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| ■ 『 第二章 第六話 』 文/水天宮拓仄 |
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シルバー・キル・ケンバート・ルイの四人は、このチェーロンの責任者であるメロキーナの屋敷に忍び込むことに成功していた。
「メロキーナの私室を探そう。きっとそこに捕らわれた女の子がいるはずだ」
キルが辺りの様子を伺い、一同の顔を見回した。
シルバーが自信ありげに笑い返す。
「大丈夫よ、精霊に聞いてみるわ」
すっと瞳を閉じて低く詠唱するシルバー。
すると、彼女の周囲に精霊が現われた。
もちろん、シルバーとルイ以外には見えない。
「お願いね」
そう呟いて精霊を見送ると、シルバーは周囲を見回し手近にあったドアノプを握り、そっと回した。
部屋の中に人間がいない事は気配でわかっている。
「しばらくこの部屋に隠れるわよ」
「のんびりしている時間はないんだぞ?早くマリンを探し出さなければ」
「しっ!大きな声出さないでよ。どこにいるかはすぐわかるわよ…ホラ、もう帰ってきた」
シルバーが指差す先を見るがケンバートの目には何も見えない。
それもそのはず、薄暗い廊下をゆっくりと飛んでくるのは先ほどシルバーがマリンの居所を尋ねた精霊だ。
「ありがと、わかったわ」
精霊と会話をするシルバーを不思議そうな目で見つめるキルとケンバートに、
屋敷に入ってから一言も発しないルイは何かを考えているような表情をしていた。
「シルバー、わかったのか?」
「ええ、メロキーナの私室はこの部屋を出て…屋敷の一番奥まったところよ」
メロキーナの屋敷は、一階建てだが広い敷地を存分に利用しており、かなりの奥行きがある造りになっていた。
「よし、そうとわかったのなら乗りこもう!」
「待って、私とキルは別の用事があるのよ…あなた達はマリンちゃんを助けてきて。その間にこっちも用事を済ませるわ」
「大丈夫か?」
「ええ、まかせて。これでも、この近辺じゃ腕ききの盗賊で有名なんだから」
片目を瞑ってみせ、キルを従えて部屋から出ていくシルバーを無言で見送って後ろにいるルイを振り返った。
「よし、俺達も行くぞ。いいな?」
「はい」
頷くと先に部屋から出たケンバートの後を静かに追う。
ケンバートとルイより先に部屋を出たシルバーとキルは、メロキーナの書斎に来ていた。
「さ、ドアの鍵をかけて。万が一使用人に見つかったら面倒だから魔法で鍵を二重にかけるわ」
キルが施錠したドアに向かって精霊に話しかけ、木と金属の精霊に力を貸してくれるように求めたのだ。
この世にある物体にはすべて精霊が宿っている。
人間でも、生来の才能と努力によって精霊と対話ができる者もいるが、エルフはそれが極自然と行なえる種族である。
時には、精霊を異世界より召還して強力な力を発揮することもあるのだ。
目に見えず、理解できない力を恐れ、200年前の伝説以来人間はエルフを忌み嫌ってきた。
「これでドアを破壊されない限りは時間稼ぎになるわ」
「よし、さっさとアレを探し出そう」
まず二人が見つけたのは、大きな金庫だ。
高さはシルバーの背丈ほどもあり、奥行きも高さと同じ程あるように見えた。
「探すというより、あの中にあるって事ね」
「そうだろうな…奴も俺達がここまでやるとは思っていないだろうし」
つぶやくと二人はそれぞれの役割を果たすべく動いた。
キルは外から窓から火が見えないようにカーテンを静かにひき、
シルバーが魔法で鍵をかけたドアにぴったりと背をつけて立つと、廊下の物音に全神経を集中させた。
シルバーは、金庫の前にしゃがみこむと細い金具を取り出し、鍵穴に差込みながら細かく動かしてる。
が、すぐに金具を鍵穴から抜き金庫にぴったりと額をつけて目を閉じた。
『お願い…教えて』
数秒、目を閉じたまま金庫の精霊と対話を試み、やがてにこりと笑顔を見せると金庫に軽く口付けをした。
「ありがと」
金庫の精霊から教えてもらった金庫の鍵を開けるための暗証番号をカチカチとダイヤルを回し、
先ほど使った金具を鍵穴に差込み左に捻った。
―カチリー
あっさりと金庫の鍵を開け、ドアに張り付いたままのキルにウインクを送って手招きをした。
「開いたわよ。この中にあるかしら?」
「俺が探すから、シルバーは廊下の様子をうかがっていてくれ」
「オッケー」
この二人は普段から貴族相手に盗賊稼業を繰り返していた。
貴族から金品を奪い、それを村の貧しい人間に分け与え、人々からは義賊として扱われているのだ。
「どう?急がないとそろそろ、さっきのオジさんが倒してくれた門番達が目を覚ます頃よ」
そう、シルバー達が屋敷に潜入する際に門番達の様子を見た限りでは、軽い当身を食らった程度で、
しばらく経てば目を覚ましてしまうだろうと予測できた。
彼らが目を覚ませば何者かが屋敷に潜入した事は明らかだ。
屋敷中の使用人や用心棒が目を覚まし、争うことになるのは必至である。
捕まるとは思わないが、一緒に潜入したケンバートやルイがいる限り、見捨てて逃げるわけにはいかないのだ。
「わかってる…色々あって確めるのが大変なんだよ」
「ルイとケンバートはうまくやってるかしら?慣れてないでしょうしね…」
「大丈夫さ、まだ屋敷の中は静かだし。少なくともまだ見つかってはいないよ」
金庫の中に潜りこんで次々と書面に目を通しているキルの手が止まった。
「あった!」
それは、メロキーナが貴族になるために犯した罪を証明する文書だ。
また、村への税金も国に指定された以上取り立て、国からの予算を半分以上も着服しているのだ。
キルとエルメスの両親は、何年も前にこの事実をつきとめ証拠を手に国を訴えようとしていた。
今、キルが手にした文書は、彼の両親が作った証拠物件である。
「さ、早くここを出てルイ達に合流しましょう。心配だわ」
「ああ」
キルが頷いて立ち上がった途端、屋敷の中が一気に騒がしくなった。
ドアの鍵を解き、開けようとしたシルバーの動きが止まる。
ドアに耳をつけ廊下の様子を伺った。
エルフの耳は、人間の何倍もよく聞こえる。
屋敷中の会話を聞き取ることも可能だ。
「賊が侵入したぞ!ご主人様の部屋だ!急げっ」
その言葉を聞いてシルバーはドアを勢い良く開け放った。
「やっぱり彼ら見つかったみたいよ!」
「やっぱり俺がついていくべきだったかな」
シルバーは細身の剣を抜き、屋敷の奥に歩を進めた。
キルは短剣を取り出しシルバーのすぐ後を追う。
「賊だな、貴様ら!」
廊下を堂々と歩いている二人はすぐに屋敷の用心棒達に見つかった。
ケンバートとルイのために、わざと目立つように行動しているから当然だ。
「まあ、そういう事になるわね」
「シルバー!早くケンバート達の所に行かないとまずいよ」
「わかってる!いっきに片をつけるわ…これ、持ってて」
後ろ手に剣をキルに渡すと腰についていた袋を取り、袋の口を閉じていた皮紐を解き、用心棒達の足元へパサリと投げる。
突然の行動に驚いた用心棒達は足元に投げられた袋を思わず目で追った。
その隙を狙ったシルバーが聞いた事のない言葉で投げた袋に向かった呼びかけた。
『友よ!』
その言葉に反応するかのように、宙に投げられた袋が一瞬止まる。
その直後に用心棒達の動きが止まった。
彼らの足元から突然木のツルが伸び、腰の辺りまでを絡めとったのだ。
抜き身だった剣はそのまま手に残ったが、すぐに腕にもツルが伸びてきて手放すこともできなくなった。
いくらもがいても腰まで動きを捉えられた彼らにはどうしようもない。
「なっなんだ!こいつは!」
「痛い目見なくてよかったわね、用心棒さん?感謝してよね…殺しは趣味じゃないのよ」
バタバタとあがく用心棒達をその場に残し、キルとシルバーは屋敷の奥にたどり着いた。
すでにメロキーナと対峙するケンバートとルイの後ろ姿が目に飛び込んでくる。
「おまたせ」
「すまない…たどり着く前に騒がれてしまったんだ」
そう言ったケンバートの足元に倒れている男が何人も低くうめいていた。
神官戦士は棒術を極めた者しか認められない。
棒術は、命を奪うために身につけるものではなく他人を護るために身につけるものだった。
そう、今マリンを護るために長年の修了で身につけた棒術が活かされる時がきた。
「ケンバート様!」
「マリン!待っていろっすぐ助ける!」
「誰だ貴様達は?」
目の前にいる四人を睨みつけ、メロキーナは震えながら声を張り上げた。
「メロキーナ、お前の悪事も今日までだ!」
キルが憎しみを込めて叫び、そのままメロキーナに掴みかかろうとするが、それはシルバーによって制された。
「動くな!」
「貴様っ」
豊かな体格な割にすばやい動きで部屋の中に引き返し、マリンの背後に回りこむと彼女の喉元に護身用ナイフを突きつけたのだ。
「ケンバート様っ!」
「マリンっ」
暴れるマリンを体重で押さえつけて、自分にぐいっと引き寄せながら動きを封じる。
「黙れ!貴様達、この娘を助けに来たのだろう?動けばこの娘を殺す、いいな?」
「くっ…どこまで卑怯な奴なんだ貴様はっ」
「どうとでも言うが良い…さあ、出て来いっ」
メロキーナが部屋の奥に向かって声をかけるとローブを羽織った若い男がゆっくりと近付いてきた。
「こいつらを片付けろ。頼んだぞ、ギムよ」
「はい、お任せください」
ローブの中から不気味な形をした杖を取り出すと右手に握り締め、一行に向けてかざす。
「うあっ!」
「きゃっ」
何かの力で跳ね飛ばされた四人に、ゆっくりと近付きながらギムと呼ばれた男はニヤリと口元を歪ませた。
痩せこけた頬、血色の悪い肌と唇の色は、彼が何かの病に冒されていると思わせる容姿だ。
「なんだ、今の力は?」
キルが目を白黒させながらシルバーを見ると、思いのほか冷静な色を瞳に宿した彼女が口を開いた。
「どうやら彼は魔術師のようね」
「どうやら、そのようだな…今のも魔法で弾かれたんだ」
ケンバートも状況を見極めるためにマリンを前にした今も冷静さを保っていた。
彼自身は魔法を使えないが、神官戦士としての知識は充分に身につけている。
世に存在する魔法の力を知らないはずはない。
ただ、生まれて初めて見る神官が用いる神聖魔法以外の魔法に少なからず動揺していた。
「まいったわね…あの魔法と精霊は相性が悪いわ」
徐々に歩を進めてくるギムから離れるように一行はゆっくりと後ずさりをする。
接近を許すとまた先ほどの力で弾かれてしまうことはわかりきっていた。
「どうするんだよ?あの力がある限り、俺達はあいつに近づけないぞ」
「そうなのよね…マリンちゃんを押さえつけているメロキーナの動きを止めるだけならできるんだけど…今の移動で距離が離れすぎて」
困ったように呟きながらシルバーが頭をかく。
その肩をぐっと掴むとケンバートが彼女を押しのけて前に出た。
「さっきの二の舞になるわよ?」
「もっと近付けばメロキーナの動きを止めることができるんだろう?だったら、俺がこいつを倒すしかない」
「はっはっはっ威勢のいい奴だな、神官戦士どの?俺には触れないぜ…近付けばさっきと同じ目にあうだけだ…それに」
再び杖を持った手をローブから出し、今度は杖を持った手をケンバートに向けて振りかざした。
その瞬間にケンバートが身につけていた服が突然発火する。
「なっ!」
「危ないっ」
すぐにシルバーが先ほど用心棒達の足止めに使った袋と同様の物を取り出し、口を開いた。
袋の中からは水がまるで生き物のように飛び出すと、ケンバートの燃え始めた服へ。
まだ小さかった炎はすぐに消えた。
その様子を見ていたギムが目を丸くして驚いたような表情を見せる。
「ほお、あんた精霊使いなんだな…珍しい」
ギムの言葉にカチンときたシルバーは、今まで己の耳を隠すために被っていた布を頭部から取り払う。
「何が珍しいもんですか!私達エルフは精霊と共存し、協力しあって生きているのよ!」
「なっエルフだとっ」
明らかに動揺したギムに一瞬の隙が生じる。
その絶妙なタイミングで、シルバーの背後から真白な腕が伸びた。
「し…しま…っ」
最後まで台詞を吐き出せないままギムはどっとその場に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。
突然の事にシルバー、キル、ケンバートは後ろを振り返る。
「眠ってもらっただけです……あの、いけなかったでしょうか?」
遠慮がちにルイはすっと突き出した腕をローブの中にしまいこみながら、口を開いた。
「い…いや、よくやったなルイ。助かった」
「そうですか」
ふっと嬉しそうに微笑むルイを見つめて、ケンバートはギムを飛び越えマリンが捉えられているメロキーナの私室に駆け込む。
「マリン!どこだっ!」
「いないの?」
気配を感じられない室内にケンバートは唇を噛み締めながら、近くに転がっていた椅子を蹴りつけたのだった
NEXT 第ニ章 第七話へつづく |
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