■ 『 第二章 第三話 』 文/水天宮拓仄

 キルとエルメスも窓の外に目を凝らすが、そこには何も見えない。
 だが、確かにシルバーは懐かしそうに目を細めて、言葉を発していた。
 不思議そうな表情で顔を見合わせた2人。
「シルバーどうしたの?窓の外に何かあるの?」
 二人がそっと歩み寄る気配を感じたシルバーはそっと手で制すると笑顔で振り返った。
 その目にはうっすらと涙も浮かんでいる。
 ただごとではない様子に二人はますます首を傾げた。
「しっ!静にして…今、昔の知り合いが来ているの…そう、とても懐かしい」
「…知り合い…?あがってもらいましょうよ」
「ううん、いいの。彼女はエルやキルには見えない存在だし…それになんだか様子がおかしい」
「俺達には見えないって…」
 少し窓に近寄って視線を上や下にめぐらせてみるが、やはり何も見えなかった。
 キルとエルメスが背後にいることを知りながらも、シルバーは窓の外に話しかけた。
『どうしたのよ?お前の友達は一緒じゃないの?』
 シルバーが話かけた存在とは、精霊と言って普通の人間には見えない存在だ。
 精霊を見ることができるのは、精霊と近い関係にあるエルフ達と特別な力を持つ人間だけ。
 キルもエルメスも特別な力を持たないために、シルバーと向かい合っている精霊が見えないのは当たり前のことであった。
 二人からすればシルバーが独り言を話しているようにしか見えない。
 窓の外に浮いている精霊はシルバーの言葉に小さく縦に頭を振ると、そっと口を開いた。
『彼の友が知らない人間に連れて行かれてしまった…彼の頼みで探しているの』
『友達…?彼に?…それはいいとして、連れて行かれたってただごとじゃないわね。その友達がどこにいるか心当たりはある?』
 精霊はシルバーの言葉に悲しい表情を見せた。
『彼女の風がこの街に在ることは…でも場所がわからないの』
『…友達って…女なんだ。ルイもなかなかやるじゃないの』
 面白くない表情をしたシルバーに精霊は不思議な表情を見せると、ふわりと目の前にまで近づいてきた。
『お願い。彼女がいる場所を一緒に探して』
『いいけど…その前に、お前の友達に会わせてちょうだい。近くに来ているんでしょ?』
『ええ。もうこの街の近くまで来ているわ…ありがとうシルバー』
 精霊の表情が明るくなる。
 それにシルバーも笑顔で返すと手を振る。
『ルイをここまで連れてきて。話はそれからよ』
 その言葉を聞いた精霊は、ふっと消えた。
 見送ったシルバーは満面の笑顔を浮かべていたが、次の瞬間には苦笑いに変わってしまった。
 まったく事情のわからないキルとエルメスに質問攻めになるのである。
「まいったな〜どこから話せばいいのやら…よ」




 シルバーの話しを聞き終わったキルとエルメスは驚きを隠せないのか瞳を大きく開き、信じられないと口を揃えた。
「じゃ、じゃあ…これからシルバーと同じエルフがここに来るってことか?」
「ええ、そうよ。私より年上のね」
 精霊のことを簡単に説明した後に、もう一人のエルフがこの村にいることを伝えた。
 昔からの知り合いでそのエルフが助けを求めていることも説明し、今から家に訪ねてくることを話したのだ。
 二人にとってエルフはシルバーを知っているのみで、他のエルフには会ったことはない。
 ただでさえ人間に姿を見せないと言われている種族である。
 自分が生きているうちに二人のエルフに会える機会は、そうそう無いのだ。
 まだ落ち着かない様子のキルとエルメスに苦笑いを浮かべながら外から流れこむ懐かしい風に気づくと、
すっとドアの近くまで歩みよって静かに扉を開いた。
「ルイ…本当に懐かしいわ」
 涙ぐんだシルバーはマントに隠されたままの顔をよく見ようとルイに近付く。
 その行動にびくりとしたルイは僅かに後ずさった。
「あ…あの…あなたは?」
「え?私よ!シルバーよ!」
 怯えたような様子に驚くと、マジマジとマントから覗いている瞳を見つめた。
 昔見たことのある強い意志は感じられず、目の前のルイは今の状況が把握できずに戸惑うばかりだった。
 その様子に戸惑いながらも、ルイの背後に佇む人影に気づいて声をかける。
「あなたは?」
「ルイと共に旅をしているケンバートだ」
「そう…人間と旅を?」
 意外そうな表情を見せたシルバーにケンバートは少しムッとした様子で、ぶっきらぼうに声を発した。
「そろそろ中に入れてもらいんだが…ここで立ち話しは勘弁して欲しいものだな」
「ああ、ごめんなさい。どうぞ、入って」
 部屋の中で緊張した面持ちで待っていたキルとエルメスは椅子から立ち上がると何を言ったら良いのかわからない。
 二人で席を外そうとしたがシルバーが制す。
「キル、エル。昔からの友人で、ルイよ」
 部屋に入ってきたルイがマントを取ると、長く綺麗な金髪に髪の間から覗く鋭い耳。
 シルバーとは違う美しさを持ったエルフの姿にキルとエルメスは見惚れて頬を紅潮させた。
「友人…?僕と、あなたが…?」
 小さく呟くルイは思い出そうと努めるが、自分のこともわからない彼には彼女のことを思い出せるはずもなかった。
 申し訳なさそうな表情を見せたルイの肩をポンと叩くと、振り向いた彼に頷いてケンバートは微笑んだ。
 安心させるように彼なりの気遣いがそこにある。
「俺はケンバート。クルタ村神殿の神官戦士だが、今はわけあって彼と旅をする身だ」
 自己紹介を済ませると、改めて女エルフと自分より幾分か幼い青年のキル、少女とも呼べるエルメスに軽く頭を下げた。
 道中、戻ってきた精霊が協力してくれる者がいる場所に案内すると自分達を導いてくれたのだ。
 まだ、信用はしていないが少しでも協力してくれるのならと頭を下げた。
 その点、ルイは世間知らずなところが多々あるので、行く先々でケンバートがフォローをしなければならない。
「よろしく」
「こちらこそ」
 軽く言葉を交わすとシルバーは少し表情を和らげた。
 ケンバートの発する風は心地よく、悪い人間には見えない。
「クルタから、ここまでの道中疲れたでしょう?座って、今飲み物でも…エルお願い」
「お、お水でいいかしら?」
「ええ。ありがとうございます」
 礼儀正しく礼を言うケンバートは、やはり神殿で教育を受けた者そのものだった。
 上品な仕草にエルメスが見惚れる。
 その視線に気づいたケンバートが、視線を彼女に向けると慌てたようにエルメスは水を取りにキッチンへ向かった。
 キッチンへ入ったエルメスをキルも追ってきて小声で耳打ちをする。
「本当にシルバーの知り合いか?シルバーは友達だって言ってるけど、あっちのエルフはシルバーの事知らないみたいじゃないか」
「兄さん…シルバーの言う事が信じられないの?」
「そんなことないけど…様子が変だぜ、アイツ。あの神官戦士も本物かどうか怪しい」
「そんなことないわよっ神殿に使える方が嘘なんてつくものですか」
 小声で言い争いながらエルメスはグラスを五つ用意して、冷たい水を注いでいく。
 トレーに乗せると後ろから話しかけてくるキルを睨みつけた。
「兄さん。せっかくシルバーが仲間に会えたのに、その関係を壊すようなことをしないで」
「俺だってそんなことしたくないけど…もし、あいつらがシルバーを捕らえにきたような連中だったら俺は容赦しない」
「だって、精霊さんが連れてきてくれた人達でしょう?そんなことないわよ」
 さらに言い争いが続きそうになった時、時間がかかりすぎている二人を心配したシルバーがキッチンに顔を覗かした。
「エル?どうしたの?悪いけど、早く持ってきてもらえないかな。
それに、彼らの話し…どうやらあなた達にも聞いてもらった方がいいみたいだから」
 バツの悪そうな表情を見せた二人を少し不思議に思いながら、シルバーは先に部屋へ戻っていく。
 その後からキルとエルメスも続いた。




NEXT 第ニ章 第四話へつづく