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| ■ 『 第一章 第二話 』 文/水天宮拓仄 |
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村から少し離れた場所に位置するキルトの森。
薄暗い森の中をマリンとアルは慎重に歩を進めていた。
森の奥に進むにつれてマリンの表情も厳しいものに変わってくる。
彼女は何者かの発する不思議な気配を敏感に感じ取ることができる。
キルトの森は封印の洞窟があるために、長い間国王から出入りを禁じられている場所。
道らしきものも存在するが、長年誰も利用していないのか雑草が生い茂り、道かどうかも判断できない。
道なき道を数十分進むと、大きな崖が二人の目の前に現れた。
その崖は森の木々に囲まれ、上部のほうは確認できない。
崖を見上げるマリンに、周辺を見回していたアルが崖にぽっかりと大きな口を開けた洞穴を見つけて声をあげた。
「マリン様!あそこの洞穴が…おそらく“封印の洞窟”なのでは?」
アルの声がした方に急いで駆け寄るマリンは緊張の面持ちで立ち止まった。
「そのようですね…」
ゴクリと喉を鳴らすとマリンは両手を胸の前で組み、動こうとしない体を懸命に動かそうと試みる。
だが、極度の緊張にひざが震える。
「や、やはり、一度戻ってザナン様とケンバート様にご報告したほうが…」
顔色の優れないマリンを前にアルも不安が隠せないでいると、背後の森から人の気配を感じ、
マリンをその場に留まらせ、彼女を守るように森に向かい武器を構えた。
「誰だ!ここは禁足地と知ってのことか!」
できるだけの威厳を込めて声をあげると、森の中から現れたのは見知った顔。
「ザナン様!それにケンバート様も!」
「なぜお前達がここにいるんだ?マリン…アルと診療所に行っているはずだろう?」
険しい顔で二人に歩み寄るとケンバートはアルの肩を軽く叩く。
ザナンは洞穴の入り口で立ち尽くして、振り向きもしないマリンの元に歩み寄った。
「マリン…どうしたのですか?」
「ザ…ナン様?どうしてここに」
初めてザナンの存在に気づいたかのように目を大きく開くと、ほっとした表情になるマリン。
知らないうちに握りしめていた手は汗がにじんでいた。
「なぜ、私に相談していただけなかったのです?
あなたほど聡明な方が、このような無茶をするとは…ケンバートに怒られますよ?」
優しい微笑みを浮かべながら背後にいるケンバートに視線を流すと、ケンバートが大きな息をはいた。
ケンバートの存在に気づいたマリンは申し訳なさそうに目を伏せると、ザナンの袖を力なく握り締めた。
「申し訳ありません…何かに…呼ばれたような気がしたのです」
険しい表情のままマリンに近づくとケンバートは手を伸ばした。
びくりと肩を震わすマリンの形の良い頭に優しく手をおくと、表情を崩してみせた。
その表情を見たマリンも安心したのか、普段の穏やかな表情に戻っていく。
「何かに呼ばれた?」
ザナンが首を傾げ洞穴の入り口を改めて見据える。
相変わらず、洞穴からは強い力を感じる。
それも、時間が経過していく毎に増していく力の波動。
「いえ…呼ばれた…というよりも、引き寄せられたのかもしれません…。とても不思議な力を感じるのです」
そっとケンバートに寄り添うと洞穴の入り口をじっと見据える。
町で感じたときよりも、ずっと強い力にマリンは一瞬座り込みそうになった。
「マリン!大丈夫か?」
そっと肩を抱き、体を支えながらケンバートは鋭い切れ長の目で洞穴の入り口をにらみつけた。
自分には、マリンやザナンが言うような力の波動などは感じられない。
だが、明らかに普段と様子が違う二人を前に嫌がおうでも緊張が高まる。
「ザナン様…私が洞穴の中を見て参ります」
決意の表情を見せるケンバートが口を開いた。
いつまでも入り口で待っているわけにもいかないのだ。
もうすぐ日も沈み、森には暗闇が広がってしまう。
そうなる前に“力”の正体を明かさなければならない。
暗闇では、大切な人を十分に守れなくなるからだ。
「ケンバート!それなら私が参ります」
「それはいけません。ザナン様は大切な司祭。その身を危険に晒すことは許される行為ではありません」
「ですが…あなたは魔法が」
「それに、私の使命はあなたとマリンを守ることです。…行かせてください」
「ケンバート様!僕もお供させてください」
弟分のアルが勇んで名乗り出たが、それもケンバートは却下した。
「お前はここに残るんだ。私に何かあった時は、お前が二人を守るんだからな」
支えていたマリンをザナンに託すとケンバートは武器を握り直し、洞穴に向けて足を一歩踏み出した。
「待ってください!」
後ろからマリンが追ってくるのを感じると振り向いて歩を止めた。
「どうか、私にお供をお許しください!」
真剣なまなざしで見つめてくるマリンに少なからず驚いたケンバートだったが、頭を横に振った。
洞穴の中には、どんな危険が待ち受けているのかわからない。
もし、ザナンが言うように封印された邪悪なるエルフが現れたら、自分ではマリンを守りきることは難しいだろう。
妹のように大切に思っているマリン危険にさらすことなどできない。
「駄目だ。ここでザナン様をアルと共にお守りするんだ」
「嫌です!」
険しい表情になるとマリンは頭を左右に大きく揺らす。
瞳には強い意志がみなぎり、手には女神ヴィースのシンボルが刻まれたペンダントが握られていた。
「マリン、聞き分けて欲しい。どんな危険があるかわからないんだぞ?」
「ご一緒したいのです!ケンバート様をお守りしたいの!」
自分よりもかなり背の高いケンバートを下から見上げる。
「…ケンバート…連れていっておやりなさい」
二人のやりとりを見ていたザナンが穏やかに口を開いた。
意外なザナンの言葉にケンバートは声を荒げる。
「ザナン様!あなたまで何をおっしゃるのです!俺は、あなたやマリンを危険に晒したくないっ」
「大丈夫…マリンも感じているのでしょう?この洞穴から感じられる波動は、憎悪に満ちている者が発するものではありません」
ザナンの言葉にマリンは力強く頷く。
「ですが…」
「ケンバート。マリンはあなたが思っているほど弱い女性ではありませんよ。強い意志を持った、強い女性です」
力強く頷くとザナンは天を仰ぎ女神ヴィースの加護を二人に求めた。それにマリンも習う。
「ケンバート様、参りましょう。私なら心配いりませんわ。
洞穴の中には、封印されし者以外にも魔物がいるかもしれません。魔物には魔法が必要でしょう?」
にっこりと笑いかけてくるマリン。
ついに根負けしたケンバートは一瞬天を仰ぎ、ザナンとアルを見つめ、最後にマリンを見つめて力強く頷いた。
「わかった。お前を連れて行こう。ただし、危険になったら俺のことは気にせずにザナン様の元へ走ることを約束してくれ」
「わかりました!さあ、行きましょう」
さっき感じていた緊張もなくなり、震えの止まった自分を不思議に感じながら、
マリンは先に洞穴に向かって歩き出したケンバートの後に続く。
「女神ヴィースよ…二人にどうかお力をお貸しください」
洞穴に吸い込まれるように消えた二人を見送った後も、ザナンは女神に祈りつづけていた。
NEXT 第一章 第三話へつづく |
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