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| ■ 『 第四章 第ニ話 』 文/水天宮拓仄 |
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シルバーの経験と知識。そしてルイの魔力によって無事に樹海を抜けた一行は神聖王国の王都に入っていた。
仲間達の中で、神聖王国フォーリーの王都フォルシナに来た事があるのはシルバーだけ。
そのシルバーも十数年ぶりに立ち寄り、以前の王都とは違うイメージを持っていた。
シルバーが言うにはルイも訪れた事があるのだが、その時の記憶はまだ戻っていないので初めてと同じである。
「以前に来た時となんか違うわね」
エルフの証である鋭い耳を隠す為に被ったフードの奥で、呟くシルバーの言葉を後ろから歩いてきた背の高い男が拾った。
「シルバーはフォルシナに来た事があるんですね。どんな風に違うのですか?」
紫色のウェーブのかかった長い髪を後ろで縛って背中に流し、少々汚れた白のロングローブを身につけているのは魔術士のカティス。
以前は山賊の女ボスに惚れられた事が縁で彼女達の用心棒をしていたが、ルイ達に出会って山賊と別れを告げた。
「そうね、わたしが前に来た時は十七か十八年位前だったかしら。どこが変わったというか、空気とか雰囲気が違うのよね」
そう告げるとフードを少しだけ後ろに下げて、耳が出ない程度に顔を外の空気に晒して鼻をひくひくさせる。
「うん、匂いも違うわ。こんなに美味しそうな匂いは前にはなかったもの」
ニコリと笑ってシルバーが指を差す方向には美味しそうな食べ物が並ぶ露店通り。
「樹海を抜けてから、まともに食べていなかったし。この辺りで食事にしよう」
そう提案したのは一行の路銀を管理している神官戦士のケンバートである。
彼は正式な資格を持つ神官戦士ではなかったが、その精神や力は充分に備えていた。
隣りを歩く神官服を着た小柄な少女を、今までもこれからも守っていく事を自らの使命としている。
「我々が食べられそうな物があれば良いが」
「好き嫌いはありませんから大丈夫ですわ」
明るい笑顔をずいぶん上の方に見えるケンバートの瞳に写した。
淡い桃色の長くてまっすぐな髪を後ろにそのまま流し、同色の神官服を身につけた上品な少女はマリン。
まだ若いが将来を有望視されている神官だ。
一行がとりあえずの目的地としている大神殿へ着いたら、神官の証を受け取るように恩師である司祭ザナンから命じられている。
「好き嫌いの問題ではないぞマリン」
苦笑しながらケンバートは露店通りへ足を向けて一通り店の内容を見渡した。
神に仕えるマリンやケンバートは基本的に菜食で、肉や魚は決められた日にしか口にしない。
そしてエルフのルイやシルバーは菜食主義で、ミルクや卵等は摂取するが肉は滅多に口にしないのだ。
宗教や種族関係なく、気兼ね無しに食事ができるのは仲間中ではカティスだけなのである。
「でもここは神聖王国の王都ですもの心配ありませんわ、ほら」
そう言ってマリンが顔を向けた方向には色々なパンが小さなテーブルの上に所狭しと並べられている。
パンの上に野菜や果物を煮込んだ物が塗られていたり、動物の卵を焼いて載せているものがあった。
「広場にベンチもあるし、そこで休みましょう」
露店が並ぶ街路へ続く広場には小さな水場と人工的に植えられた立ち木と備え付けのベンチがいくつか設置されていた。
この街を訪れる人々の憩いの場となっているようだ。
「シルバーとルイはここで待っていてくれ。フードを被っていると言ってもお前達は目立つからな」
広場にある人が使っていないベンチを見つけて近づき、手に持っていた袋や外套を脱ぎベンチに置きながらシルバーに念を押す。
シルバーは自分で食べる物を自分で買ってくるつもりだったところを、止められて不満の表情を浮かべた。
「嫌よ。わたしは自分で食べる物くらい自分で買ってくるわ」
「駄目だ、大人しくしていろ。マリンも一緒に此処で荷物の番を頼む。行くぞ、カティス」
「シルバー何が食べたい?私が買ってきてあげますよ」
「任せるわ。わたしもルイも肉と魚さえ入っていなければ食べれるから」
ケンバートがここに自分を残して行くと言ったのは、目立つというだけの理由ではない。
樹海を抜ける為に力を使い果たしてしまったシルバーをできるだけ休ませてやりたいという気持ちもあったのだ。
それを理解しつつもああ言われてしまうと、つい自分も反抗的な物言いになってしまうのである。
「それじゃ、皆さんはいい子に待っていてくださいね。すぐ戻ります」
すでに歩き出していたケンバートの後を追いながら手を振るカティスを見送ったシルバーはベンチの上に腰を下ろした。
隣りにマリンが静かに腰を下ろし、仲間達の荷物を一箇所にまとめて足元にそっと置いた。
「ルイさまもどうぞ。お疲れでしょう」
「はい」
落ち着きのない様子を見せていたルイは、素直にシルバーの隣りへ腰を下ろしたが視線は周囲を彷徨っている。
「どうしたのルイ?あまりキョロキョロしているとかえって目立つわよ」
「シルバーさんは感じませんか?この街を包んでいる不思議な空気を・・・」
「不思議な空気?そう言われてみれば他の土地より澄んでいるとは思うけど」
空を見上げて広場に漂う精霊の姿を目で追い、かすかな風や空気の動きを感じ取るために神経を研ぎ澄ますが、
疲労のせいで普段よりそれらを感じ取る事ができないようだ。
二人の会話を聞いたマリンが微笑みながら口を開いた。
「ここは神聖王国の王都。神聖王がお住まいになる聖なる都・・・清浄な空気が街を包んでいると聞いた事があります」
「そうね、王都には代々の神聖王が自ら守りの魔法を使っていると長老達から聞かされてるから」
「でも、これは魔法というよりも・・・精霊達が街を守っているように見えます」
フォルシナに入ってからルイの視界に入ってくる精霊達の動きは規則正しく、エルフである自分にも興味を示さない。
今までの旅で見てきた精霊の動きと違うのだ。
「恐らく神聖王は精霊の力を守りの魔法に使っているんだと思うわ」
「精霊は人間にも力を貸してくださるの?」
人間が精霊を使役するという話を聞いた事もないし、神殿で読んだ文献にも書かれていなかった。
「彼らと自在に話す事ができればそう難しい事じゃないわ。この街を守るほどの魔力があれば尚更ね」
そう言った後にシルバーは口を閉ざし心の中で疑問を発した。
ーただ、人間の中で精霊語を話せる者はほとんどいないはず・・・まして、年若い神聖王がそれを成せるとは思えないー
エルフ達が自然に身につける精霊語は人間にとっては覚える事やそれを音として発する事が容易な事ではなかった。
ヴィスタム大陸が今のような分裂した状態になる前、エルフが大陸を破壊する前の魔術士で力のある者の一部が、
エルフに教えを請い身につける事もできたが、今は独自に古い文献等で学ぶ人間が片言を話せる程度と聞いている。
独自に精霊語を身につけるにもそれなりの時間が必要であり、片言でも話せるようになるには数十年を要した。
「どんな人間なのかしら神聖王は」
改めてルイの言う精霊の動きを目で追いながら小さく呟くと、露店の方からケンバートとカティスが戻ってくる姿を見つけた。
手を軽く振っているとベンチに座っていたマリンが立ち上がり、二人に駆け寄る。
「待たせたな。さあ、食事にしよう」
「これはルイ。こっちはシルバーの分ですよ」
ケンバートの後ろに立っていたカティスがにこやかに左右の手で持っていた袋をベンチに座っていた二人に渡す。
「ありがとう」
受け取って袋の中を見ると中には薄いパンに野菜と果実が挟まれており、甘いジャムが無造作にかけられて良い香りが鼻腔に届く。
ガサガサと中身を取り出しかぶりつくと、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
食事を取りながらもルイの視線は風の方向に逆らいながらも規則正しい動きを続ける精霊を見つめていた。
NEXT
第四章 第三話へつづく |
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