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第九話 ヒビ
大柄の体躯がそれに似つかわしくない身軽さで跳ねた。
元いた場所に放たれた敵の攻撃が当たり、地面が粉砕する。
スタン、と軽く遠のいた場所に降り立った影がそのまま素早く身を屈め、
再び思い切り地を蹴ると今度は正面に突進した。
一気に距離をつめる。
相手が躊躇う隙も与えず、利き手に握られた剣が真一文字に振られた。
ゴォ!
剣の描いた線を辿って瞬時に炎が舞い踊る。
断末魔が響いて、途切れた。
そのときにはチリチリと焦げ付く臭いだけをその場に残して敵が跡形もなく霧散していた。
--敵影、消滅しました--
機械的な声を最後に辺りに静寂が訪れる。
敵の代わりに表れた宝を拾い上げると、《宝探し屋》は一つだけ息を吐き出した。
「相変わらず、やるじゃんセンパイ。いえ、キレがよくなってるんじゃないすか?」
ゴーグルをはずして軽く頭を一度振ると、葉佩はいつもの人好きのする笑顔を声の主に向ける。
全くこの変貌はなんだ、と夷澤は小さく苦笑した。
「アハハ、トウヤとは久しぶりに来たから、ボク少し張り切ってるのかも」
天香遺跡の探査。
葉佩はそのために学園に戻ってきている。
学園生活を送りながらも、その仕事も真面目にこなしていた。
そうやって何度も遺跡に潜る中で彼はバディに夷澤を指名したことはなかった。
正直に言って、夷澤は性質上探査にはあまり向かない。
加えて《生徒会》は事件後の処理にずっとおわれ続けている上、
夷澤は《生徒会》の引継ぎも同時進行で行っていたため長い時間拘束されるわけにはいかなかった。
今も通常通りとある“学園行事”が行えるよう尽力しているところである。
それを知っていてなお葉佩はこの夜、夷澤だけにバディとして同行してほしいと頼んできた。
探索以外の目的があると考えるのが妥当だろう・・・誘われることは純粋に嬉しいのだが。
そしてその目的は大体は察せる。
これからの“学園行事”もおそらく無関係ではないだろう、と夷澤は睨んでいた。
「・・・それで、センパイ。本題はなんですか?」
先延ばしにしても仕方がない、というより早めに話をしておくべきだと思い、夷澤は自分から切り出した。
その言葉で葉佩の笑顔が崩れ真剣な表情となる。
「この先のことだよ」
予想通りだ。
葉佩は三年生としてこの学園に在籍している。
ならば3月の“卒業式”にこの学園を去ることになり・・・
そして、《宝探し屋》としてまたどことも知れない土地へ向かうのだ。
今以上に探査が必要であればわざと留年することも命じられたかもしれないが、
天香遺跡のことは大体調べつくしたと《ロゼッタ協会》は判断している。
むしろ《秘宝》が見つかり依頼が完了した状況で3月まで居られる方が稀なケースだ、と葉佩は思っていた。
かの江見睡院を筆頭に数々の《宝探し屋》が挑み暴けず、《秘宝の夜明け》も関心を示した、いわくつきの遺跡。
他の《秘宝》にその手がかりはないか?遺跡の仕組みは?成り立ちはなにか?
そういったものが《ロゼッタ協会》の好奇心をくすぐったようである。
それは葉佩にとって好都合だった。
だが。
まだ、もう少しでもここにいたかった。
しかしそれも終わりだ。
「ボクは《宝探し屋》だから、ここにとどまってはいられない。ねえ、トウヤ」
---どうしようか?
ようやくお互いの想いを告白し、結ばれた二人。
しかし障害が多い。結構多い。
元々葉佩は色恋沙汰に対する知識も経験も乏しいため、
これからどのようにこの関係を育んでいけばいいかがよくわからなかった。
もっと一緒にいたい。
だけれど自分は世界を旅する《宝探し屋》で。
会いたいときに会ったり、声を聞きたいときに聞いたり、ぬくもりがほしいときに傍にいたり、
そういうことが簡単に出来るとは思いがたい。
甘やかで浮ついた気持ちが今までいくつもの悩みを置き去りにしていた。
だがそれは一度考えてしまうと次から次に溢れてくる。
--どうしようか?
「そんなの、どうもしませんよ」
ぐるぐる悩む葉佩に対する夷澤の返答はひどくあっさりしていた。
葉佩の悩みは夷澤にすれば“今更”と言い切ってしまえるものだったのだ。
なぜかといえば、夷澤自身がとうに充分悩んだからである。
「オレはここを牛耳ってやりたいことやってから卒業するんで今ついていく気も更々ありませんし。・・・だけど」
葉佩が《宝探し屋》として生きようが、夷澤が自分の道を進もうが、大事な結論はもう出ているではないか。
誰でもない、葉佩がそれを自分に告げたのだ。
「よく言うでしょう。心は”いつもいっしょ”っすよ」
--だからどうもしませんよ
あのときの葉佩の書初めの言葉。自分はそれを受け入れ、信じようと思った。
たとえ傍にはいられなくても、相手がどこにいたって、どうしていたって、
それがあれば問題ないと思ってるのは自分だけかと。
自分らしくない台詞だとはわかっているが、不安になっている葉佩にはストレートに言わねば仕方がない。
彼に支えてもらった分は自分も支えてやると決めている。
少し驚いたように夷澤を見つめていた葉佩だが、言葉を理解すると破願した。
「ウン、いっしょだよ、トウヤ!」
覚悟は既にこの心に。
新しい季節はもうすぐそこまで来ていた。
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