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| ■ 『 第四章 第三話 』 文/水天宮拓仄 |
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ルイ達が樹海を抜けて一息ついている頃。
神聖王国の王都に一人の青年と、壮年にも関わらず、鋭い眼光を放つ体格の良い男が街道をゆったりと歩いていた。
青年は頭からすっぽりと顔を隠すように布を被り、どこにでもあるローブを身に纏っていたが、どことなく気品が漂う。
彼のそばを通りかかる人間はみな振り返った。
人々からの視線を気にもしないで歩き、街中を静かに眺める瞳は薄布で覆われている。
それはこの大陸では最も神秘的な存在として崇められる人間にしか持ち得ない、左が紫、右が緑の瞳。
俗に言う“オッドアイ”を持つ者は神聖な王たる資質を持つ者にしか現れないとされた。
薄布は彼の容貌を隠すためであり、身分を周囲に気づかれないように留意されたものだ。
そう青年は・・・いやまだ少年と呼べる年齢だろう。
今から二年前、十五の歳にに即位したばかりの若き神聖王フォーリヴィス十二世である。
代々の神聖王は寿命が普通の人間よりも短く、体も弱いために即位するのはたいがい十代となる。
フォーリヴィス十二世の父親であるフォーリヴィス十一世も人生の折り返し地点とも言える齢四十程度で崩御していた。
「ジルド」
「はっ」
人が行き交う中で声を張り上げる事もなく、つぶやく様に付き従う側近の男に声をかけた。
フォーリヴィスよりもだいぶ大柄で顔には威厳のある髭を蓄え、見ただけでも威圧されそうな風体を持つ
ジルドと呼ばれた男は、神聖王国の騎士団を総括する大将軍の位を先代の頃から任されおり、
先王からも現王フォーリヴィス十二世からも絶対の信頼を得ている人物である。
今、二人は王都をお忍びで散策かつ、神聖王の義務である”守護封術”を確認する為に城下を歩いていた。
「何箇所残っている?」
「現在、三箇所を確認しましたので・・・残りは二箇所となります。日を改めますか?」
ジルドの言葉に少し間を開けて、周囲をゆっくりと見渡すと少しだけ目を覆う布を持ち上げて空を見上げた。
唇の端がゆっくりと上がり、布ごしでもフォーリヴィスの美しい笑みが容易に想像できる。
「いや、今日は天気も良い。残りもすべて回ろう。宮殿にばかり閉じこもっていては気分が滅入るからな」
最後は自嘲が入り混じったような笑みであったが、それすらもジルドの目には美しく映った。
「御意。それでは参りましょう」
周囲の民衆に怪しまれない程度だが、恭しく軽く頭を下げて主君を促しながら足を踏み出した。
最後の”守護封術”を確認し終えたフォーリヴィスは大きく息を吐いた。
周辺は木に囲まれた場所。
代々の神聖王によって施される王都フォルシナを守る魔法”守護封術”。
神聖王にしか使用できない魔法に用いられる社を前に顔を覆っていた布を払いのける。
「陛下。城下ではお顔を晒してはなりません」
「ほんの少しの間だけだ。幸い、周囲に人影はおらん。外の空気を直接吸いたい」
顎を上げて形の良い唇を大きめに開けると思い切り新鮮な空気を吸い込むと、薄い胸が膨らみ、しぼむ。
数回同じ動作を繰り返してフォーリヴィスはすぐに元通りに顔を布で覆いジルドの方を見つめた。
「そろそろ・・・ん・・・これは?」
「どうなさいました?」
そろそろ宮殿へ帰ろうとジルドに向かって言いかけたが、一瞬動きを止めて反対の方向へ視線を巡らせる。
いつも静かに落ち着いているフォーリヴィスの表情は、ジルドの目から見ても明らかに動揺していた。
「何か強い力を持つ・・・何かが、この街に入ったようだ」
フォルシナに施されている”守護封術”は一種の結界に似たようなもので、ある一定以上の力を持つ生物が
結界の境界を越えると術者はそれを即座に察知できるのである。
だが、即位して間もないフォーリヴィス十二世は、それが何者なのかまでは察知できない。
歳を重ね、力をつけていくと姿形やどんな力を持つ者なのかも判断ができるらしい。
「そちらへ騎士団を向かわせましょう」
「いや、邪悪な気は感じない・・・それよりも、どこか懐かしい気をわずかにだが感じる」
神経を研ぎ澄まして先ほど感じた力の源を辿ろうとするが、やはり何者かまでは判断がつかない。
確かに邪悪な気を感じないのだが、どこか気になる。
「陛下?」
空を見上げたまま瞳を閉じて、何も話さないフォーリヴィスを怪訝な表情で見つめ声をかけた。
その声に目を覚ましたかのように瞼を上げて、ジルドの方に顔を向けた。
「力を感じた方へ行ってみよう」
「それはなりません。力のある正体もわからぬ者の前に御身をさらすわけには参りません」
ジルドの言葉を聞き終わらない内にフォーリヴィスの足は、力を感じた方向に向けられている。
静かに足を進める王の後ろを追いながらジルドは更に口を開く。
「陛下。せめて正体を見極めてからでも遅くはありません」
「旅の者だったら、すぐに街を出て行ってしまう。それでは遅いのだ」
「しかし!」
しつこいジルドに腹を立てたフォーリヴィスは立ち止まり踵を返して、顔を隠す薄布を片手で勢い良くはねのけた。
その表情は普段の穏やかな様子とさほど変化は見られないが、幼い頃から傍に仕えていたジルドにはわかる。
細く整った眉の端をほんの少しだけだが吊り上げ、眉間にもわずかに皺が寄せられている。
明らかにフォーリヴィスは気分を害しているのが手に取るようにわかった。
「余が危険だと感じていないのだから、大丈夫だ。もしもの時はお前が余を守ってくれるのだろう?」
彼にしては強い口調でまくし立てると、ジルドの返事を待たずに踵を返して再び歩き出す。
「陛下の仰せのままに」
「うむ」
”懐かしい”と感じた気を辿りながら、フォーリヴィスの胸は高鳴る。
一体、何者が現れたのであろう?
ただ、強いだけではない・・・こんなにも柔らかくて温かい気を感じた事は両親や極近い親族に近い。
街道に向かう途中でフォーリヴィスの顔が露になっている事に気づいたジルドは主にやんわりと注意を促すのだった。
NEXT 第四章 第四話へつづく |
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