|
 |
|
 |
|
| ■ 『 第四章 第五話 』 文/水天宮拓仄 |
|
フォルシナにある神殿へ入ろうとした矢先、ルイ達一行は門を守る神官戦士に呼び止められ、
今は神殿の敷地内にある神官や神官戦士達の詰め所に内の小さな部屋へ通されていた。
さすがに王都にある神殿だった。
神官の詰め所と言えども作りの精巧さや置いてある家具の一つ一つをとっても
マリンやケンバートが知るクルタの神殿とは大違いである。
黒味がかった石床や壁は綺麗に磨かれて窓から入る太陽の光を反射させている。
小部屋の中央に置かれたテーブルと椅子も細かい細工が施されて、レースで編まれたテーブルクロスも上品な物だ。
四つある椅子にはマリン、ケンバート、カティスが座り、残りの一つは門の前で一行と話し合っていた若い神官が座った。
ルイとシルバーはフードを被ったままマリン達の後ろに立ち、目の前に座る神官の後ろには神官戦士が二人控えるように立つ。
「では、さきほどの”事情”をお聞かせください」
カティスに視線を向けると、両手をテーブルの上で組み合わせた。
この部屋へ通されるまでの短い時間の中でカティスは悩んでいた。
正直にルイとシルバーがエルフだと言うべきか、それともまったくのデタラメを告げるべきか。
マリンやケンバートに相談したくても、ますます怪しまれる事になりかねない。
「・・・」
躊躇を見せるカティスを見つめ、マリンの後ろに立つフードを被った二人を観察し、注意深くオーラを感じ取る。
やはり、顔を見せない二人からは普通の人間とは違うオーラを感じる。
門前では色々な人間が行きかう場所で錯覚かと思ったが、この小さな部屋で注意して感じ取ったそれは勘違いではない。
だが、貴族だと名乗った紫色の髪を持つ男が二人の事を話す事に躊躇しているのは怪しい。
二人から感じるオーラは力強く、どこまでも澄み渡り、背の高い方の人物は神々しさすら感じるのはなぜだろう。
「ここには我々しかいません。どんな事情があるにしろ、一度フードを取ってくださいませんか?」
できるだけ柔らかい表情を作り優しい調子で声をかけるが、フードを被っている二人は戸惑うように顔を見合わせるだけ。
マリンとケンバートもお互いを見やり、迷う様子を見せる。
「神官どの」
意を決したようにケンバートが唇を開いた。
カティスが驚いて視線をケンバートへ流すと彼は小さく頷いた。
「なにか?」
「この者達に何かを感じておられるのでしょう?」
王都にある神殿で神官を務めるほどの神官ならオーラを感じる事ができるはずであり、
人間とは異なるオーラを持つ、ルイとシルバーに何かしろの見解はすでに彼の中にあるとふんだ。
「ええ、確かに。そちらのお二方からは不思議なオーラを感じます」
その言葉を聞いて今度はマリンが唇を開いた。
「この二人に邪悪なものは感じられないはずです。それは貴方もわかりますよね?」
「わかります。ですが、正体がわからない者を此処はもとより、大神殿へ入殿を許すわけには参りません」
「では、正体を明かせば入殿と洗礼をお許し願えますか?」
マリンが必死に言葉をつむぎ出す様子を見て神官は心の中で頭を傾げた。
「神がお許しになれば」
「彼らのフードをとった姿をご覧になっても、決してお心を乱さないようにお願いします」
念を押すように神官をじっと見つめ、マリンは振り返ると小さく頷き合図を送る。
その合図と同時にルイとシルバーは自分の頭部を覆い隠していたフードを後ろへ払い、若い神官に視線を向けた。
「・・・!!エ・・・エルフ!」
若い神官、そして控えていた神官戦士も思わず後ずさりをし、初めて目の前のエルフに本能で恐怖し、全身が震える。
「な・・・なんて事を!あなた方はなという事をしてくれたのですかっ」
立ち上がった勢いで椅子が倒れたが、そのまま神官戦士と共に壁側へ寄り、ルイとシルバーから視線を逸らしながら叫ぶ。
「大丈夫です。この二人が邪悪な存在ではないと、さきほど貴方は認めたではありませんか」
先ほどまで会話の展開を見ていたカティスが椅子から立ち上がり、怯えた様子の神官に向かって笑顔を見せた。
「エルフは我々人間にとって害をなす者。それを神のお住まいに入れるわけにはいかない」
震える声でカティスを睨みつけながら一気にまくしたてた。
神官戦士はオーラを感じる力が神官よりも弱いため、目の前に現れたエルフにただ恐怖するだけで
持っていた棒にしがみつくようにやっとの思いで立っている。
「どうか落ち着いてください。彼らは、あの伝説に出てくるエルフとは別人です」
「別人かどうかなどは関係ない!すぐに此処から・・・いや、国から出て行け!災いを起こす前に出て行ってくれっ」
悲痛な叫び、恐怖と嫌悪の入り混じった感情をぶつけられ、ルイは黙ったまま身動きができなくなっていた。
なぜ、自分は初めて出会った人間にここまでの憎しみをぶつけられているのか理解ができなかった。
シルバーは肩を震わせ、瞳に涙を浮かべて一歩を踏み出して大声で叫んだ。
「わたしとルイは関係ない!人間だって森を破壊してわたし達を苦しめてるっ」
「よせ、シルバー!」
神官に詰め寄ろうとしたシルバーをケンバートが体で押しとどめ、目を伏せた。
やはり、正体を明かしたのは間違いだった。
ヴィスタム大陸に住む人間にとって、エルフは恐怖の対象でしかない。
自分やマリン、カティスは、たまたま恐怖を感じなかっただけなのかもしれない。
この神官や神官戦士の反応がごく一般的な反応だと再認識すると、気持ちが沈み、そして腹が立った。
今まで一緒に旅をしてきて、ルイもシルバーも自分達となんら変わりない事を知ったからだ。
「神官どの。どうか・・・落ち着いて話を聞いてください」
「・・・」
ガタガタと全身を震わせて神官戦士の肩に捕まり、今はルイとシルバーを凝視している神官は話を聞けるような状態にない。
詰め所の中にある小部屋とは言え、すぐ隣には神官や神官戦士が大勢控えている。
下手に揉め事を起こすと捕らえられ、最悪の場合はエルフのルイとシルバーは処罰される可能性も考えられる。
「し・・・司祭様を呼んでください」
やっとの思いで神官は一人の神官戦士へ指示を出し、その場にへたり込んでしまった。
しばらく待つと詰め所内に大きなざわめきが起こった。
それは小部屋にいた者にも伝わる。
「何ごとだ?」
さきほどよりは落ち着きを取り戻した神官が腰を浮かせて小部屋の扉を開けて司祭を待つ、
現れたのは司祭と司祭とは違う服装の二人の男が歩み寄ってくるのが見えた。
「へ・・・陛下!」
「陛下?」
思いもがけない言葉を聞いてカティスは目を丸くした。
まさか、王都にある神殿と言っても神聖王が現れるとは想像もできない。
だが、それはすぐに事実だとわかる。
「し・・・神聖王フォーリヴィス十二世陛下がおいでになる。皆控えよ」
小部屋の中にいる者に言い放ち、自らも床に平伏すると、神官戦士もそれに習う。
一瞬遅れてマリン、ケンバート、カティス、シルバーも床に膝をつき頭を垂れた。
だが、一人だけ立ったまま部屋へ近づいてくるフォーリヴィスを見つめているのはルイ。
慌てた様子でカティスがルイの袖を引き、床に膝をつかせると小声で耳打ちした。
「ルイ、あの方は神聖王です。私達に習ってください、いいですね?」
「・・・あの人が神聖王」
心ここにあらずの様子にカティスはルイの関節を曲げ、平伏しているような形にさせて自分もすぐに体勢を整える。
その直後に神聖王は部屋の前に立ち止まり、一行を静かに見つめた。
「この者達が大神殿へ行くと申すのだな?」
決して大きな声ではないが、澄みきった声が小部屋全体に響く。
「はっ。大神殿へ入殿する許可と洗礼を求めてここへ。ですが、エルフを連れているとは思わず・・・」
「エルフが神殿や大神殿へ入ってはならぬ・・・という決まりでもあるのか?司祭どの」
すぐ後ろに控えていた司祭を振り返りもせず、ルイとシルバーを見つめながらフォーリヴィスは問いかけた。
その言葉に司祭は少し間を開け、頭の中にある記憶を掘り起こすかのように視線を宙に泳がせる。
司祭と言えども本物のエルフに出会うのは初めてだった。
だが高位の司祭である彼は必死に心を落ち着かせ、なんとか平静を保つ事に成功していた。
神聖王と供の大将軍は特に動揺しているようには見えない。
「そのような規則はございません。まさか、先人達もエルフが神殿へ洗礼を受けにくるとは思わなかったのでしょう」
滲み出る汗を袖口でそっと拭いながら、ルイを見つめると底知れぬ恐怖が全身を震わせる。
「この者のオーラは澄んでいる。邪悪な存在ではなかろう」
「そのようですが、エルフを大神殿へ入れるなど・・・」
「お言葉ですが」
司祭の言葉をさえぎるようにマリンが膝を床についたまま顔を上げて唇を開いた。
強い視線で神聖王を見つめる。
「そなたは?」
「わたくしはカシム王国・クルタ村の神官見習いマリンと申します」
「マリン、よせ」
ケンバートが小さな声で窘めたが彼女は小さく頭を振って、神聖王を見つめ続けた。
「発言してもよろしいでしょうか?」
マリンの言葉にフォーリヴィスが頷く。
「この者達・・・ルイさま・・・いえ、ルイとシルバーに害意はございません。クルタから此処までの旅では
何度も助けられ、共に協力してフォルシナへ辿りつきました。わたくし達は大神殿へ行かなければならないのです」
「お前はルイ・・・と申すのか?」
呆然とした様子で平伏する金色の髪を持つエルフにフォーリヴィスは声をかけた。
その言葉は不思議とルイの耳にすっと馴染んだ。
「はい。僕はルイと言います」
いつもと同じ調子で受け答えをするルイにカティスやケンバートはハラハラしながら様子を窺う。
「ルイ・・・どこかで聞いたような名前だ。ジルド、覚えはないか?」
「いえ。私の記憶には、そのような名はございません」
「そうか」
しばらく考えこむ仕草をし、記憶を呼び覚まそうとするが何も思い出せない。
「陛下。この者達はいかがしましょうか?」
司祭が焦れたようにフォーリヴィスに問いかける。
紫色の左目と緑色の右目でルイを見つめ、シルバーを見つめ、マリン、ケンバート、カティスを見つめた。
「大神殿へ行く目的を詳しく余に聞かせよ。それ次第で許可しよう」
「陛下!」
フォーリヴィスの言葉に驚いた司祭が声をあげるが、ジルドが一瞥するとすぐに口を噤んだ。
神聖王の言葉は神の言葉と等しいとされている。
高位の司祭と言えども神の決定は覆す事ができない。
「この者達を宮殿へ招く用意を」
「はっ」
フォーリヴィスからの命を受け、ジルドは近くにいた神官戦士を宮殿へ使いに出した。
神聖王の住まう宮殿は神殿の裏にあり、フォーリヴィスがここに現れたのは偶然ではない。
フォルシナの街を見て廻って不思議なオーラを感じ、神殿へ立ち寄ったのである。
「珍しい客人だ。余に色々な話を聞かせてくれよう」
微笑を一行に向けてフォーリヴィスは小部屋を後にした。
NEXT 第四章 第六話へつづく |
|
 |
|
|
|