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| ■ 『 第五章 第一話 』 文/水天宮拓仄 |
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神聖王国フォーリーの首都であるフォルシナにも夜が訪れた。
数時間前の神聖王が宣言した通り、今宮殿の小広間には五人の客人を迎えていた。
旅人の中で神官マリンと神官戦士ケンバートは普段来ている装いに、いくつかの装飾を付け足し、
ルイ、シルバー、カティスは新しい衣装を殿から与えられて、だいぶ小奇麗な印象となっていた。
元々貴族だったカティスは真新しいローブをゆったりと身に着け、場慣れしているせいか落ち着いた様子である。
シルバーは長らく人間達と生活をしていたとは言え、ドレスなどは身に着けた事が無く、
床に這うような長い丈を持つドレスを不満そうに身に着けていた。
色はシルバーの髪に合わせたシルバーで、彼女のすんなりした肢体にぴったりとフィットしたタイプだ。
そして服装に関して無頓着なルイは薄緑色のチュニックを与えられ、侍女達が恐る恐る着付けてくれた。
チュニックと言っても大きく開いた首周りや裾には金色の糸で豪華な刺繍が施されている。
五人は神聖王から話を聞きたいという理由で、宮殿に留め置かれて晩餐に招かれている。
旅装を解き、このような場所に招かれた自分達に違和感を感じながら晩餐会の主催者を待つ。
小広間と言っても宮殿にあるだけあって、何十人規模のパーティを開けるほどの規模がある。
部屋の壁側には何人かの使用人が不安げな表情で、招かれた五人を見つめていた。
五人と使用人達の緊張がだんだんと色濃くなってきた頃、
ようやく神聖王フォーリヴィスが将軍と騎士団長を従えて小広間に姿を現す。
「お招きありがとうございます、陛下。このような機会を与えられて光栄でございます」
フォーリヴィスの前で頭を垂れて主催者に敬意を表すのはカティスである。
後の四人もそれに従い、挨拶をした。
「よく来てくれたな。そんなにかしこまらなくても良い、顔をあげなさい」
「はい」
優しい声音で告げる神聖王を前に、五人の緊張が少しほぐれたのか表情が柔らかくなる。
供をしてきたジルドが使用人に向かって軽く手を叩く、すると彼女達は部屋をいっせいに出て行き、
次に入ってきた時には料理や酒を手に戻ってくると、緊張しつつも自分達の仕事をしっかりとこなす。
それぞれが椅子に腰掛け、大きいテーブルの上には料理が次々と置かれていく。
最後にグラスへ酒を注いで使用人達は元の壁側へ戻り、晩餐会の世話をするべく見守っている。
重厚な作りのテーブルは十人がちょうど席につける大きさで、シンプルだが神聖王国らしいデザインだった。
フォーリヴィスがグラスを手に持ち、顔の位置よりやや上に掲げると全員がそれに習う。
「この出会いをヴィース女神に感謝する」
それが乾杯の合図となり、それぞれ掲げていた位置よりも少し持ち上げて乾杯の意を表した。
乾杯をした後にグラスに唇をつけるのが形式となっており、酒が飲める者はそのままグラスの中身を飲み、
酒が飲めない者は唇に酒を触れさせてグラスをテーブルに下ろす。
こうして、フォーリヴィス十二世が主催する晩餐会は静かに始まった。
見た事が無い料理を目の前にケンバートやシルバーにルイは戸惑ってしまい、なかなか料理に手をつける事ができない。
それにエルフは肉を食べる習性が無いので、メインの肉料理を見たシルバーの表情にはわずかな嫌悪感もある。
カティスとマリンは貴族出身という事でテーブルマナーも身につけており、優雅に食事を口に運んでいる。
見よう見まねでなんとか食事を始める三人を見つめながらフォーリヴィスも食事を楽しむ。
供をしてきたジルド、フルブライト、キリク、サリアも無言で料理を口にしている。
乾杯の合図から数分経過した時、フォーリヴィスが手を止めて一行に話かけた。
「昼間は大臣達が失礼したな」
申し訳なさそうな表情になり、軽く頭を下げるフォーリヴィスは謁見の間で見たものとは違い、年相応の青年だ。
この国の王位は先王が崩御してから継承される事になっているが、王族達の寿命は一般の人間達よりも短いと言われている。
まだ弱冠十七歳のフォーリヴィスも二年前に父親である先王が亡くなり、王位に就いたばかりなのである。
普通の十七歳は恋愛を楽しんだり、自分がやりたい事をする為に時間を存分に使える時期だ。
だが神聖王という立場にあるフォーリヴィスは、人生すべてを国や大陸を守るために使わなければならない。
謁見の間では自分の感情を表に出さず、無表情とも言える微笑を絶やす事は無い。
そのフォーリヴィスが表情を崩し、頭を下げたのだから騎士団長達は少なからず驚いたが表に出すような真似はしなかった。
「いいえ、陛下。わたくし達こそ申し訳ありませんでした」
「何を謝るのだ。神殿での司祭達の無礼や大臣達の態度で気分を害したのではないのか?」
マリンがグラスに注がれた水を一口飲み、フォーリヴィスの態度に恐縮したような表情を見せる。
自分達こそ多くの市民が神聖王との謁見を待っている中、順番を無視して謁見してもらっただけでなく、
こうして晩餐会に招かれて申し訳ないと言っているのだ。
「陛下のご意志です。恐縮する事はありませんよ」
魔法騎士団長のサリアが優しく微笑みながらマリンを見つめた。
サリアの視線に頬を赤らめて、思わず頭を下げたらぷっと吹き出されてしまった。
「可愛いお嬢さんね。私も昔は大神殿に仕えていたのよ。あなた達の事を親しい司祭様にお伝えしておきますわ」
「ありがとうございます・・・え・・・と」
「サリアよ。魔法騎士団を預かっています」
「サリアさま・・・」
サリアの横で無愛想な様子でルイから鋭い視線を外さない青年は剣騎士団の団長フルブライトだ。
エルフに対する感情は”恐怖”よりも”嫌悪”が占めている。
憎しみとも殺意と言っても過言ではない。
激しい感情をぶつけられる事にまだ慣れていないルイの視線は、料理の上を右往左往している。
なぜ自分が見知らぬ人間から、これほどまでに憎まれるのかがわからないのだ。
シルバーは理由を知っているが、ルイの記憶に関わる事だと言い詳しくは教えてくれない。
ただ「人間とエルフは仲が悪いのよ」と言っただけ。
すべての人間がエルフを憎んでいるわけじゃないとシルバーは知っているから、憎しみの視線にも耐えられた。
だが、謁見の間から続くフルブライトの憎悪の感情を不快に思っている事は確かである。
「ねぇ、騎士団長のお兄さん。食事の時くらい楽しい顔しなさいよ。美味しい料理が台無しよ」
怯えるルイを救おうとフルブライトに向かって軽口を叩いたが、シルバーを睨みつけ、やっとルイから視線を外した。
「フルブライト、客人に対して失礼ですよ。騎士団長として感情のコントロールも身につけなくては」
「・・・わかってる」
騎士団長達の中で一番の年長者であるキリクが若いフルブライトを諌め、紅一点のサリアが励ましたり慰めたり。
神聖王国の現騎士団長達は程よいバランスで保たれている。
適材適所の考えが即位したばかりの若い王の中でも把握されている証拠であった。
謁見の間よりも皆リラックスした様子で、食事しながらの会話も弾む。
どのような行程で旅をしてきたのか、シルバーが義賊をしていた話は物珍しい話にフォーリヴィスも興味深々である。
食事も終盤に差し掛かり、テーブルの上にはカットされたフルーツが並べられていた。
水分を多く含んだ赤いフルーツに手を伸ばしながらフォーリヴィスは表情を改めて口を開く。
「謁見の間で余が言った事が気になっているだろう?」
そう、神聖王フォーリヴィス十二世はルイやシルバーに懐かしいものを感じると言ったのだ。
そして、その理由も知っているような口ぶりで、こうして晩餐に招いたのである。
「はい・・・どうしてあなたに懐かしさを感じるのか」
神聖王に対する口の聞き方が十分でないルイに再びフルブライトが険しい表情をするが、
晩餐に来る前に客人達の言動は自由にさせたいとフォーリヴィス本人から言われていた。
今までみんなの会話を聞くだけだったルイが料理から視線を上げて、正面に座るフォーリヴィスを見つめた。
高貴なオーラの中に神秘的なオーラが入り混じっているのがわかる。
「なぜ人間である余と、エルフのそなたとシルバーが懐かしいと覚えるのか」
「陛下はご存知なのですね?」
シルバーもルイと同じ事をフォーリヴィスに感じていた。
だが、その理由はわからないままだった。
「それは我が王家の・・・神聖王国建国から現在まで、歴史そのものなのだ」
NEXT 第五章第ニ話へつづく |
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