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| ■ 『 第二章 第七話 』 文/水天宮拓仄 |
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ギムとのやりとりをしている隙にメロキーナはマリンを連れて部屋の外へ消えていた。
必死に部屋の中を探しまわるが、それらしい痕跡が見つからない。
「どこだっどこに行ったんだ!」
ベッドをドカっと蹴りつけ、荒々しい様子のケンバートに後から入ってきたルイが恐る恐る声をかける。
そして、ある一点を指さした。
「そこの壁に抜け道が…そこから外の風が流れています」
「本当だわ!早く追いましょう!」
ルイに言われて改めシルバーが神経を集中させてみると、確かに壁から外気が室内に流れ込んでいるのがわずかだが感じられる。
ケンバートとキルの二人で壁を力まかせに破壊すると外に出た。
「マリンっ」
「ケンバート様!」
外に出るとボロボロと涙を流しながら、マリンがケンバートに飛びついてきた。
「無事だったのね…よかったわ…どうやって逃げてきたの?メロキーナはどこに?」
抱き締められながら泣きじゃくるマリンの肩に優しく手を置き、周囲を見渡すと屋敷の外壁近くに倒れている巨体が見える。
間違いなくこの屋敷の主人・メロキーナだ。
「…マリン…落ち着け、もう大丈夫だから」
「ええ…あ……ありがとうございま…す」
優しいケンバートの声に少しずつ落ち着きを取り戻したマリンにシルバーは微笑みかけた。
「話してもらえる?」
シルバーの言葉に頷き、マリンはケンバートに支えられながらメロキーナに連れ去られた時の事を語った。
―マリンの話ではー
メロキーナにナイフを突きつけられながら抜け穴から外へ出て、村から逃亡しようとした。
二人は外壁に沿いながら馬が繋がれている小屋へ向かっていた。
だが、突然目の前に大柄な剣士が現われて、ナイフが突きつけられていたマリンを見ると、
一瞬の内にメロキーナが持っていたナイフを鞘に入ったままの剣で叩き落とし、ナイフを拾って剣士に立ち向かった瞬間。
メロキーナは驚愕し、声にならない悲鳴をあげた。
「あ、あなたは…っ」
ここまで口にした直後に剣士が放った当身であっさりと気絶してたというのだ。
そして、礼を述べるマリンに一声かけると剣士は名も告げずに、「やはり違ったか…」と呟いて姿を消した。
マリンから聞いた容姿をまとめると、どうやらシルバー達がメロキーナ邸に潜入する際に出会った剣士と同一人物のようだ。
「そういえば、彼もこの屋敷に用事があるって言ってたわね…この騒ぎに乗じて忍び込もうとしていたのかも」
「それにしても…何者なんだろうな」
話しをしていたシルバーを見つめてマリンは目を丸くした。
さっきは興奮していて気づかなかったが、彼女の耳も鋭く長い。
「あなたもエルフなのですか?」
ようやく体の震えもおさまり、ケンバートの支え無しでも立っていられるようになっていた。
「ええ、そうよ。シルバーって言うの。よろしくねマリンちゃん?こっちにいるのはキルよ」
横に立っていたキルを示しながら、シルバーは明るい笑顔を見せた。
「シルバー様、キル様…それに…ケンバート様にルイ様もありがとうございました」
自分を助けるために危険な目にあわせてしまった事をマリンは深く悔いた。
神に代わって人々を救うのが自分の使命だと信じるマリンにとって、自分の為に他の人間が傷つくような事は耐えられない。
止まったばかりの涙が、また溢れ出した。
「私のために…ごめんなさい!」
顔を両の掌で覆って涙を流すマリンをシルバーが真正面から彼女を抱き締めた。
「泣かないでマリン…私達、誰も傷ついていないわ…大丈夫よ…もう大丈夫」
二人の周囲を優しい風が包みこむのをルイは微笑みながら見つめていた。
「さ、後始末してエルの待っている家に帰りましょ。急がないと夜が明けちゃう」
キルは一人、メロキーナを縛りあげた上で彼を引きずってシルバー達の元に向かおうとしていたが、
何倍もの体重があると予想されるメロキーナにだいぶ苦戦しているようだ。
「やだ、一人で運ぶのは無理よキル」
マリンをそっと解放すると、キルの元へ駆け寄る。
「屋敷の中に運ぶのは無理だな…門の前に縛り付けておくか」
「そうね。あとは、村に常駐している国家役人に任せましょう」
言葉通りにシルバーとキル、そして、見かねたケンバートが手伝ってメロキーナをなんとか門前に運び、
門扉にきつく縛り付けて屋敷から立ち去る。
その足で、匿名でメロキーナの悪事を手紙にしたため、盗み出した証拠文書と共に国家役人の詰め所に投げ込んでおいた。
「さあ、これで良いわ。あとは夜が明けたらすべてが終るのね」
「ああ…これで父さんと母さんの無念が晴らせる。ありがとうシルバー…ありがとう、ケンバート、ルイ」
震える声を堪えて、深々と頭を下げ礼を述べるキルは自分の意志では止めることのできない涙を
見られないようにいつまでもいつまでも頭を下げつづけた。
「ただいまエル」
「兄さん!大丈夫だった?怪我はないの?」
そろそろ夜明けも近いというのにエルメスは一睡もせずに兄達が帰ってくるのを待っていた。
「大丈夫よ、エル。すべてうまく行ったわ。マリンも助け出せたしね」
振り返ってマリンを家の中に通すとエルメスに紹介する。
申し訳なさそうな表情で頭を下げるマリンにエルメスは笑いかけた。
「よかった…みんな…本当に無事でよかった」
ポロポロと涙を零すエルメスを優しくキルが抱きしめた。
二人はこの日をずっと夢見ていたのだから。
翌日、落ち着いたエルメスが一同に朝食を振る舞い終え、それぞれが思うところに腰を下ろしていた。
シルバーが再び頭に布を巻きつけながら呟いた。
「これで私も心おきなく旅に出れるわ」
「え?」
エルメスとキルが同時に声を上げた。
思いもかけない言葉だったのだ。
これからもずっとシルバーと一緒に暮らしていくものだと。
「シルバーどうして?これからもずっと一緒に暮らすんじゃないのか?」
やや興奮気味な声でキルがシルバーに詰め寄る。
「それもいいかなって思っていたけどね」
まっすぐ見つめてくるキルの視線から、すっと視線を外してシルバーは申し訳なさそうな表情を見せた。
「それだったら、一緒に…」
涙声になってエルメスが違う方向から見つめてくる。
キルとエルメスの視線から逃れるために、シルバーは床を見つめた。
「ルイが…仲間が心配なのよ、私…かつての仲間のルイがね」
床からルイに視線を移す。
その視線を不思議そうな表情で受け止めたルイを寂しそうに見つめるとまっすぐにキルを見つめ、次にエルメスを見つめた。
「私がいなくてもあなた達は大丈夫よ。それに、もう二度と会えないわけじゃない。
また必ずここへ帰ってくるわ。ルイの記憶を取り戻すことができたら、必ず」
記憶をなくしたルイに自分を思い出して欲しかった。
昔、一緒に旅をした彼が大好きだった。
旅の途中で何も知らされずに別れた後、ずっとルイを探していたシルバーの決意は固い。
200年近く経ってようやく見つけたルイを助けたい。
「でも…」
「よせ、エル」
「でも兄さん・・・シルバーは私達の家族よ」
涙を隠すこともなくエルメスは声を荒げた。
彼女はシルバーを姉や母のように慕ってきた。
「シルバーは旅に出るだけさ。また帰ってきてくれるよ…な?」
「ええ、必ず。たとえ何十年かかってもここへ帰ってくるわ」
エルメスの頬を伝う涙をすっと指で拭うと、くるりと踵を返す。
先に旅支度を済ませていたケンバート、ルイ、マリンの元へ向かいながら、後ろにいる二人に向けてシルバーは手を振った。
扉を開け、外へ足を踏み出す。
「いってきます!」
いつものようにドアから出ていくシルバーを見送り、瞳にだんだんと覆ってくる雫を堪えながら笑顔で手をあげた。
「いってらっしゃい」
いつかこの扉から彼女が笑顔で帰ってくる事を信じて。
第ニ章 完
第三章 第一話につづく |
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