主夷リレー小説 2005年2月編
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 第七話 浅葱瑠璃



 何処を捜せば見つかるだろうかと言う考えは全くなく、気がついたら校舎の中へと入っていった自分がいた。
 何故だか校舎の中にいるような気がしたのだ。
 空き教室や屋上、果てはトイレの個室まで一つ一つ捜してみる。
 だが、神隠しに会ってしまったかのように、葉佩の姿は全く見つからなかった。

「はぁ……はぁ……っ」

 駆けずり回ったせいだろうか、肩を上下に揺らして苦しそうに息を吸う。
 何処にもいない。
 何処かにうまく隠し通しているのだろうか。
 だとしたら、何処にいるのだろうか。
 あんな体格の良い人間を隠すことが出来るような場所など、この校舎にあっただろうか。
 廊下の真ん中でそんなことを考えていると、頭の中に一つの光景とともに葉佩の声が聞こえた。

『ここって隠れ家みたいだね。トウヤもここを好きになれそう?』

 長身の男が狭い部屋に座り込んでいる。
 そのすぐ近くには大きな金の鐘が静かに佇んでいる。
 それを撫でながら、葉佩は優しい声色でそう言った。


 ―――時計台だ。


 クリスマスイブのあの日、時計台で短い時間だけだったが、ひっそりと語り合ったではないか。
 あの時と同じシチュエーションとは言い難いが、一人になりたい時には適した場所だとも言っていた。
 100%そこにいるとは限らない。
 だが、会って言わなければならないことがあるのだから、一か八かでも己の考えに賭けてみたい。

「オレの想い……アンタには絶対に伝えなきゃいけないんだ」

 大切な人だってことは、お互い良く解っている。
 だが、恥ずかしさと色々がモヤモヤと頭の中でぐるぐるしていて、あと一歩が踏み出せない。
 本当はもう解っているのだ。
 行動一つだけで全てが変わってしまうことが怖いのだ。
 拒絶されたら、という気持ちが未だ心の何処かにあって、それが小さな棘のように刺さったまま抜けない。

 うじうじしているなんて、オレらしくない。

 ハッとして思い直す。
 自分の頬を軽く両手でパンと叩くと、時計台までダッシュで階段を駆け上がった。


 灰色の扉は閉まったまま、だが、人の気配があることだけは解った。
 やはり葉佩は中にいるのだ。
 それを確信した時、夷澤の表情は微かに綻んだ。
 その両手には葉佩が落としていった花束。
 それを優しく抱き締めて、重そうに見える扉を渾身の力を籠めて開けた。

「………やっぱり、ここにいたんすか?」

 こちら側に向けた背中が心なしか小さく見える。
 声を掛けたが返事はない。
 ふと、視線を背中に泳がせると、肩が小刻みに揺れているような気がする。
 寒いのだろうか、それとも、泣いているのだろうか。
 少なくとも目の前にいる葉佩は、夷澤の知っている葉佩ではなかった。
 どんな時も明るくて人懐っこくて、ストレートにものを言うのが夷澤があの3ヶ月過ごしてきて知っている葉佩の姿。
 だが、どうだろう、目の前の彼はそれとは真逆だ。
 声を掛けて返答が無かった今、夷澤は葉佩に対して何と声を掛ければ良いのか解らない。
 少しずつ距離を縮めようと近付いていくと、葉佩が夷澤の方を向いた。
 その表情に夷澤はそれ以上足を踏み出すことが出来ない。
 まるで捨てられた子犬のような瞳をしていた。

「く、九龍……センパイ……?」
「………トウヤ」

 沈んだ声に夷澤は思わずビクつく。
 目の前にいるのは誰だ。
 少なくとも己が知っている葉佩九龍という人間ではない。
 あの大量のチョコは別に人の想いとは違うものだと言ってしまえば簡単なのに、
傷付いた目で見られてしまったら口を開こうにも言葉が出て来ない。

「トウヤ、大切な人いっぱいいるんだね。ボクはトウヤの特別なんだって思っていたけど、そうじゃなかったんだね」
「ちが……っ」
「良いんだよ、スッキリした。想いを伝えるってこんなにも難しいことなんだって知ったから」
「ちょ、センパイ……!」

 夷澤がどれだけ取り繕っても事態は最悪な方向へと行ってしまう。
 違うと言えば、このお人好し属性のもつ葉佩は、更にお人好し過ぎる感情で身を引こうとする。
 どうして解ってくれないのだろうか。
 夷澤はこの状況が歯痒くてどうしようもなくて、気がついたら葉佩の腕をギュッと握り締めていた。

「トウヤ……?」
「オレ、どうしてもセンパイに伝えなきゃいけないことがあったんすよ。聞いてくれませんか?」

 想いを伝えるのは難しい、確かに葉佩の言った通り。
 夷澤は意を決した。
 何度も深呼吸して葉佩の目を見つめ、静かに口を開いた。



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