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第五話 水天宮拓仄
二月十四日バレンタインのこの日、夷澤はうんざりした顔で目の前に積まれたカラフルな包装紙に、
可愛らしいリボンでラッピングされた箱の山を見つめた。
そして肩を落として大きな溜め息をつく。
直接渡されるなら断る事もできるのに。
普段の夷澤を知る送り主達は、誰一人として手渡しでなく、机に忍ばせたりロッカーやくつ箱に詰め込んだのである。
しかも送り主の名前を見ても誰なのかがまったくわからない状態だ。
それは軽く大きな段ボール箱ひとつ分にもなる。
やっとの思いで寮の自室まで持ち帰ったはいいが途方にくれる。
「これをオレ一人でどうしろってんだ」
独りごちりながら頭を悩ませていた時に、ノックもなくドアが大かな音を立てて開け放たれた。
今、一番顔を合わせたくない人物が遠慮なく入ってくる。
「トウヤ!これあげる!」
にこにこといつもの笑顔を浮かべながら、両手で大きな花束をずいっと目の前に差し出されて夷澤は複雑な表情を浮かべた。
「センパイ、一体なんのつもりですか?」
答えは容易に想像できたが念のために確認する。
「今日はバレンタインだからプレゼントだよ」
予想通りすぎて思わず顔を歪めた笑いが出てしまう。
「それ誰に聞いたんすか?まあ、だいたいわかりますけどね」
冷静さを保とうと眼鏡を左手人指し指で押し上げる。
「ヤッチーに聞いたんだよ。バレンタインは大切な人に気持ちをプレゼントに託して贈る日だって」
その言葉を聞いてさっきまで口に出そうとしていた台詞は頭から消えた。
顔から耳や首まで真っ赤になってしまった。
よくこんな恥ずかしい言葉を臆面もなく口に出せるなと開けた口をぱくぱくと動かした。
しかし次に聞いた言葉に頭が一瞬真っ白になる。
「でも、トウヤは大切な人がたくさんいるんだね。ボクの気持ちは迷惑かな」
捨てられた犬のような寂しげな瞳を夷澤に向けると頭を垂れてしまった。
「えっ、何言ってんすか?」
やっとの思いで言葉を出す。
「大切な人の贈り物なんだよね、それ」
ダンボール箱に無造作に詰め込まれたチョコレートを指差す。
「あ、いやっ違うんすよ!これは!勝手に机とかロッカーに・・・」
必死に言いつくろう夷澤の言葉が聞こえているのか、
聞こえていないのか目の前の大男はどこか遠くを見つめて、手に持っていた花束を床に落とす。
葉佩は無言で踵を返す。
ドアを開けて廊下へ出て行く背中に腕を伸ばすが、肩を掴む前に冷たい板で遮断されてしまった。
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいっ九龍センパイ!」
ドアを開けて廊下に飛び出して周囲を見回すが葉佩の姿はすでに消えていた。
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