主夷リレー小説 2005年3月編
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 第十二話(三月完結) 水天宮拓仄



卒業式も終わり、三年生を在校生全員で作った花道で送り出した。
 その後はどこの学校でも同じような風景で、卒業生も在校生も教師も入り混じって、
思い出話に花を咲かせたり、記念写真を撮影したりで天香学園の構内は騒然としていた。
 そんな中で一人の男子生徒の周りには大勢の生徒達が集まり、最後の別れを惜しんでいる。

「九チャン絶対忘れないでね」

 卒業証書や部活の後輩から贈られた花束を両手で抱えながら
涙ぐむ八千穂は目の前に笑顔で立っている葉佩を見上げていた。
 クラスメイト達も同じように思っているのだろう、
涙ぐみながら二人のやりとりを囲むように見守っている。

「うん。ボク、ヤッチーや皆の事ずっと忘れないよ」

 その一言で堪えていた涙が一気に八千穂の両頬に溢れ、
もう言葉もつむぎ出す事ができず、葉佩に駆け寄った。
 卒業証書を持っていない方の手で八千穂の肩を優しく包み、
驚いて見上げてきた彼女にいつもと変わらない笑顔をもう一度見せた。

「ありがとうヤッチー。卒業してもボク達は友達だよ。ね、もう泣かないで笑って?」
「う・・・うん!ずっと友達だよ九チャン!」

 溢れる涙を止める事はできない八千穂は精一杯の笑顔を葉佩に向け、
くるりと踵を返すと少し離れた所で自分を呼ぶ後輩達の下へ駆け寄っていった。
 八千穂の後ろ姿を見送ると葉佩は抜きん出た身長を活かして周囲をキョロキョロと見渡す。

(トウヤどこにいるんだろう?)

 別れを告げに来るクラスメイト達との会話もそこそこに葉佩は視線を泳がす。
 探し求める姿が見当たらずに両肩をがっくり落とすと、突然後ろから声をかけられた。

「誰を探してるんだ?」

 太い幹に背中を預け、卒業証書が入った筒を脇に挟み、
アロマパイプを咥えた皆守は目の前で繰り広げられる別れの光景を遠い目で見つめていた。

「コウタロ。卒業おめでと」
「そりゃ、どうゆう意味だ」

 軽く笑いながらパイプを指で挟むと唇からラベンダーの香を吐き出し、
よっと小さく声を出して背中を幹から離した。

「ねえ、トウヤどこにいるか知らない?」

 あまりにも素直に告げる葉佩に思わず苦笑いを漏らしそうになるが、
手に持っていたアロマパイプを唇に戻す仕草で隠す。
 自分とも他のバディとも今日で最後となるというのに、葉佩の頭には夷澤の事でいっぱいなのだ。

「夷澤なら体育館か生徒会室じゃないのか?生徒会長は仕事が山積みだからな」
「そっか、ありがと!」

 体育館の方へ駆け出した葉佩の後ろ姿に皆守はあえて聞こえないように声をかけた。

「じゃあな、九ちゃん・・・死ぬなよ」

 生徒や教師の波を避けながら皆守は構内にある”墓場”と呼ばれている場所へ足を向けた。

 夷澤の姿を求めて体育館を覗いた葉佩を見つけたのは、新しく生徒会役員に任命された響五葉だった。

「あっおにいちゃん!」

 卒業式の間はずっと生徒会役員としての仕事を務める為に、
ずっと我慢していた涙が葉佩の姿を見るなり頬を伝う。
 でも、目の前にいるのは以前までの響ではなかった。
 流れる涙を学生服の袖で拭い、精一杯の笑顔を作ろうとしている姿に葉佩も鼻の奥が痛くなるのを感じた。

「おにいちゃん卒業おめでとうございます!」
「ありがとう、イッチャン。イッチャンもトウヤと一緒にがんばってね」

 精一杯の笑顔に葉佩も明るい笑顔と声で返し、空いている方の手で響の頭をくしゃりと撫でる。
 それを嬉しそうに受け止めて、我慢しきれなくなった響は葉佩の胸を両手で掴んで声を上げて泣いた。

「うっうっ・・・せっかく、おにいちゃんと仲良く・・・なれたのに!も・・・もうお別れなんってっ」
「イッチャン」

 泣きじゃくる響の頭を優しく撫でながら葉佩は瞳を潤ませて鼻をすんと啜った。
 卒業式はおめでたい行事なのだから、泣かないと決めていたのに、
目の前で泣かれてしまうとつい同調しそうになる。
 困ったように響の頭頂部を見つめ、少し落ち着いてきたのを見計らって肩に手を置いた。
 肩に置いた手に力を加えて、二人の間にわずかな距離をとって目を合わせる。

「イッチャンそんなに泣いたら駄目だよ。卒業してもボク達はずっと友達なんだから」
「うん、おにいちゃん。そうだよね!ずっとずっと友達だよね」

 潤んだままの瞳で繰り返す響に力強く頷いて、大きな掌で頭を撫でると自分が体育館に来た理由を伝える。

「トウヤは此処にいないの?」
「夷澤君なら、生徒会室に何か取りに行くって・・・あっ」

 それを聞くや否や葉佩は体育館を飛び出して、誰もいない校舎に駆け込んで行く。
 卒業式を終えて、ロゼッタ協会の迎えが来るまでの時間が迫っていた。
 他の誰よりも大切な人に会わずにこの学園を去るわけにはいかない。


 バタバタと廊下を走り、生徒会室の前につくと呼吸を整えるが、
全速力で走ってきたせいで、なかなか落ち着く事ができない。
 この中にいるであろう夷澤凍也に会ったら、自分はこの学園を去らなければならない。
 いつになく心臓が高鳴り、初めて潜る遺跡を前にした時のような緊張が葉佩の中に渦巻く。
 扉を目の前にして、なかなかそこを開く事ができずに肩で息をしながら重厚な木目を見つめた。
 部屋の中で人が動いた気配を感じ、顔を上げるとゆっくりと扉が開き、
目の前には探し求めていた夷澤が険しい表情で立っていた。

「トウヤ」
「ったく、さっさと開けて入ってくりゃいいでしょ。いつも無許可でズカズカ入ってくるくせに」

 いつもと同じ調子で葉佩を見上げてくる夷澤の目が少し赤い事に気がついて、
卒業証書が床に落ちるのもお構い無しに両腕を広げて夷澤を抱きしめた。

「な・・・ちょっと九龍センパイ!」
「トウヤ」
「・・・苦し・・・いっすよ」

 突然の事で目を白黒させた夷澤だったが、
自分を抱きしめている葉佩の背中に両腕を回し、額を大きな胸に押し付けた。
 誰もいない生徒会室で二人は互いの体温を感じながら、ゆっくりと葉佩は口を開いた。

「トウヤ。やっぱり寂しいよボク」
「・・・それは、オレも同じですよ」

「「でも」」

 二人は次の言葉を同時に発し、同時に口を噤む。
 数秒の沈黙を破ったのは夷澤だった。

「でも、オレは"まだ"一緒には行けませんよ」
「うん、わかってる」
「九龍センパイ」

 優しい声で愛しい人の名前を呼び、自ら大きな胸から身を引くとじっと見据えて深く息を吐き、笑顔を作った。

「卒業。おめでとうございます」

 最高の笑顔を見つめ合う。
 夷澤の瞳からキラキラと光る雫が頬を伝って床に落ちた。



To be continued



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