不老不死(2008年11月) 水天宮拓仄


ヴィスタム大陸北東の海に浮かぶ孤島“暗黒大陸“に一人の男が降り立った。

この孤島は約二百年前に一人のエルフが引き起こした天地を揺るがした厄災以来、

人間も動物も暮らさない不毛の大陸となっていた。

孤島には不気味な森とその奥には闇色の湖があり対岸には空高くそびえる塔があった。

その塔を前にした男がつぶやいた。

「この塔にエルフがいるのか・・・」

二百年前の伝説より以前の文献に載っていた言い伝え。

“エルフの血肉を口にすれば、この身を不老不死になれる“

確証は無いが、エルフは永遠の命を持つ生命体で言い伝えには信憑性があった。

「エルフを生きたまま捕える事ができたら・・・

私は永遠に生きながら、この世の贅をすべて手に入れる事ができるのだ」

暗い顔を歪ませて笑うと手にした剣を鞘から抜き放ち、

緊張と恐怖による震えを抑えるように両手で構えた。

カチカチと剣が鳴り周囲に響く。

〈立ち去りなさい。愚かな人間よ〉

「だ、誰だ!」

男の脳に直接女と思われる声が響いた。

剣を振りかざしながら周囲の気配に神経を向けたが声の主はいない。

〈これは神からの警告です。立ち去りなさい〉

先程より強く響く声に頭を激しく振って振り払おうとしたが無駄であった。

「誰だ!神だとでも言うつもりなのか?姿を見せろっ」

恐怖に顔を引き吊らせながら塔に向かって走り出す。

〈愚かな人間よ。神の言葉を無視した償いを受けなさい〉

この言葉を最後に男の意識は途絶え、姿は一本の樹に変わり。

こうして暗黒大陸に静寂が戻った。