主夷リレー小説 2005年1月編
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 第三話 ヒビ



 12月31日の夜。
 (ああ、たく!)
 決定案となった“書初め大会”という意見を出した夷澤は、中心となって行事を取りまとめることを任されていた。
 参加生徒の人数の把握、道具の準備、場所の確保に段取り、そのほか。
 役員や執行委員にてきぱきと指示しつつ、自分も役割をこなしていく中で彼の心は若干ささくれ立っていた。

「トウヤ!」
「・・・センパイ」

 そんな夷澤の様子と対照的に、唐突に現れた《転校生》は朗らかな笑顔で手を振っている。

「本当にボク手伝うことない?」
「ないですって。アンタ、ゲスト側なんですから明日まで大人しく待ってればいいんです」
「でも」
「全く、何で書初め大会なんて選んだんですか?おかげで妙に仕事押し付けられて大変なんですけど」

 不機嫌さを露にして夷澤は葉佩から顔をそらした。
 本当はこんなことを言いたいわけではないが、あいにく素直じゃない性格と
今の感情が相まってらしくもない文句をぶつけてしまう。
 自己嫌悪しかけたとき、葉佩の笑い声が耳に届いた。

「きっとテイトたちはトウヤに期待してるんだよ」
「は?」
「三年生はもうそろそろ卒業だから。次に《生徒会》を、ここをまとめるのはトウヤなんだよね?」

 そんな殊勝な心があの役員たちにあるかどうかはわからないし、都合のいい解釈だ。
 このくらいの小さなイベントごとでそんな大層なとか、仕事を押し付けるためのもっともらしい理由なだけだとか、
動揺しかけた自分に夷澤は心の中で慌てて首を振る。
 葉佩は知ってか知らずかさらに言葉を続ける。

「会議のときも言ったけど、“書初め”を選んだのはやったことなかったから」

そうして彼は子供のように笑った。

「だってトウヤがやりたいものなんだよ。それをボクもやりたいと思うのは、おかしいかな?」
「っ・・・!」

 夷澤はやりたいなどと言った覚えはなく、本当にやりたかったわけではない。
 正直面倒で、適当に出した投げやりな意見だったのに。
 それでも葉佩は夷澤に歩み寄りたくて真っ直ぐ受け止めてしまうのだ。
 何度も手伝おうとするのも、夷澤の助けになりたいのとそばにいたい心からだろう。

 わかっては、いるのだ。
 本当は。

「九龍センパ・・・」
「あ、おにいちゃーん!」
「探したわ、九龍」

 だけれども。

「皆、どうした?」
「九チャン、遺跡の調査するんでしょ?」
「手伝いたくて・・・今から行きませんか?」
「いいの?アリガト!」

 ぞろぞろと嬉しそうに連れ立っていく集団を見送るのはもう何度目だろうと夷澤は思う。

 自分は忙しくてなかなか葉佩と話せるような時間は取れない。
 ゲスト側である彼には当日充分に楽しんでもらいたいために手伝わせようとも思ってはいない。
 なんだかんだで遺跡の調査もしている葉佩にだってそれほど時間は余っていない。
 少し時間が出来たかと思えばこうして彼のバディが現れる。
 よって、葉佩が帰還してから三日。彼らはまともな会話をほとんどしてはいなかった。

 言うまでもなく夷澤の不機嫌はそこからきている。
 だが認めたくない彼は苛立ちを忙しさのせいにして、荒々しくその場を立ち去った。

 そうして当日を迎えることとなった。

 2005年1月1日。
 学園で過ごす生徒が体育館に集合した。
 元々イベントごとを好む天香の生徒たちだが、
さらに人気の高い《生徒会》から参加の呼びかけがあれば大半の人間がやってくる。
 そんな生徒たちから少し離れ、各々の仕事をこなした《生徒会》がステージ脇に集まる。

「あーたりぃ・・・なんで俺が生徒の誘導なんてしなきゃいけなかったんだ・・・」
「たまにはこういう仕事もいいでしょう。夷澤、生徒の誘導が完了しましたよ」
「こっちも問題ないわ」
「じゃあ時間になりますし、そろそろ始めましょうか。
最初のプログラムは《生徒会》の挨拶ですから、阿門さん、お願いしますよ」
「夷澤、それについては話がある」
「はい?」

 《生徒会》の先輩四人が夷澤を見る。
 状況のわからない夷澤は首をかしげながら阿門の次の言葉を待った。

「挨拶はお前がやれ」
「・・・え?!」

 何も聞いていないのは夷澤のみのようで、阿門の言葉に困惑する者は他にいない。

「新しい年、新しい学園の始まりだ。きっとお前が立つことが相応しいと他の面々とも意見が一致している」
「な、・・・何言って・・・唐突過ぎますよ!」
「ぐだぐだ煩い奴だ。決まったことなんだからほら、さっさと行け」
「代わりに司会進行は僕がやりますから」
「ふふ、大丈夫。失敗したら慰めてあげるわよ!」

 ぐっと背中を押され、頭の中は何もまとまらないままステージのカーテン裏に立たされる。
 再度後ろを振り向くと見えるのは、手を小さく振る双樹、マイクを持って準備万端な神鳳、
仕事は終わったとばかりに壁に体を預ける皆守、そしてたたずんでこちらを見る阿門。
 昨日の葉佩の言葉が脳裏を過ぎった。
 ―――きっとテイトたちはトウヤに期待してるんだよ。
(ああ、たく!)
 キッと目線を上げた夷澤を見て神鳳はプログラムを読み上げた。

「それでは2005年《生徒会》新年行事を始めます。
最初に、《生徒会》からの挨拶を代表して、夷澤凍也君、お願いします」

 静まった場内に迷いのない足音が響き、ステージの中央には凛とした面立ちの少年が立つ。
 生徒たちを見渡すように目線を投げて言葉を紡いだ。

「あけましておめでとうございます。昨年は本当に色々ありましたが・・・今日で新しい年、2005年になりました。
今年の《生徒会》行事は“書初め大会”を行います。大会といっても争いはしません。テーマも決めません。
皆さんの思いをぶつけてください。新年の抱負でも構いませんし、たった今思ってることでもいい」

 大事件の起こった昨年の名残がまだ至る所に残っている。ここにいるのは全校生徒の半数に満たない人数。
 慌しく行われる小さなイベント。
 だけれどこれがこの年の始まり。新しい一ページ。刻まれる一歩。

「目の前の紙は真っ白な自分の世界です。思いを、願いを、意志をこめて、自由に描いてください」

 話を続ける中、見渡す生徒たちの中に葉佩の顔もあった。
 ニコニコといつもの温和そうな顔でこちらを見ているのがわかる。
 その顔を見て思う。
(今、オレはあの人と話がしたい)

「それでは今年も皆さんに幸ありますように。話は以上です。《生徒会》代表、夷澤凍也」

 挨拶の終わりに頭を下げた夷澤に大きな拍手が起こった。
 まもなく“書初め大会”が始まりを告げ、生徒たちは筆を取り、各々の自由な世界を描き始めるのだった。



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