」
「毎年恒例の行事は残っている生徒達のもので、個人の為に開催するなんておかしいじゃないですか!」
「ボク”書初め”やった事ないからすごくやりたいんだけどな」

 にっこりと微笑みながらホワイトボードに書いた「書初め」の文字を指差して、同意を求めるように阿門を振り返った。

「テイトも”書初め”でいいよね?」
「そうだな。書初めでー」
「そ、そうだっまだ皆守先輩の意見聞いて無いじゃないっすか!」

 阿門が葉佩の言葉に頷きかけた瞬間に言葉を遮るように大声を出し、部屋の中を見渡すが探していた人物はいない。
 そういえば彼の存在を示すラベンダーの香りが無い事に今更ながら気付いて肩を落とした。

「コウタロの代わりにボクが会議に来たんだよ。コウタロは大事な用があるから来れないんだって」

 明るい表情でそう告げる葉佩を見つめて、がっくりとうなだれた夷澤は誰にも聞こえないように毒づくのだった。

「どうせ寝てるに決まってやがる!あの三年寝タロウめ」
 夷澤はもう必要の無くなった黒いマーカーペンを近くにある用具箱に投げ込んだ。

「予算はすぐに計算しますね」
 ポンと手を叩き、ソファから立ち上がると、赤いマーカーペンで「書初め」の文字を綺麗な丸で囲んだのは会計係の神鳳。

「来年のお正月会は”書初め大会”ね。会場に飾る華は私に任せてちょうだい」
 どんな華を会場にする体育館へ飾ろうかと考える双樹は楽しそうに微笑み、正面に座る葉佩に片目を瞑ってみせた。

「それでは各自準備を急いでくれ。解散する」
 会議の終了を宣言し、ソファから立ち上がるとスタスタと扉へ向かう阿門。

「はーい!」
 陽気に手を上げながら返事をすると、2日後に開催される”書初め大会”に思いを馳せる葉佩九龍であった。



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